いつか、恩返し32

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「だから、俺に執着しててほしかった?」
「そうだね。高校一年の時、お前に謝罪されて凄くホッとしたし嬉しかったのも事実だけど、どうしようとも思ったからね」
「そういや、ずっと嫌われてて寂しかったとか言ってなかったか、あの時」
「そんな事言ったんだっけ」
 絶対言ったと言えば、確かに言ったねと苦笑するから、決して忘れてしまったというわけでもなさそうだ。
「寂しいなんてなかなか感じられないよ、って」
 言ったばっかだけど、という言葉を遮るように、言われると思ったと言って、相手は苦笑を深くする。
「なんていうか、お前は昔っからやっぱちょっと特別なんだよ」
 一度言葉を区切り、少し迷った後で、嫌な話になりそうだけど聞くか、と問われた。
「嫌な話って、どんな感じの?」
「お前のとこの親子関係とか。俺が、昔のお前を、お前の親を、どう見てた、とか」
 嫌な話、と前置いたってことは、当然批判的な話をされるってことなんだろう。でも、批判されて当然のことをしてきたと思っているし、もしこちらが嫌な思いをするだろうからと飲み込んでくれていただけなら、この機会にちゃんと聞いておきたいと思った。
「あー、うん。言っていいよ。知りたい」
「じゃあ言うけど、従兄弟ってのもあったし、俺とは違う意味で、お前が親の犠牲になってる様に見えてたんだよ。うんと小さな頃は、なんで従兄弟なのに仲良く出来ないんだろ、とか、なんでこんなにライバル視されて嫌われてるんだろって思ってたけど、ある程度年齢が行けば背景にも目が行くようになる。お前が俺を嫌うのはお前の親が原因で、お前を俺にけしかけてるのもお前の親なんだって、わかっちゃうよね。正直言えば、悪いけど、俺はお前の親を嫌ってる」
「いや、それは嫌って当然だろ」
「実は、お前と同じ学部学科にした理由の一つに、お前の親がうちの親に張り合って、学費も生活費もきっちり出してくるの見越して、ってのもある。お前んちの方が経済的にキツイのもわかった上で」
「ちょ、待って。つまりそれ、うちの親への嫌がらせも含んでた、とかいう話?」
「まぁ、そういう話だね」
 あっさり肯定されて思わず笑った。理由なんてどうだっていい。それによって、自分が快適な大学生活を送れた事実は変わらない。
「俺のために同じ学部学科にしてくれたと思ってたけど、まさかそんな理由も込みだったとは思わなかった」
「お前のために確保した学費と生活費だよ。嫌がらせって面もあった、ってだけで」
「うん。大丈夫。わかってる。というか、俺、もしかしてお前に相当同情されてたりした?」
 さっき親の犠牲になってるように見えていた、と言っていたし、その可能性はありそうだ。優越感と見下しでお前のことを可愛く感じる、なんてバカ正直に言ってしまう自分とは違う。同情してる事実があっても、こちらが不快に感じるだろうと、それを隠しきってくれていたのかもしれない。
「そりゃ、同情が全くなかったわけではないけど。お前が親に逆らえなくて、必死に俺を追い抜こうと足掻いてるの、可哀想だなって思うこともなくはなかった。でも、結局は俺自身、それを利用してた部分があるからさ」
 さすがにそれを同情と呼ぶ気にはなれないよね、と続けたということは、もっと違う別の感情があるらしい。
「同情じゃないなら、何?」
「お前に対して感じてたのは、どっちかというと親近感」
「親近感?」
「そう。同一視というか、お前のとこの親子関係とうちの親子関係はだいぶ違うんだけど、それでも、お前を自分に近い存在として見てた」
 さっき、謝罪された時にどうしようとも思ったって言ったろ、と言うので、言ったなと返せば、お前が自分自身で親と決着つけて開放されてしまったら、俺だけ取り残されるのかって思ってさすがに焦った、などと言い出すから驚く。記憶の中、そんな様子が欠片だって見つからないからだ。

続きました→

 
 
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