理解できない42

1話戻る→   目次へ→

 いつだったか、早くもう一度抱きたいと思っていると、言われたことがあったはずなんだけれど。こちらの気持ちが育つのを楽しみに待っている、とも。
 でもそう言われたのは一度だけだし、今も同じように思っているとはとても思えない。
 気持ちが離れたわけでもなさそうだし、不満がある様子だってないし、多分間違いなく、交際は順調に進んでいるはずだ。なのになんで、抱きたいと言ってくれないんだろう。抱きたいと思っていたはずの気持ちは、一体どこへ行ってしまったんだろう。
 気にはなるものの、はっきりと問い詰めるべき問題なのかがわからない。だって不思議には思うけれど、不都合は特になかった。むしろ抱きたいと言われない方が都合がいい面も多い。
 なんせ、抱かれるには何かと準備が必要だ。いつ相手がその気になってもいいように、常に体を準備しておく、なんて態度を相手が望んでいないのは明白だったし、そうやって準備をしてしまったら、せっかく準備したんだから抱いて欲しいと考えてしまうだろう。そんな理由で抱かれたがるのだって、絶対に望まれていない。
 つまり、そう思って体の準備なんて全くしていないから、いざ抱きたいと言われたら、慌てて体を慣らす羽目になってしまう。今日は抱きたい気分だ、なんていきなり言われたって断るしかないだろうから、抱きたいなんて言い出さないなら、それはそれでありがたい事じゃないかとすら思えてくる。
 でももし、相手もそれをわかっていて、気持ちが盛り上がってこのまま抱きたいって思っても、どうせ無理だと口に出さずに居るだけだったら……
 いやでも、このまま抱きたい、みたいなギラついた様子は見た記憶がない気がする。触れ合う時の相手は、だいたいいつも、満足げで楽しげで、甘やかな優しい顔をしていると思う。
 それとも、見逃している可能性はあるだろうか。そういえば抜き合うような時はいつも、安心しきって相手の手に心ごと体を委ねてしまうし、素直に喘ぐ方が相手が喜ぶようだから、相手のくれる快楽に浸ってばかりで、相手のことを注意深く観察するなんて真似はしたことがなかった。
 しかし、そう思って相手の様子を探ろうとしたら、あっさり気づかれ、今日は気が乗らないのかと問われてしまった。
「そういうわけじゃ……」
「じゃあまた、何か企んでる?」
 今回は何? なんて聞かれたって、正直に言えるわけがない。まぁ抗った所で、気づかれた以上は聞き出されてしまうんだろうけれど。でもそう思ったからって、こういうわけでと素直に事情を言えるかは別問題だ。
「というかさ、なんですぐ、何か企んでるって思うの」
「いやでも実際、何か企んでんだろ?」
「だからなんでそう言い切れるのって聞いてんだけど」
「何も企んでなかったら、というか思い当たることがなかったら、お前はこういう反応しないから」
「こういう反応って?」
「教えるわけ無いだろ。意図的に反応が変えられるかはわからないけど、もし今後、出来るようになられると俺が困る」
 気づけないと大事なものを見逃しそうだと続けた相手の手が頬に添えられ、すっと顔が近づいてきて、ちゅっと唇に軽い音を立てた。
「で、どうしたら教える気になる?」
 頬に添えられていた手が頭に移動して、あやすみたいに何度か撫でられる。髪を梳いて頭皮を滑る指先が気持ちいい。
「企みっていうか、」
 促されるまま口を開くものの、どこまでなら口に出せるかを瞬時に考える。だってまだ迷っていた。抱きたい気持ちがどこへ行ってしまったのか、こちらが気づいてないだけで今も隠し持っているのか、直接問いただしていいのかどうか。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です