先生、教えて1

目次へ→

 それは完全な下心からの入学だった。
 スポーツ推薦で入学した大学だったけれど、選手層の厚さにベンチにすら入れない日々が続いて腐り掛けていたときに、たまたま出会ったその人は整体師でほとんど一目惚れに近かった。顔にというよりは、温かな手と柔らかな声音と、なにより彼がくれた言葉に。
 そのスポーツに真摯に向き合ってるのがわかる、綺麗な筋肉がついている。そう褒められたのが、結果が出ない中でも頑張ってきた自分を認められたようで、たまらなく嬉しかった。
 大学で所属するクラブと懇意にしている整体師だったりマッサージ師だったりは何人も居て、出張施術という形で学内で部員まとめて施術や指導みたいな場合もあるが、大学近辺に構えた店舗に通って施術を受ける場合もある。だから新人と思わしきその男とも、店舗に行きさえすればいつだって会えると思っていた。
 あの日彼が大学へ来ていたのは偶然を重ねたただのヘルプで、常勤している店舗はなく、メインの仕事は整体やらリンパマッサージやらリフレクソロジーやらの技術を教えるスクールの講師だそうだ。
 というのがわかるまでにおよそ一ヶ月。迷っていたのが半月。親を口説き落とすのに少し掛かって一ヶ月半。つまり出会ってから三ヶ月後には、そのスクールへの入学を決めていた。
 クラブ側へももちろん週に二回か三回程度練習には出れない旨を理由と共に告げたが、ベンチにすら入れない部員が、部のメンバーをサポートする側に回るための勉強に難色を示すわけがない。こちらはあっさり歓迎された。
 随時入学可能な少人数のフリータイム制というのがなんともありがたい。タイミングさえ合えば彼と一対一の個人授業だ。
 そして念願の初授業。願いどおりにその日の生徒は自分ひとりで、彼は本当に入学を決めたんだねと、歓迎の笑顔をくれた。たったそれだけのことに、思っていた以上にトキメイて開始早々こんなんで大丈夫だろうかという不安がチラリとよぎったものの、当然不安よりは喜びが大きい。
 実は体験入学のときにも一度会っていて、そのときに入学の表向きな動機は彼にも既に話してある。あからさまな下心はもちろん隠しているが、彼の指導を受けたいのだという部分は彼本人にも、スクールの受付担当の人たちにも言いまくってしまったので、彼目当ての入学だってのは早々にバレていそうな気もするけれど。なんてことを思っていたら。
「じゃあ、入学を決めた君に、ぜひとも最初に知っておいて欲しい重要なお知らせがあります」
「あ、はい。なんですか」
「講師と生徒の恋愛は禁止です」
「は?」
「いやだって君、あからさまに僕狙いっぽいから。講師として生徒には優しく接するけど、そこあまり期待されると困るなって思って」
 にこにこと笑う笑顔が途端に作り物めいてみえる。ただまぁ、こっちだって入学を決めて接点を増やした程度で、即どうこうなれると思えるほど脳天気なバカじゃない。というか、そもそもそこまではっきり、恋人になりたいだのという野望を抱いて入学したわけでもない。だいたい、彼が未婚なのか、今現在恋人が居るのか、年下男がアリかナシか、そういったことを何も知らずに飛び込んでいるのだ。というか、普通に考えたら年下男なんてまずナシだろう。
 だってただただ彼に近づきたかったから。もっと彼を知りたいと思ったから。そしてなにより、彼の手にもう一度触れて貰いたかったし、彼の声をもっと聞いていたかった。
 彼目当ての入学ではあるけれど、可能なら彼と恋愛したい気持ちがないとは言わないけれど、一番の目的は彼と恋愛することじゃない。
「あー……なるほど。わかりました。で、先生、今現在恋人は? フリー?」
「ねぇ、人の話聞いてた?」
「聞いてましたよ。先生狙いってバレてるなら、それはそれでやりやすいかなぁって。あ、言われた通り期待はしないんで大丈夫です」
 気持ちの切り替えって大事ですよねって笑ってみたら、にこにこの作り笑顔がぼろぼろと剥がれていくのが見えた。

続きました→

お題箱より「生徒×先生(弟子×師匠などでも)で先生が体を使って教えていくお話」

 
萌えたらポチッと応援よろしくお願いします。

1話完結作品/コネタ・短編 続き物/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

  • Pocket
  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

コメントを残す




Menu

HOME

TOP