別れた男の弟が気になって仕方がない5

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 考えてみたらあなたが適任てのがわかった気がするのでと残して、勝手知ったるとばかりにさっさとバスルームへ向かった男を慌てて追いかける。きっとまた裸で出てくる気だろうと思ったからだ。
「今回はちゃんと湯上りにこれ使って」
 前回は使われずに終わったバスローブを、今回も手渡しながら念を押す。
「どうせ脱ぐんだから良いじゃないですか」
「良くないの。今回はお前出た後、俺もシャワー使うから。それともその間ずっと裸で待ってる?」
 バスローブを開いた上ですれば、ベッドの上にバスタオルを広げずとも行為の後にシーツ交換をせずに済むという理由もあったりするのだが、バスタオルを広げてするのは情緒がないとか、終えた後にドロドロになったシーツの上でまどろむのは嫌だとか、それらは完全にこちらの好みと都合でしかないのはわかっている。経験がない相手なのだから、事後の惨事を回避するためと説明すれば納得するかもしれないが、経験がないからこそ余計な情報は与えたくなかった。
「わかりました」
 こちらもシャワーを使うという言葉から、はなから抱く気なんてなかった前回とは違うということを感じ取ったらしい。
「じゃあ寝室居るから、上がったらそっち来て。部屋わかるよね?」
 頷くのを見届けてから脱衣所のドアを閉め、寝室へ移動して必要になるだろう物を一通り用意しておく。
 やがてきちんとバスローブを羽織って出てきた相手と入れ違うようにシャワーを浴びに行き、自分も色違いのバスローブを着て部屋へと戻れば、ベッドに腰掛けた相手がパッと頭を上げた。その膝の上には用意しておいたものの一つが置かれ、手には紙が握られている。どうやら説明書を読んでいたらしい。
「お待たせ。それ、見たことないものだろう?」
 言いながら短な距離を詰め、彼の隣に腰掛ける。意識が膝上と手の中のものに向いているからか、隙間をほとんど置かずに腰掛けたことへの反応はまるでなかった。
「勝手に開けて、すみません」
「いいよ。どうせ使う前に見せて説明するつもりだったし。というかこれを使うかどうかはお前次第だし」
 どう使うか検討付いたかと聞けば、確信はなさそうな曖昧な声で多分と返された。
 彼が手にしているのはデンタルダムで、オーラルセックスの感染症予防で使う、シート状のコンドームだ。ちなみにフェラ用のデンタルダムも出してあるが、そちらは多分普通のコンドームと思ったのだろう。なぜ二種類も用意しているのかと思われた可能性は高そうだけど。
「使ってみる?」
「使われたいとは、思いませんね」
「だよな。じゃあアナル舐めたりしないけど、でもこういうのあるってのは覚えといて? ちなみにラップで代用する奴もいる。でもこんなの使わないってのが大半だし、そのくせアナル舐めたり舐められたりが好きな奴も多い。だから性感染症のリスクがかなり高くなるんだってのも、頭の隅に入れといて」
 ちなみにこっちはフェラ用と、もう一つのデンタルダムを手渡してやる。
「こっちも口でする専用のスキンな。これも取り敢えずこういうのあるよってだけ覚えててくれればいいんだけど、せっかくだしこっちくらいは試そうか?」
 生ではしてあげられないけれど、普通のコンドーム越しのフェラとこっちとどう違うかの比較はさせてあげられるよと言えば、相手はなんとも妙な顔をしながら口を開いた。これからセックスしようというのに、ムードも何もない話をしている自覚はある。
「どこまでも、保護者なんですね」
「え?」
「俺に男を紹介してくれたのも、結局あなたが俺を抱くのも、恋人以外の男とセックスするリスクだとか感染症予防の知識を教えてくるのも、俺がなるべく危ない目に合わないようにって事でしょう?」
「まぁ、そうだね」
 抱くのはお前が魅力的だからだよとは思ったけれど、その魅力について言及されると困るので口には出さなかった。辛い恋を抱えている子を優しく甘やかして慰めるのが好きという性癖を知られたら、そこから連動して、彼の抱える想いにおよその検討がついてしまっている事にまで気づかれてしまいそうだからだ。

続きました→

 
 
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