理解できない35

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 結論から言えば、彼との交際がスタートした。きっとまだ同じ気持ちの好きではないけれど、気持ちを育てるのは付き合いながらで構わないらしい。
 恋愛感情と呼ばれる想いが未だよくわからない自分を、彼はわかってると言ったし、ゆっくり育てればいいと言ったし、いつか自覚する日を楽しみにしていると笑った。笑って、とりあえずデートからと言って、さっそく翌日の日曜に映画を見に連れ出されもした。
 家を出てから全然戻ってこなかった彼が、ほぼ毎週末顔を出すようになったのに、おじさんもおばさんも何も言わずにあっさり受け入れている。こちらが調子を崩していたのは事実で、様子がおかしいと彼に連絡を入れたのはどうやらおばさんらしいし、今のこの状態はアフターケア的なものと認識されているのかも知れない。
 まぁどうせ自分が知らないだけで、彼との間で話が済んでいるってだけだろうけど。
 恋人って関係を得て変わったことは結構あった。一緒に出かけることが増えたし、明らかに一緒にいる時の距離が近くなった。
 自分が使っている部屋はこの家の長男が使っていた部屋で、年に一回戻ってくるかどうかの長男が泊まっていく時だって、次男である彼の部屋に来客用の布団を持ち込んでいたのだけれど、彼が家を出たからと言って彼の部屋がなくなったわけじゃない。だんだん物置代わりに使われ出してるとは言っているが、週末に戻ってきても彼が過ごすのはダイニングかこの部屋だったし、二人だけで過ごす部屋の中では彼から触れてくれることも多かった。
 以前は差し入れのお礼にと、部屋を出ていく前にこちらからギュッと抱きしめる以外の接触なんて殆どなかったし、あったとしてもこちらから仕掛けるばかりだったし、確かに風呂場に突撃して背中や頭を洗いあったりもしたが、そんなことが出来る機会は滅多になかったから、彼から何の躊躇いもなく伸ばされる手には正直戸惑いも多い。
 ただそれ以上に嬉しくもあって、彼と過ごせる時間が待ち遠しい。次に会える日を楽しみに待ってしまう、という状況だけでも、自覚するたびなんだか不思議な気持ちになった。
 お礼ならハグがいいとか言うだけあって、スキンシップが好きなのだと言った相手は、保護者だった時にはどうやら相当自制していたらしい。彼側から触れることを許したら、なし崩しで手を出す可能性があっただとか、これくらいならって思いながらエスカレートしていくのが怖かっただとか、そんなの全く知らなかった。気づかなかったし、欠片も考えたことがない。
「気づかれたら絶対そこ狙って俺に手を出させようってしてたろ」
 背後から耳元に落とされる声と息とが気持ちいい。
「それはするね。というかそれをこの状態で教えるってことは、誘惑していいよってこと? それともこのままなし崩しで手を出されることを期待していいってこと?」
 現在彼の腕は自分の腹に回されていて、つまりは座る彼を椅子代わりにしながら、彼が持ち込んだタブレット端末で一緒に動画を見ていた。他愛ない感想を言い合う中で、彼の口からほろりと溢れてきた、スキンシップが好きの言葉と、以前はかなり自制していたという話だった。
「どうしようか、とは思ってる」
「どうしようかって?」
「んー……恋愛初心者なのに行為慣れしてて、既に一度抱いてる子相手に、どう二回目を誘うのがいいのかを?」
「いつでも歓迎するけど」
 言えばすぐに、それは知ってると返される。
「でも思っていたよりは積極的じゃないんだよな」
「恋人になったんだから抱いてよって言われるはずだった?」
「言いそうだと思ってたし、どっちかというと、どう躱すのがいいかを考えてた」
 今度はこちらが、知ってるよと返す番だった。

続きました→

 
 
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