観念してそっと相手の背を抱き返せば、慰めたいのか宥めたいのか、優しく背を撫でられる。いまさら遅いと思うのは、気持ちが落ち着くどころかますます涙が溢れるせいだ。
みっともない姿を晒している羞恥と、こんな目に合わせる相手への怒りと、そのくせ嬉しい気持ちがあることに、頭の中が混乱している。色んな気持ちがぐちゃぐちゃに混ざりあって持て余している。
「う゛ぅ……」
止められない涙に、悔しさのあまり唸った。高校を卒業するまでの三年ちょっとの間にも色々あったけれど、ここまで派手に泣いたことなんてもちろんない。
背を撫でていた手が首に触れて、頬へと移動しかけた所で、顔を相手の胸に押し付けた。
泣き顔を覗き込まれるなんて冗談じゃない。今度はこちらからギュウと相手にしがみつけば、頬に触れかけた手がまた背に戻って、あやすみたいに背中をトントン叩かれる。
そんな中、相手がふふっと笑う気配がして、またしてもぎくりと身を固めてしまう。
「ああ、ごめん。お前可愛すぎて、つい」
そう謝る声も笑いを含んでいるし、気が済むまで泣いていいからと続く声もなんだかひどく甘ったるい。なんだこれ、と思うと同時に相手を突き放していた。
背を抱く腕はあっさりと解かれて、ようやく体を離して見上げた相手の顔は、先程までと違って随分と穏やかだ。穏やかで、嬉しそうで、でも困った様子も混じっている。
「な゛にっ」
なんでそんな顔なの、と思いながらもどうにか声を絞り出し睨みつけてやる。笑われた衝撃と、相手の表情の不可解さに唖然として、どうやら涙はひっこんだらしい。それだけはこの状況に感謝した。
「お前があんまり可愛いから、期待しそうだよ。ってだけ。お前泣いてるのに笑っちゃったのは、ほんと、悪かった」
悪かったと言いながら、ベッドヘッドに置いてあるティッシュの箱を取りに行く。
それを差し出してくれる顔は、やっぱりそこまで申し訳無さそうではなかった。だって仕方ないだろとでも思ってそうだ。そこにもきっと、お前が可愛いから、という理由が隠れていそうな所が気にかかる。
なんだかなぁと思いながら受け取ったティッシュで、涙の跡を拭いて鼻をかんでから、一度大きく息を吸って吐いてみる。気持ちはだいぶ落ち着いていた。
「で、俺が可愛いと、何を期待、するの」
聞きながらラグの上に腰を下ろせば、ほぼ正面に相手も腰を下ろす。二人の間に折りたたみの小さなテーブルはないけれど、でももうそんなのはどうでも良かった。というよりも、抱きしめられたり泣いたりしてたらどうでも良くなった。
「それより先にお前の今の悩みが聞きたい。職場で何かやっかいな問題でも起きてる?」
「仕事は、まぁまぁ順調、と思う」
「てことは、お前の不調とか悩みとかってのは俺絡みで、だから俺には相談したくなかったってことでいい?」
「そ、れは……」
一瞬言葉が詰まってしまったけれど、すぐに、今更かなと思う。どうせ相手はもう既に、それを確信しているだろう。
「まぁ、そう」
「俺のことで何を悩んだのか、どうしたいと思ってるのか、自分の口で俺に相談する気はある?」
言いたくないし、相談したくないし、放って置いて欲しい。そう即答できなかったのは、追い詰められて泣かされたのに、それでも抱きしめてくれる相手の腕が嬉しかったのを自覚しているせいだ。
でも自分の口からあれこれ言えるのかといえば、それはそれで無理だとしか思えない。だって……
「相談するの、怖いよ」
相手がどんな反応をするのか、何を思うのか。相手が喜んでくれないとわかっている事を、わかっていながらしているのだと、自ら告げるのはあまりに勇気がいる。
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