理解できない30

1話戻る→   目次へ→

「好きになってくれって言ったら、好きになってくれるのがわかってたから、だよ。さっきお前自身、言ってたろ。礼として差し出すために、張り切って想いを育てたはずだって」
 そんなことはして欲しくなかったから言えなかったと言う相手の言い分そのものは、そこまでわからなくはない。納得がいかないどころか、やっぱりと思ってさえいる。
 だってちゃんとその解に辿り着いている。
 彼が求めているからと差し出す好きの言葉では不十分、という解にはすぐに辿り着いたし、彼が求めているからと育てる恋情を望まれていないことも、喜んでくれないことも、わかっていた。
 だからこそ、まさに今、彼の想いに応えたがって、彼への好意を恋情へと育てようとしている自分を、嬉しいなどと言って受け入れようとするのかが、わからない。理解できない。
「わかんないよ」
「やっぱ納得できないか」
「好きになってと言わなかった理由は、わかった。というか多分知ってた」
「知ってた?」
「だって、もう一度抱いてくれたら、抱かれながら好きって言えるよって言ったけど、そういう話じゃないって抱いてくれなかったでしょ。だから、好きって言ってって言われて好きって返すんじゃ嫌なんだろうってのは、わかってた。それと一緒で、好きになってって言われて好きになるのもダメって……あっ」
 そこまで言って、何かが閃いた。
「どうした?」
「えっと、もしかして、好きになってって言われてないのに好きになるなら、それは嬉しいって話?」
「まぁ、そうだな」
「えー……」
「不満そうだな」
 めちゃくちゃ嫌そうに顔をしかめてしまった自覚はあったし、苦笑されるのも仕方がない。
「いやだって、さぁ……」
 わかったことが増えたのに、理解は出来たと思うのに、ちっともスッキリしていない。
「何が引っかかってる?」
「わかんない。なんか、色々」
「ゆっくりでいいよ。この際だから気になることは全部吐き出しちゃえよ」
「今? まだこれ続くの?」
「そう。続きはまた来週、なんて俺が待てない」
「なにそれ」
「言葉通りだよ。でも、ちょっと休憩入れようか」
 お茶いれてくるからテーブル出しといてと言い残し、さっさと部屋を出ていってしまう。言われたとおりに小さな折りたたみテーブルをいつもの位置に出しながら、長い一日になりそうだと諦めのため息を一つ吐き出した。
「引っかかってること……」
 お茶をいれてくると言って出ていったのは、一人で考える時間をくれたと思っていいんだろう。テーブルの上にだらしなく身を投げだして、というよりも、小さなテーブルを抱え込むように身を預けて、何が気になっているのかを考える。
 好きになってと言われて好きになるのはダメで、好きになってと言われずとも好きになるなら嬉しい、という彼の言い分を、彼らしいと思いはするが、そうなんだと素直に飲み込めはしかった。彼の中では大きな違いあるんだろう、とは思うが、自分自身の実感として、そこにそこまで大きな差があるように思えないからだろうか。
 結果として、好きな相手の中に好きという想いが育つなら同じに思えるどころか、好きになってと言って好きになって貰うほうが明らかに手っ取り早くて楽そうだ。なんでそんな回りくどいことをする必要があるのかわからなかった。
 それに、確かに好きになって欲しいと直接的に言われたことはないが、好きだと返らない相手を抱く気はないと突き放されたせいで、彼はこの体よりも彼を想う恋愛感情が欲しかったのかもしれないと認識した部分は確実にあると思う。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です