ちゅっちゅとまた顔のあちこちにキスが落ちて、その合間にまた謝られてしまい、なんだかソワソワする。だって痛いことや苦しいことを強要されたわけじゃないし、相手のせいで泣いてるわけでもない。
ヤダヤダ言いながら泣いていたら、相手を責めるみたいになるのはわかっている。わけのわからない理由だったり、上手く行かない情けなさだったりで泣いてるこっちこそ、謝るべきだと思うのに。
「ほんとうに、」
「待って」
再度ごめんと続きそうな言葉を聞きたくなくて止めてしまった。
「あやまること、されて、ない」
「いや、したよ」
「してないっ」
譲らない気持ちでキツめに言葉を吐けば、相手も譲る気がないのか、したんだよと繰り返されたけれど、でもその声は随分と弱気だった。というよりも、申し訳無さが伝わってくるような声音だった。
「じゃあ、何、したの」
「さっき、無理やり笑おうとしたろ。あんな顔、させるつもりなかったんだよ」
「上手く笑えなかったこと?」
あからさまに相手の動きが変わったのだから、あれが原因と言われればわからなくもない。でもあれだって結局、上手く笑えなくてごめんなさいって、こっちが謝るべき部分な気がするんだけど。
「違う。笑おうとしたこと」
ヤダヤダ言いながら泣いてたらダメだって思ったんだよな、という確認に、まぁそうかもと思いながら頷いた。
頭の中で笑えって声がしたから、なんて言われて理解されるとも思わない。それどころか、上手く行かないセックスも笑っときゃなんとかなると、染み付いた過去の所作がとっさに出てしまっただけな気がするから、そんなの正直に言えるはずがなかった。
いやでも、もしかしなくても、気付かれているのかも知れない。そうやってごまかそうとしたことも、つまりは上手く行かないと思いながら抱かれていたことも、既に筒抜けなんだろうか。
「金銭も絡んでない、礼を返すためのものでもない。これは恋人同士のセックスなんだから、笑ってなきゃなんて思わなくていいし、俺にいい思いをさせてやらなきゃとも思わなくていいんだ」
ああこれ、やっぱ伝わってそう。それに、そんな風に思わせるセックスしてごめん、だったなら、ちょっとわかってしまう。
「それに、お前が感極まって泣いてるのも、感じすぎてヤダヤダ言うのも必死に喘ぐのも、俺からすりゃ全部かわいい。これが恋人って関係が上手く行ってなきゃ見れない姿だってのは、身を持って知ってるんだ。だから心配しなくても、お前が何か頑張らなくても、俺は充分過ぎるくらいいい思いしてるよ」
「あ、あのさ、」
「うん、何?」
「前にした時より、いい?」
「当然だろ」
即答されたし、嘘でもなさそうだ。正直に言えば、穴の具合も聞いておきたいところだったけれど、前回よりいいセックスが出来てるって断言されたからもういいかと思う。
「ほんとに、気持ちよすぎるって、みっともなく喘いでても、いいの?」
「いいよ。可愛いし、愛しいし、もっといっぱい見たいって思うよ」
「そ、っか」
なら良かった。
「あの、また、泣いちゃうけど、」
「それも可愛い。辛いのとか痛いの我慢して泣いてるなら困るけど、これはそうじゃないだろ?」
ホッとしたらまたじわりと浮かんで来てしまった涙を、相手の指がそっと拭っていく。
「ん、違う。なんか、なんかよくわかんないけど、涙腺ぶっ壊れたみたいで」
「いいよ。お前にわかんなくても、俺は多分わかってるし」
なにそれズルい。
思ったまま口に出せば、相手は少しおかしそうに笑いながら、好きな相手とするセックスが初めてだからだろと教えてくれた。待ってた甲斐があったなとも。
「好きな人とする、初めてのセックスは泣いちゃうものなの?」
「俺だって今、泣きそうなほど嬉しいと思ってるよ」
相手が泣いてないのは、これが初めてじゃないからなのか。というほんのり残念な気持ちとともに聞いてしまえば、全く泣きそうではない柔らかな笑顔で言われてしまったけれど、少なくとも嬉しいは事実だろうと思えたから、ちっとも泣きそうじゃない部分は不問にしておこう。それよりも。
「じゃあ、さ」
続きをしてとねだる言葉は吐かずに、自らゆっくりと腰を揺すった。
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