竜人はご飯だったはずなのに4

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 君たちが仲良しすぎて少し嫉妬してしまった、なんて言いながら柔らかなキスが落ちる。それはそのまま深いキスへ変わり、惜しげもなくたっぷりと唾液が流し込まれるのを、喉を鳴らして飲み下す。
 相変わらず濃厚な旨味が詰まったような味で量も多いから、確かに食事をしているような気分になる。
「私には、足りないもっと、とは言ってくれないのか?」
 離れていく唇に満足げな吐息を零せば、さみしげな顔を作ってそんな事を言う。でも先程の嫉妬にしろこれにしろ、もちろん本気なわけじゃない。食事としてのセックスを楽しく彩る演出みたいなもんだ。
 口調や発言内容から生真面目なタイプかと思っていたが、相手は意外とノリがいい。最初に情も交えたセックスがしたいと言ったのはこちらだが、そのせいか人間の恋愛事情に興味津々らしく、なにやら勝手にアレコレ調べているらしい。そしてそれを、抱きに来た時に披露してくれる。ようするに、今夜は他者への嫉妬的な要素を取り入れてみた、ってことなんだろう。
 柔軟な対応は彼の持つ権限だけじゃなく、性格によるものも大きそうだった。
「残念だったな。あんたが盗み見てる間に、あいつのキスで満足したよ。それより、足りないのはこっち」
 ベッドの縁から下ろしていた足をM字に広げるようにしてベッドマットの上に乗せ、さらに自ら指をあて、押し開くようにして見せつける。部屋着は相変わらずペラい貫頭衣のみで、下着もないままだった。
 相手は楽しそうにふふっと笑いを零している。
 その笑みに、期待で腹の奥が蠢いてしまう。奥だけでなく、アナルもヒクつき、早くしろと彼を誘う。なんともはしたなくていやらしい体だ。けれどそう思うことで、体はさらに昂ぶっていった。
 彼との食事を重ねるうちにこんな真似まで出来るようになってしまったが、実のところ、こんな風に女の子に誘われたら興奮していた、というようなことをして見せる事が多い。誘われる側でも誘う側でもあまり変わりなく興奮するというのは、こんな体にならなければきっと気づくこともなかっただろう。同じ人間だって性癖は人それぞれなのに、人でもない相手がそれで興奮するかはかなり微妙なところだけれど、誘う自分自身が興奮するのと、相手もとりあえず楽しそうにはしてくれるから、あまり気にしないことにしている。
「あの子はここにはキスしてくれないのか?」
 言いながら、ベッド脇に膝をついた相手がその場所へ顔を寄せてくる。躊躇いもなく舌が伸ばされ、アナルを解しながら中へと唾液を注いでくれる。尻穴に味覚があるわけじゃないからそれを美味しいと感じるわけではないが、食欲に素直な体が彼の舌を食んで奥へ誘っているのははっきりわかる。後、単純にひたすらキモチガイイ。
 あっあっと喘ぐ合間に、足りないもっとと三回ほど繰り返してやれば、どうやら満足したらしい。体を起こして隣に腰を下ろした相手は、どうやらまだ話したいことがあるようだった。
 体の奥は疼いているが、この後たっぷり抱いて貰えるのがわかっているから、こちらもそこまで焦っていない。早く抱いてくれとねだることはせず、会話に付き合うつもりで問いかける。
「なに?」
「腸内のが吸収が良いんだから、あの子にも、こっちにちょうだいって言ってみればいいのにと思って」
「いやいやいや。キスはあのマズい液体の口直しだから。お前が抱いてって言ったら無理って泣かれかけたし、抱けないならケツ穴舐めて、なんて言えるわけないだろ」
「あの子がお前を抱けないのは、繁殖期ではないからだと思うが?」
「は? 繁殖期? あいつ、んなもんあるのか」
「竜族は竜人も含めて大概繁殖期があるものだよ」
 彼にもあるのかと問えば、あるにはあるがとどこか含みのある言葉が返った。
「あ、もしかしてそれで、早く来てって言ってもなかなか来てくんないのかよ」
「それは半分当たりで半分外れだな。本当の意味での私の繁殖期は、後十年近く先のことだから」
「え、十年?」
「大柄になるほど長命な種族だからな。でも小柄なあの子だって、数年に一度のサイクルだぞ」
「ならなんで繁殖期でもないあんたは俺をこんな頻繁に抱けるわけ?」
 世話係の彼が繁殖期じゃないから抱けない、というのが本当なら、なぜ繁殖期が十年以上のサイクルだと言っている男が食事担当なんてしているのかわからない。
「詳しくは言えないが、血筋を絶やさないために作られた薬がある。簡単に言うと、強引に体を発情させて、一晩に大量の子種を撒き散らすことができるようになる。が、強い薬なので体力の消耗が激しい。私でもかなりギリギリ使用許可が出ているし、とてもあの子には使わせられない」
 魔法で人型になれるかよりも、その薬が使える状態にあるかのほうが実は重要で、こちらの要求に即応じられない事も多いのはそのせいらしい。
「なんだ。よっぽど魔法が下手くそなんだと思ってたわ」
「魔力ゼロのお前に言われるのは心外だな」
「だって人型で抱くのに拘ってんのそっちだろ」
「それはお前を傷つける心配があるからだと言ったろう。薬の副作用の心配もあるし」
 個体によっては理性が効かずに相手を抱き潰す勢いで盛ってしまう、なんて場合もあるくらい強い薬で、しかも本来ならこんなに短期間に何度も服用する薬でもないらしい。
「それ、相当負担掛かってるって話じゃないの。なんで食事担当、あんただけなんだよ」
「それはこちらの事情であって、お前が心配することではないな。対策はきちんと考えているし、実行もしてる。現に、私との食事の頻度を落としても、お前はこうして生きているだろう」
 それがあのマズい液体で、あれに慣れてあれが主食になる頃には、この彼は自分を抱きに来てはくれなくなるのかもしれない。彼の体を本気で心配するなら、そうなったほうがいいに決まっているのに。
「そんな顔をしなくても、味の改良は今後も重ねていく。いつか、美味いと言えるものが毎日飲めるようになるはずだし、いずれは固形物も提供できるようになる予定だ」
 そうじゃない。でも抱かれなくなるのは嫌だと言うのも躊躇ってしまう。だって彼の告げた未来のほうが、セックスが食事代わりの今より、よっぽど人間らしい生活だ。

続きました→

 
 
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