溢れる気持ちは音にして口からも吐いていたから、泣いてしまった理由は相手にも伝わっている。ただ、投げやり気分が続いているからか、泣き顔を晒しても先ほどみたいな悔しさはないし、みっともないと恥じ入る気持ちさえもわかない。
どうでもいいし、どう思われてもいいし、どうしたいのかもわからなくて、気持ちが揺れるに任せて涙を流す。
そんな中、目の前の相手が随分と困り果てた顔をしていることに気づいて、申し訳ないと思うより先にふふっと笑いが漏れてしまった。だから困るよって、言ったのに。
先程も使ったティッシュの箱から数枚引き抜いて涙を拭い、息を整えてから口を開いた。
「俺の勝ち」
頑張って作った笑顔は口の端が少し震えたけれど、吐き出す声は震えなかった。
「は?」
「困らせてみろって、言ってたじゃん」
「勝負はしてないだろ」
「でも俺の勝ち」
言い張れば、はぁとため息を吐いてから、いいよそれでと認めてしまう。してない勝負の勝敗なんてどうでもいいって感じだったが、負けを認めるなら、これ以上は踏み込まないで欲しいと心底思う。
「じゃあ、もう、いいよね」
「いいって何が?」
「敗者はおとなしく帰ってって言ってるだけ」
「帰るわけないだろ」
「なんで?」
そう簡単に帰ってくれるわけがないのはわかっていたから、努めて冷静に、短な言葉で問い返す。付け入る隙はないのだと、少しでも思わせたかった。
「なんで、って、ここで放り出して帰ったら、お前、俺が出てって寂しいだとか、俺を好きって言ったこと、全部なかったことにしそうだし」
「ダメなの?」
「ダメっていうか、嫌なの。何度だって言うけど、俺はお前が俺に対してそういう気持ちを抱いてくれたことを嬉しいって思ってるから、なかったことにされたくないよ」
「でも俺、嬉しいって言われるたび、嬉しいならなんでもっと早く教えてくれなかったのかって責めるし、泣くし、困らせ続けると思うんだけど」
彼はいいよって言うのかも知れないけれど、そんなのは自分が嫌だった。
本当は、相手の気持ちなんて知ったこっちゃないと、言えたなら良かったのだけれど。なるべく短な言葉で、付け入る隙を見せないようにと思っているのに、なかなか上手くは運ばない。
「それだけどさ、言い訳というか、俺の言い分、聞く気ない?」
「言い分?」
「言った所でお前が納得するかはかなり微妙な話だけどな。ただ、俺を好きになってくれたら嬉しいよって、高校生のお前相手に言えなかった事情くらいは知ってて欲しいんだけど」
「言えなかった事情……って、高校生は子供だから、みたいな話?」
「それに近い話ではあるかな」
高校生は子供だからエッチなことはしないし出来ないと言われ続けた日々を思い出して、正直、あまり聞きたくないなと思う。だってきっと、彼の言葉はどうせまたいつも通り正しくて、納得できないと喚いた所で、相手の強い意志を前に諦め折れるしかないのだ。
「いいよ。話して」
それでも頷き促した。これ以上踏み込まないでと思っているのに、結局こうして許してしまう。
もともと疑問に思っていたことでもあったし、聞いたら彼が言う嬉しいの言葉をもっと信じられるかも知れないし、なぜもっと早く教えてくれなかったと責めて困らせずに済むように、なれるならばなりたかった。
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