いつか、恩返し1

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 同じ市内に住む同じ年の従兄弟とは、昔から色々と比べられてきた。親に煽られるままライバル視して競い合っていられたのはせいぜい中学までで、高校進学頃にははっきりと差がついていたし、その結果を受けてもまだ何やら色々と煽ってくる親のバカさ加減にはさすがに呆れたし、親同士の確執だかに巻き込まれていただけで、ずっと親にいいように踊らされていただけだったと気づいたのもその頃だったと思う。
 滑り止めもなくあっさり合格を決めて、塾にも行かずに高校生活を満喫しながら成績上位をキープし続けるような相手と、極力楽そうな部活を選んでほぼ幽霊部員を決め込み、塾に通って必死に勉強したって上位にかすりもしない自分とで、一体これ以上何を競え合えばいいというのか。
 いろいろ馬鹿らしくなって、高校一年の終わり頃、従兄弟にはこっそり謝った。親に煽られていた故の敵視とライバル視だったと認めて、負けを認めて、これ以上彼と何かを競う気はもうないと言った。
 勝手に突っかかって、てんで敵いもしないのにあれこれ競い合っていたのは自分だけとわかっていたから、謝ってどんな反応が返るのかわからなかったし、何を言われても仕方がないと思っていたのに、ホッとした様子で良かったと言われたのは何とも印象的だ。
 せっかく従兄弟で近くに住んでるのに、ずっと嫌われてて少し寂しかった。などと言いだした相手とは、その後多少ぎくしゃくしながらも、なんとなくの友人関係に収まっていた。
 あんなに大嫌いな従兄弟だったのに、それすら、親の刷り込みの影響というだけだったらしい。ちゃんと向き合ってみれば普通にいいやつだったし、笑えることに、彼と競うのを止めて彼に教えを請うてみたら、成績まで少し上がった。
 一緒の大学に行こうか、と言い出したのは相手の方だ。自分の中で、大学で親元を離れるのは既に決定済みだったけれど、将来的なことを考えたら奨学金の額はなるべく抑えらるだけ抑えておきたいと思っていた。
 彼が一緒の大学はどうかと言い出したのは、親からは下に弟がいるし長男なんだから地元の国立を狙えと言われていたけれど、もう一つ、従兄弟よりもいい大学にだったら進学させてやるとも言われていたせいだ。ただし、いい大学とは知名度なのか偏差値なのか、などとという定義を話し合えるような親じゃない。
 結果、同じ大学の同じ学部の同じ学科へ、入学を決めた。渋るかと思った親は、学費どころか生活費まで従兄弟と同額振り込むと言って聞かず、どうやら、親の見栄の方をえらく刺激してしまったらしかった。
 どこまでも従兄弟とその親とを意識し見栄を張る親を恥ずかしく思いはするが、正直、渋ることなく金を出して貰えるというのはありがたい。なんとなく、同じ大学を選べばこうなるだろうことを、従兄弟はわかっていたのじゃないかと思った。けれどさすがにそれを確かめることはしていない。
 当然、従兄弟にはこちらのレベルに合わせて貰ったわけで、大きな借りが出来てしまったけれど、相手はさして気にしてないらしいどころかなぜか大学まで全く同じ所へ通うことになった事実を、随分と楽しみにしているようだった。
 高校の卒業式、この恩はいつか必ず返すからと伝えれば、大げさだなと笑いながらも、その言葉忘れるなよとも言っていた。もちろん忘れてなんか居ないし、いつか彼が困った時にはなんだってしようとそっと心に誓ってもいる。
 そうして新しく始まった大学生活は、本当に毎日がとても楽しい。親の目がないというだけで、こんなにも心が軽くなるなんて、どれだけ抑圧されていたんだって話だ。

続きました→

 
 
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