はぁ、と熱い息が断続的に漏れて、部屋の中の淫靡さを増していく。もぞと揺らめく腰が、埋めた指に吸い付くように蠢動する腸内が、早くもっと強い刺激をとねだった。
「せーんせっ」
甘ったるく呼びかければ、気持ち良さげに閉じていた瞼がゆるりと持ち上がり、その下に隠されていたうるんだ瞳が、とろりとした視線を投げかけてくる。
「きもちよさそ」
言えば素直に、ああ、だか、うん、だか曖昧に頷かれて、君は本当に覚えが良い生徒だよと薄く笑われた。
初めてアナルに触れてそのナカを弄ってから、今日でとうとう二桁目になる。いくらほぼ交通費のみの支払いで会えるとは言え、互いのスケジュール的にそう頻繁に呼び出せるわけじゃない。
そうこうしている間に大学は卒業し、今では結局、大学近くの整体院に勤務しているし、もちろん、所属していたクラブへの出張施術にも同行している。
「十分お金取れるくらい、キモチイイ。ね、性感マッサージな副業とか、しないの?」
突然何をと思いながら、ナカを探る動きを止めて、うーんと唸って考えるような素振りを見せた。
その技術をその身でもって叩き込んでくれたのは目の前の男だけれど、そんな副業をしたくて個人授業をお願いしていたわけじゃない。というか結果的にそうなっただけで、元々は彼と二人きりで過ごす時間を買うのが目的だった。わけだけど。
「儲かりました?」
「客次第だけど、それなりに」
興味のあるふりをして問いかければ、やっぱりとしか言いようのない答えが返った。過去のことなんて滅多に話してくれない相手だけれど、そんな話題を振られて気づかずにいられるほど鈍くない。というか慣れてるなと思っていた謎が、一つ解けた感じだ。
「相手、男だけ?」
「いや、男女とも」
「本番は?」
「オススメしないね。というかもし本気で考えてるなら、本番ナシを徹底するべきだよ」
「あは。先生、それで何か失敗したんだ?」
何があったのという質問は、さすがにノーコメントと返された。否定はないから、それ関係のトラブルが何かしらあったらしい。
「今も、やってるんですか?」
「うん。君相手に」
即答されたが、声に笑いを含んでいる。つまり既に廃業済みってことなんだろう。
「それ全然儲かってないでしょ」
「まぁね。でも本業あるし」
「俺も本業あるし、あなたも居るし。というか、あなた以外に披露する気なんて一切ないです」
「そう。それは勿体無いな」
そう言いながらも、安堵の表情を見せている。そんな顔を見せるくらいなら、妙な副業を勧めないで欲しかった。いやでも、これはチャンスかな。こんな話をこぼすくらい、いつもよりなんだか心のガードが緩いみたいだし。
「そこは喜んでくださいよ」
「なんで?」
「手塩にかけて育てた自分専用の性感マッサージ師を、これからも無料で使いたい放題なんですから」
「それだけど、そろそろ、お金払おうかって気もしてる」
「は? なんで?」
こちらはアナルを許していないが、交互に性感マッサージを施し合っている関係は変わらず続いている。つまり無料で使いたい放題と言いつつも、こちらだって同様に、無料で彼の施術を受け放題だ。交通費は出すし、たまに教えを請うて追加でチラッと払うこともあるけれど、基本的には気持ちよくしてもらった部分への支払いはない。
「俺がお金貰ったら、おかしいでしょ」
「そ、だけど。でも、本番ナシでも、さすがに毎回こうキモチイイと、なんか色々マズいっていうか、ちゃんとお金払って気持ちよくしてもらう方が、まだ割り切れそうというか」
「それ、もしかして、期待していい話だったりしない?」
だって知っているのだ。ナカを弄られとろけた視線が、時々物欲しげにこちらの股間に注がれているのを。彼がこちらに触れてくれる時、勃起してしまったペニスを弄る手付きが、前よりもずっとねちっこくなったことを。
「ね、あなたの客が俺だけで、俺の客があなただけなら、気持ち割り切る必要ないでしょ。そろそろ本番有りでも、いいんじゃない? もしくは、いい加減、恋人になるとかさ」
言いながら止めていた指をゆるっと動かし、弱い部分を少しだけ強めに刺激してやれば、とたんに溢れだす甘い息の中に考えとくという言葉が混ざる。もうだいぶ長い付き合いになるけれど、彼が多少なりとも二人の関係に対して前向きな言葉を漏らしたのは初めてだ。
<終>
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