罰ゲーム後・先輩受4

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 夕方、部活を終えて教室まで迎えに来た相手が、慣れた様子で顔を寄せて来る。手の平を軽く突き出しさえぎれば、相手はすぐに素直に身を引いていく。
「土曜はしなくていいよ」
 このキスがこちらのスキンシップ欲求を満たすために与えられているものなら、土曜の今日は必要がない。家に帰ってから好きなだけ相手に触れられるのだから。
「土曜は?」
 なのに相手は少し不思議そうに自分が発した言葉の一部を繰り返す。
「そう。土曜は。学校でしなくても家帰ってから出来るだろ?」
 だから早く帰ろうと言うように、カバンを手に立ち上がった。けれど相手はそんなこちらをじっと見つめてくる。
「どうした?」
「先輩たちに、止めさせるように言われたからじゃないんすか?」
 その口ぶりから、ランチタイムにキスの噂云々の話題が上がったことを、彼も知っているようだと思う。
 そういうお前は何言われたの、とは聞かずに、言われてないよと返した。
「本気の恋人ならキスもその先も俺とお前の自己責任。ってことで良いみたいよ」
「俺は、噂になるなってのは無理でも、あんま派手にやらかしてると後々面倒くさいぞって言われたんすけど」
 眉を寄せて何かを考える様子を見せる。多分それ以外にも色々言われたんだろう。というか何がどう面倒なことになるか、彼らなりの危惧を聞かせたに違いない。
 こっちが何言われようと知ったこっちゃないという態度を貫いているから、そうそう大きな揉め事にならないだけで、元々女子たちとの相手をコロコロ変える緩い付き合いだって快く思っていない層は居た。
 彼も決して噂に振り回されるようなタイプではないけれど、自分同様に何言われても知ったこっちゃないという態度を貫けるかはわからない。たとえ適当にあしらえたとしても、それが気持ちの負担にならないとも限らない。自分だって、人の噂の的になってあれこれ言われる煩わしさに、一々心が乱されずに済むようになるまでには、それなりに時間がかかっている。
 お前が恋人にしたのはそういう相手なのだと、知らせておきたい先輩心もわからなくはなかった。明確に自分との交際を反対されたり非難されたりしているわけではないのだから、むしろありがたい助言の範疇と思ったほうが良さそうだ。
「それ、お前だって校内でキスすんのヤメロとは言われてないんじゃないの」
「家行ってやれって言われたっす」
「なら土曜以外も家寄ってく?」
「いいんすか?」
 喜色の滲んだ声音に、もちろん良いよと返す。相手の気持ちが上向いたのを感じて、ついでに帰ろうと促せば、今度は素直に頷き、歩き出した自分の横を付いて来る。
「けど、お前が夕飯作るのは無しな」
「え、ダメなんすか」
 さっきの嬉しそうな声と真逆の、ショボショボと情けない声になって笑いそうになった。こんな反応で楽しげに食事を作ってくれるから、つい、こちらも甘えすぎてしまうんだ。
「いやだってお前、普段部活終わるの何時よ。そっから買い物して夕飯作ってとかやらせるの、申し訳ないにも程があるだろ」
「あー……じゃあ、ちょっと考えてみます」
「考えるって何を?」
「作りおきとか、後はまぁ、先輩に甘えてみるとか?」
「え、俺に甘えるってどんな?」
 思わずワクワクで聞き返してしまえば、後輩がぷふっと小さく吹き出した。
「そっすね。一緒に帰るんじゃなくて、先輩が先に帰って買い物してくれるとか。米研いで炊飯器セットしてくれるとか。俺が可愛くお願いできたら、やってくれたりしないっすかね」
 米は前日に俺がセットしても良いんすけどねと、やはりどこか楽しげに提案される。
 それくらい全然やれそうだけど、即座にわかったやるよと返すのはあまりに悔しい。だって甘やかされるばかりじゃなく、甘やかしてやりたいこちらの気持ちを、利用させて下さいと言われたも同然じゃないか。
「じゃあ後で可愛くお願いしてみて」
 少しだけ顔を寄せて、ベッドの上でねと耳元に囁いてやれば、平然と了解を返されてまったく可愛げがない。でもその後口数を減らした相手の横顔をふと窺えば、どう可愛くお願いするかを考えているのか、耳と目元をうっすら赤く染めながら思い悩んでいる風だったので、やっぱりたまらなく可愛い。
 家にたどり着くにはまだまだ掛かるのに、気を抜くとにやけかける口元を引き締めて歩くのは大変だった。

続きました→

 
 
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