ないわけないだろと、やっぱり困ったような苦笑を浮かべながら言って、ゆっくりと立ち上がる。釣られるように見上げながら、胸の奥がざわつくのを感じていた。
抱きたい気持ちが今もまだあるとはっきり言われたのだから、安堵するべき場面だろう。なのにこのあと何を言われるのか、何をする気で立ち上がったのか、不安のほうが強く胸の中に広がっている。
気持ちがあると認めたからといって、抱いてくれるわけではないんだろう。そうわかっていつつも、不安を振り払うように口を開いた。
「……っなら、」
「抱かないよ」
さっさと抱いて欲しいと続けるはずだった言葉を遮るようにきっぱりと宣言されて、どうしていいかわからなくなる。気持ちを強く持ってこちらの意思を少しでも通さなければと思うのに、困ったような苦笑ばかりを見せているくせに、この件に関して相手に譲る気は一切ないらしい。
「多分うまく伝わらないというか、理解して貰えそうにないけど、お前の言うお前の価値は、お前が成長して見た目の子供っぽさをなくしても変わらないよ。少なくとも、俺にとっては。それに、何度も言ってるけど、子供相手にえっちなことするチャンスなんて、全く欲しいと思ってない」
「なんで? エフェボフィリアじゃないの?」
「えふぇ、え? なんだって?」
聞いたことがない単語だったんだろう。単語を繰り返すことすら出来ないらしい。
「エフェボフィリア。思春期の男女に向かう性的指向、らしいよ」
「なんだそれ。聞いたことない」
「ちなみにもっと小さな子ども相手にエロいことしたいのはペドフィリア」
眉を寄せて嫌そうにしながらも、それは聞いたことがある気がすると言ってから、どっちも違うと否定してくる。
「自覚がないだけじゃなくて?」
「少なくともお前以外の子供相手にそんな気になったことないって」
「あー……なら、誘惑してごめんね? そんな気はなかったというか、あまり近づいて欲しくなかっただけなんだけど、対応間違ってたのは認める。冷たくあしらわれたいタイプって、もっと早くに気づけてれば、もっと愛想よくしてたんだけど。でもさすがに今更だよね」
「いや待て。冷たくあしらわれたいタイプってなんだそれ。そんな性癖もないから、俺のためにって塩対応始めたりすんなよ」
「え、じゃあ、何が原因で俺にそんな気になったっていうの?」
「そんなの、お前の全部が気になって仕方がなかった、ってだけだよ。子供が好きだとか、塩対応にトキメイたりはしないけど、お前の見た目が年相応よりも子供っぽいと言うか発育が悪そうなとこは心配だったし、うちの親には愛想良かったけど無理してるように見えたし媚びてるようにも見えた。俺を避けようと冷たい対応だったのはわかってるけど、でも放っておけないと思ったから、気づかないふりして構い倒してただけだし、正直、俺が持ち込む菓子類を断れずに食べてるのみて少しホッとしてた」
そこまで言って、何かに気づいた様子で、ああそうかと納得げに頷いてみせる。
「そうだな。強いて言うなら、俺が貢ぐ菓子類を、なんだかんだ受け取ってくれたのが、お前相手にそんな気になった一番の原因? って気がしないこともない」
「なにそれ」
疑問符がついている上に、気がしないこともない、なんて随分とあやふやだ。でも口に出したことで相手の納得は深まったらしい。
「お前が成長期に入って、これからもっと大きくなるってなら、俺はむしろ嬉しいよ。お前が年相応に育って、大人の男になってくれたほうが、俺にとってのお前の魅力も価値も上がってくよ」
何を言い出しているんだろう。本気だと思えるような優しい笑顔に戸惑っていると、頭の上に手のひらが乗ってグリグリと撫でてくれたが、そんなことをされたって戸惑いが深まっていくだけだった。
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