別れた男の弟が気になって仕方がない1

タイトル変わりましたが続いてます。
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 恋人と別れてしまったので、時間のある夜などは同じようなセクシャリティを持つ者たちが集まる店に、チョイチョイと足を運ぶ。新たな出会いを求める気持ちもないわけではないが、以前から時折訪れていたその場所では当然知った顔と出くわすこともあって、単に落ち着くとか寂しさが紛れるとかただ楽しいとか、そんな理由が大半だった。
 そんな日々の中、店へ向かう途中の路上で、こんな場所に居るはずがない人物を見つけて足を止める。いや、居てもおかしくはないかもしれないが、だとしたら隣りに居るべき人物が違う。しかもなんだか様子がおかしくて、気づかないふりで素通り出来なかった。
「おい、久しぶりだな」
 声を掛ければ、こちらを見た顔が明らかにホッと緩む。逆に、隣りにいた男は邪魔をするなと言わんばかりに、眉を寄せて不快感を示してくる。
 知らない男は自分たちに比べれば背はそこまで高くないものの、ガッシリした体型から筋力はかなりありそうだった。年齢も多分、大学生の彼よりは自分の方に近いだろう。
「こんなとこで何やってんだ。というかまさかと思うけど、この人とそこ入る気じゃないよな?」
 そこ、と言って指した場所は所謂ラブホというやつだ。
「それは……」
 言い淀むから、ますます何かがオカシイと思う。まさか本当にこの男とラブホに入ろうとしていたのか?
「初めてでちょっと怖気づいただけだよな。ほら、大丈夫だから、とりあえず部屋入っちゃお」
 口を挟んできたのはここに居るべきではない男で、しかも腕を掴んで強引に連れて行こうとする。
「待って待って」
 慌ててそれを引き止める。
「えーと、あなたこの子の事、どこまで知って誘ってます?」
「どういう意味だよ」
 キツイ口調で牽制してくる相手にグッと身を寄せ軽く身を屈め、相手にだけ聞こえるような小声でこう見えてこの子まだ高校生ですよと囁いてやった。
「え゛っ……」
 驚く様子に、ああ良かったと思う。少なくともこちらの言葉に相手の年齢を疑う程度の親しさだ。もしこのままホテルに入るなら警察に連絡すると続けてやれば、相手はこれみよがしに大きな舌打ちを残して足早に去っていく。
 揉めなくて良かった。安堵で大きく息を吐いた。
「あの……」
「うん。聞きたいこと色々あるんだけど、ちょっと場所移動しようか」
 このままここで立ち話をしていたら、先程の彼らの二の舞いになりそうだ。ラブホに入る入らないで揉めているなんて思われたくない。
 促せばハイと応えておとなしく付いて来る。とりあえずの落ち着き先は馴染みの店を避けて、どこにでもあるチェーンのカフェにした。
「それで、なんであんなとこ居たの?」
「もっと落ち着いたとこで話がしたいって、言われて……でも、それがホテルとは思ってなくて……」
 自分の迂闊さに自覚があるのか、ゴニョゴニョと言い募る様は酷くバツが悪そうだ。あの日、兄と別れてくれと押しかけてきた時のふてぶてしさは欠片もない。
「つまりあの男と、落ち着いた場所で話をしたいと思ってたのは事実、ってこと?」
「えー……まぁ……ハイ」
 聞けば曖昧に頷かれたが、その態度も含めていまいち腑に落ちず、どうにも何かが引っかかる。
「だったら悪い事したかな。あの男、多分もうお前に声かけたりしないと思うよ」
「そういやさっき、なんて言って追い払ったんですか?」
「ああ、あれ。この子こう見えて高校生だから、このまま連れ込むなら警察呼びますよって言ったんだよね。信じてくれて良かった」
「高校生じゃないです」
「知ってるよ。でもまだ未成年じゃないの?」
 弟の大学入試がどうのと聞いたのはそう昔のことじゃない。そもそもこの子の兄と恋人として付き合っていた期間は二年弱で、そこまで長くはないのだ。
「まぁ別に未成年だからこんなとこ来たらダメとまでは言わないけど、なんで一人なのとは思うよな。あいつはどうしたんだよ。一緒に居たらあいつが黙ってないだろ」
「兄は、関係がないので……」
「関係ないわけ無いでしょ。弟その気になってるけど抱いてお前と別れる事にしていいかって聞いた時のあいつの剣幕、凄かったぞ? 大事な用事ほっぽり出してお前を俺の魔の手から救いに来ちゃうくらい、大事にされてるだろ?」
「いやあれは、あなたと別れたくないって意味で慌てたんですよね? だってまだ告白される前だったみたいだし」
 あれ? とまた何かが引っかかった。

続きました→

 
 
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