兄の親友で親友の兄12(終)

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 いいのかと問いかければ、すんなりいいよと返ってくる。
「というかお前、本当にさっきの茶番の意味わかってないのか?」
「わかんないよ。殴っていいよって何? 俺のせいで喧嘩とかホントやめて欲しいんだけど」
「お前引っかかってんのそこかよ」
 呆れた様子で、喧嘩なんかしてないし親友なのだって変わらないぞと苦笑する。確かに、兄の口から友人関係を切るような単語は出ていなかったけれど。
「でも兄さんが言ってた殴らせろっての、多分本気だったよ」
「俺だって本気で殴られる気でいるけど、それ、お前を恋人として紹介したケジメみたいなもんだから。それより、お前に一番気にして欲しいの、俺があいつに振られたってとこなんだけど?」
「そうだよ。それ。兄さんに好きって言っちゃって良かったの? というか、なんで振ってくれなんてこと言ったの」
「なんでって、そりゃ、お前が俺を想って泣くからだろ。あと、俺が言ったのは『好きだった』で過去形な」
「過去形、って……」
 やっと茶番の意味が飲み込めた気がして、ドクンと心臓が大きく跳ねた。
「え、その、それってつまり、」
「そ、お前が本命に繰り上がり」
 あいつへの気持ちを吹っ切るいいキッカケになったとさっぱりした顔で笑われて、本気なんだとは思ったけれど、なんだかあまり現実感がない。
「信じられないって顔してんな」
 本当だぞと言われながらまた頭を撫でられたけれど、今度はさっきみたいな乱雑さはなく、そっと髪を梳くみたいな優しい手付きだった。
「お前はさ、お前自身の気持ちが変わって俺が本命に繰り上がった後も、俺の気持ちを変えようとしなかったろ。というかお前は、俺があいつを好きだって気持ちを、好きだから告白すらせずずっと親友で居たいって想いを、最初から一度だって否定しなかった」
「それは、だって、俺も一緒だから……」
 親友と親友のままでいるために、気持ちを隠して、どうしようもない切なさを別の誰かの体温で補ってしまうような、そんな生活をしていた。それがだんだん虚しさを増して、同じ気持ちを抱えているだろう彼に声を掛けた結果が今だ。
 本命が別に居ても恋人は作れると言った彼と違って、恋人関係を続けるうちに元々の本命以上に彼を好きになってしまったけれど、それを彼は彼自身のせいだと言うけれど、でも彼に気持ちを変えろと言われて変えたわけじゃない。
 恋人としての彼に魅力があったから、自分は彼を好きになってしまったけれど、恋人としての自分に兄以上の魅力がないから、彼の本命は兄のまま変わらない。自分たちの間には、そんなわかりやすい事実しかなかった。
 だから、彼の気持ちを否定することも、彼の気持ちを兄から自分に向けさせようとすることも、自分自身を否定するみたいで出来っこない。
「でもお前は俺を好きになったろ。それ、間違いなく俺のせいなのに、それを責めることもしないし、同じようにお前を本命に繰り上げろとも言わなかった」
「言えるわけ、ない、だろ。俺を兄さんより好きになってって言って、それでどうにかなる気持ちなら、そもそもとっくに兄さん以外の誰かを好きになってるでしょ。無理難題ふっかけて困らせるより、せっかく一緒にいられる時間、楽しく過ごすほうがずっと有意義だもん」
 困らせたらきっと振られると思ってたし、とまでは言わなかった。肯定されたらやっぱり辛いし、否定されても多分信じられない。だからそういうものは確かめてしまわず、曖昧なままにしておけばいい。
「うん。ただ俺は、お前のそういうとこに、甘えすぎてた。必死に俺とあいつとの仲を心配するお前見てたら、お前を一番にしたくなったんだ。あいつへの気持ちにケリつけて、お前を本命に繰り上げてやりたいって、思っちまった」
 待たせてゴメンなと苦笑する彼に、ブンブンと力強く首を横に振ってしまえば、苦笑が柔らかな笑みに変わる。
「嬉しい、けど。でもホントに、俺で、いいの?」
「お前がいい。互いに想う相手の代わりになれるはずだからセックスしてみないか、なんて言い出した時は何言ってんだこいつ、と思ったけど、お前に誘われて良かったよ。お前が、俺の気持ちに気づいて、手を伸ばしてくれて、良かった」
 しみじみと感謝してるよなんて言われても恥ずかしいばっかりだったし、それを言うならこっちだって、こちらの提案をあっさり無理だと突っぱねた挙げ句、恋人になれと誘ってくれたことに感謝している。
「俺だって、あなたに、感謝してるよ」
 言えば、そりゃ良かったと言って嬉しそうに笑う。その顔がそっと寄せられてくるのに合わせて目蓋を落とせば、触れるだけの優しいキスが一つ、唇の上に落とされた。

<終>

 
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