意気消沈した彼女の隣を歩きながら、弟の考えていることが本当にわからないと思う。まさか彼女本人にクズ女だのブスだの言って泣かせるなんて思わなかった。
元々若干のツンデレ傾向にあるとは思っていたし、もっと幼かった頃は好きな子にちょっかい掛けすぎて嫌われるなんて事もあったけれど、暴言吐いて泣かせるような真似をしたら関係は悪化しかしないと理解できる程度には成長したと思っていたのに。
それとも弟も彼女を好きだという考え事態が間違いなのか?
でもだとしたら、わざわざ自分に隠れて彼女と会う意味がますますわからない。
結局彼女の隣を歩いていても、考えるのは弟の事ばかりだった。
それでもなんとか彼女に弟の非礼を詫び、家の前まで送り届けた後は真っ直ぐ自宅へ帰る。部屋に戻れば、まだ不貞腐れたままではあったが弟はちゃんと在室していた。
弟は二段ベッドの上段を使用しているのに、下段であるこちらのスペースで仰向けに寝転がりながら膝を立てて足を組んでいる。ドアの開閉に気付いてチラリと投げられた視線は依然としてキツかった。
その視線を受けながら部屋の中を移動し、並んだ勉強机の自分の方の椅子に腰掛けて、自分も二段ベッドの下段を睨み返す。
「何その態度。言い訳があるなら聞くけど、一応、怒ってるのは俺の方だからな」
言えば大きなため息とともに体を起こし、ベッドの端に腰掛ける。
「別に。言い訳なんかないけど」
「お前さ、彼女が好きなの?」
「はぁあああああ?」
聞けば随分と大きな呆れ声で返された。ああやっぱりと思う反面、じゃあなんでと思う気持ちが益々大きくなる。
「どこをどう見たら、俺がアレを好きって話になんの? 頭大丈夫?」
「だって俺に隠れてこっそり会ってる意味がわからない。俺の彼女だから、俺のふりすれば彼女と一緒に遊べるとか考えてたのかと思って」
弟は険しい顔になって、ふーんと鼻を鳴らした。なんだかバカにされているようで腹立たしい。
「じゃあ仮に、俺が兄貴の彼女を好きでこそこそしてたとして、それ知ったアンタはどうすんの? 俺が本気なら仕方ないとか言って、身を引いてくれるわけ?」
優しいお兄ちゃんは俺のために彼女と別れてくれそうだよねと、今度は完全にバカにした口調で告げてくる。ホントなんなの。腹が立つ。
「お前が本気だってならそれも考えるけど、でも違うんだろ。それとも前言撤回して、彼女が好きだから彼女と分かれて下さいって、俺に本気でお願いする?」
正直に言ってご覧よとこちらも煽るように告げれば、弟は興ざめしたと言わんばかりにハッと鼻で笑った。
「ばっかじゃないの」
「お前に言われたくないよ」
「だいたいアンタだって本気でアレが好きってわけじゃないだろ」
「アレって言うのヤメロ。後、好きだから付き合ってるに決まってる」
「どこがだ。俺に譲れる程度にしか好きじゃないって、今自分で言ったくせに」
さっさと別れちまえよと続いた言葉に、やっぱ好きなのと聞いてしまったのはさすがに失敗だったらしい。一度がっくりと肩を落とした弟は、ベッドから立ち上がると無言でこちらに向かって歩いてくる。怒っているよりは呆れているような気はするけれど、感情がわかりにくい冷ややかな表情で圧迫感が凄い。
「ちょっと、何……」
目の前に立たれて必然的に見上げる形になり、背筋に冷たいものが流れる気がする。きつい視線で睨まれたって怖くなんかないけれど、この冷ややかな無表情はさすがに少し怖いと思った。
「俺が好きなのはアンタだよ」
「は?」
「兄貴だって俺を好きだろ?」
「いやそりゃ弟だし、互いが一番の理解者だと思ってるし、好きか嫌いかで言えば好きに決まってるけど」
「そういう話じゃないのわかってるくせに。アンタは付き合ってる彼女を俺に譲れちゃうくらい、俺が好きなんだよ」
「いやいやいや。何言ってんの」
「何言ってんのはこっちのセリフ。男同士だし、兄弟だし、双子だし、認めたくないのかもしれないけど、いい加減俺を好きだって気づけよ、ばーか」
アレにわざわざ接触したのなんか、二人の仲を円満に裂くために決まってんだろと言った弟は、でももうバレたからどうでもいいやとなんだか随分と投げやりだ。
「どういう、意味……?」
「この展開はかなり予定外だったけど、本気でアンタ落としにかかるから。って意味?」
「何言ってんの。俺たち兄弟なんだけど」
「だからそれ今更だって」
ニヤッと笑った顔が近づいて、えっ、と思う間に柔らかな唇が自分の口に押し当てられていた。
有坂レイへのお題は『貴方と私でひとつ・「好きだって気付けよ、ばーか」・やわらかい唇』です。https://shindanmaker.com/276636
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