さすがに相手も驚いたようで、対面に腰掛けることはせず、座るこちらの脇に立って心配げに顔を覗き込んでくる。世話係の彼じゃないから、宥めるように背を撫でてくれる手はない。
「どうした。この場合、私はどうすればいい?」
世話係の彼を呼んで来たほうがいいかという言葉に必死で首を横に振り、なんとか咽る合間にちょっと待ってと絞り出す。それだけでも苦しくて、背中を撫でてとまでは頼めなかった。
「ん゛っ、……んんっ、あ゛ー……」
ようやく吐き気も収まって、脱力するように椅子の背に体をもたれかけながら、大きく息を吐く。
「何アレ。さすがに吐くかと思った」
多分かなり初期の頃の味に近い。そう思うと、あれでも随分と味の改良がされているらしい。今となってはよくこんなもの飲めてたなと思うけれど、やはり慣れと飢えなんだろう。飢えた体には、こんな味でもこの液体が必要だった。
「おかしいな。味は良くなっていると聞いていたのだが」
「あんな不味いの、久しぶりすぎ。てか口直しを要求する」
「キスか?」
「そーだよ」
相手に向かって顎を突き出し、大きく口を開けて待つ。思わず肯定したけど、どう考えてもこれは、キスを待つと言うより唾液を垂らされることを待つ姿だなと思う。
「ぁぃ?」
おそるおそるといった様子で両頬を相手の手に包まれて、咄嗟に口を開けたまま「なに?」と問いかける。
「動かれると怖い」
「ああ、」
なるほど。世話係の彼と違って、この彼には竜人の姿で触れてもらうことが殆どなかったんだった。今、こわごわと頬に添えられている手だって、もちろん初めて触れられている。
「口ン中唾液ためて、舌に乗せて差し出して」
ためた唾液を落としてくれてもいいんだけど、どうせならその舌に触れたい。パクリと喰んで舐め啜りたい。
言われるまま閉じた口をモゴモゴと動かした後、不鮮明な発音で「こうか?」と言ったらしい相手が、濡れた舌を伸ばしてくる。
「うん、そう。そのままジッとしてて」
頬を包む手を振り切るように、グッと相手の口先へ顔を寄せた。甘いは甘いのだけれど、やはり濃厚さが段違いだと思いながら、口の中へ迎え入れた相手の舌をくちゅくちゅと舐めしゃぶる。
ここ暫く世話係の彼からの口直しもなかったせいで、本当に久々に味わう旨味を、うっとりしながらひたすら堪能した。
肉厚の長い舌にチュウチュウ吸い付いていると、体の奥がぎゅんぎゅん蠢いて、足りないもっとと訴える。勃ちあがった性器で塞がれ、擦られ、腸内へたっぷり精液を注がれたいと、ハクハクと尻穴が開閉してしまう。
それが無理だってことは、わかっているけれど。
「抱かれたい」
口を離して、熱を持った息とともに訴えれば、相手は少し困ったように苦笑して、それは無理だと返してきた。
「ん、知ってる。だから、さ」
椅子の上に両足を持ち上げ、腰を突き出すようにしながらM字にした足を開く。下着はないので、はしたなく息づく尻穴も丸見えだろう。
「こっちにも、ちょうだい」
「話がしたいと、聞いてきたんだが」
「話はしたいけど、これは、あんな不味いの持ってきたお前が悪いよ」
いつも通りなら、口直しが無くても耐えられたはずだ。ここ最近は世話係の彼との口直しのキスを断っていることだって、きっと知っているはずだ。
「ただでさえお前の唾液ってめちゃくちゃ美味いのに、今の俺に口直しでそれを与えたらどうなるか、わかんなかったの?」
「キスは飽くまで口直しで、抱けないなら舐めてとは言えないんじゃなかったのか」
「それ、世話係のアイツだったらの話だろ。今、眼の前に居るのがアイツなら、抱かれたくてたまらないからお前を呼んでって頼むけど。でも、今眼の前に居るのはお前なんだから、抱けないなら舐めて、であってる」
早くと急かしたら、せめてベッドへ移動してくれと頼まれた。ただでさえ竜人の姿のままで触れるのは怖いのに、椅子の上なんて狭い場所でどうこうするのは心臓に悪いということらしい。
「なら連れてって」
「しかし」
「力加減誤って、多少傷ついたっていいから。それより俺に触ることに、慣れろよ。アイツに出来るんだから、お前だって出来る」
「簡単に言わないでくれ。小さな彼と私とでは、加減する力も大きく違う。こんなことになるなら、人の姿で来ればよかった」
人の姿だと力も弱まるのかと思ったら、人の肌は柔らかくどこもかしこも滑らかで鋭い爪などもないから、触れ合って傷つけてしまう可能性が段違いということらしかった。しかもやっぱり魔法はかなり苦手らしく、今すぐこの場で簡単に人の姿になることは難しいらしい。それはある意味ありがたかった。
「人の姿が嫌だとは言わないけど、俺はやっぱり、この姿のお前にも、もっと色々触れて貰えるようになりたい。だからまぁ、力加減、頑張って」
抱き上げてというように腕を伸ばせば、ようやく諦めたような小さなため息の後で、たくましい腕がそっと体に回された。
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