それって結局、誘導されたようなものじゃないのか。言われてないけど、言われたのと大差ない。そう思ってしまうから、言われずとも好きになるなら嬉しいという言葉を、受け入れられないのかも知れない。
更に言うなら、もっと早く恋情を育てられていればきっと別の未来があったのだろう、という後悔に似た気持ちは、今も胸の奥に重く沈んでいる。
そういう想いが色々と重なって、結果、好きになってと言いたくなかった理由にはそれなりに納得がいくのに、さっさと言って欲しかったのにと荒れる気持ちが抑えられないんだろう。多分。きっと。
そんなこちらの疑問だったり不満だったりに、全部、納得がいく答えが返ってくるんだろうか。それは必要なことなんだろうか。
今もまだ好きだと言ってくれたし、好きだと返して、その好きを彼が喜んでくれる好きに変えて差し出したいのだと言ったら嬉しいと笑ってくれて、それを嘘じゃないと言い張っているのだから、もうそれで良くないか。自分たちは両想いってことにして、彼がこの家に居ないのは寂しいと言って一緒に過ごす時間を貰って、もう一度抱いてもらえる機会を狙えばいいんじゃないのか。だってさっき、今からでも一緒に住みたいとか、もう一度抱いて欲しいとか、そういうお願い混じりの相談も、こちら次第で検討はすると言っていた。
どうしたらまた一緒に住めるだろうとか、もう一度抱いてもらえるんだろうとか、こちら次第で検討するといったこちら次第ってのは、どんな状態や言葉を指しているんだろうとか、そんな事を考えだした頃、ようやく彼がお茶とお茶菓子を持って部屋に戻ってきた。
「遅い」
「てことは、考えまとまったのか?」
そう言いながら、体を起こして空いたテーブルの上に降ろされたお盆の上には、近所と言うにはちょっと離れた場所にある、お気に入りの洋菓子店の、お気に入りのケーキが乗っていた。
「わ、凄い。え、まさか買いに行った?」
「まさか、買いに行ってきましたよ。お前に時間が必要だろうと思ったから。で、引っかかってた色々はどうなった?」
「んー……まぁ、まとまったというか、どうでも良くなったと言うか」
「は?」
どうでも良くなった、なんて言われるとは思わなかったらしい。
「どうでも良くなったって、どういう方向で?」
「どういう方向?」
少し焦った様子で問われたけれど、意味がわからない。
「お前が今日、俺に話した気持ちをなかったことにされたくない、って言ったろ」
「ああ、うん。それをなかったことには、してない。そういう全部投げ出しての、どうでも良くなった、じゃあないよ」
「なら、何がどうでも良くなったって?」
あからさまにホッと安堵されて、これきっと期待していいんだよねと思う。一緒に住みたいとか、抱いて欲しいとか、今すぐ口に出して言ってみたい気持ちがわいてしまう。
こちら次第で検討する、としか言われてないのだから、早まったらダメだとグッと気持ちを抑え込んだ。今返す言葉は、それじゃない。
「もっと早く、教えてくれればよかったのにって、恨む気持ち?」
「恨んでたのか。てかそれ、俺が言ったことが納得できたってことでいいのか?」
あんな嫌そうな顔見せてたのにと言われて、納得できたわけじゃないけどと返す。
「でもなんか、納得しなきゃいけないことでもないような気がしてきたというか、好きになっていいなら、いつか俺に育つ気持ちをちゃんと喜んで受け取ってくれるなら、もうそれでいいかなって」
「あー……そういう方向」
「うんまぁ、そういう方向だね」
そうか、と言って頷いたから、これから先のことを話すのかと思ったのに。
「で、お前が引っかかってることはなんだった?」
「は? それ聞くの?」
だってそれはそれで知っておきたいだろと、平然と言い放つ相手のことを睨みつけた。
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