寂しい理由は明白だ。
この一ヶ月を恋人として過ごしたせいで、相手を好きになってしまったからだ。なんて理由だったら、もう少し簡単だっただろうか。
確かに彼との罰ゲームをなんだかんだ楽しんだ。彼の性格も料理の腕前も、ひいては自分と同じくらいある身長や運動部らしいはっきりと筋肉のついた体だって好ましい。
相手が無理だと思うから手を出さないだけで、自分だけの感情で言えば、キスもそれ以上もきっとさほど抵抗なく出来てしまうだろう。それどころか、してみたかったとすら思う気持ちまで、実は自覚できている。
ただそれを、恋愛感情が湧いたからだと言えないところが、つくづく恋人向きじゃない屑な男だと自分自身に対して思う。
恋愛感情なんてなくたって、恋人という距離感は心地よくて、イチャイチャするのが大好きで、自分の生活を守るために突っ込むことはしないけれど、性欲がないわけじゃないからキモチイイコトだって散々してきた。そんな関係に慣れすぎている。
寂しい時間を優しく埋めてくれるなら誰だって良くて、それこそ男だって、男だからという理由で嫌悪感なんか湧かない事は、今回のことではっきりしてしまった。ただ、それだけだ。
なのに罰ゲームの終りが見えてこんなに寂しいのは、罰ゲームじゃなければ、こんな風に律儀で真面目なタイプの男が世話を焼いて甘やかしてくれるなんて機会は訪れないのだと、わかっているせいだった。
相手も自分を恋愛的に好きではないというのが、こんなに気楽だと思わなかった。二人の間にあるのは罰ゲームを下敷きに、互いの下心をお互い出来る範囲で満たしあうというだけの、言うなればビジネスライクな関係だった。自分がクローゼットの奥に仕舞い込んだバスケットボールを引っ張り出さなければ、彼だって抱っこしてあやすなんて行為を本気でしてはこなかったと思う。ボールを見つけた彼に、やっぱり抱っこしますと迫られたのも、今では笑える思い出の一つだった。
そしてその関係を、罰ゲームなしに続けることは出来ないのだ。
罰ゲームでもないのに毎日相手の部活が終わるのを待って、週末には家に泊まりに来てもらう。なんて関係を続けられる訳がない。自分だけの問題なら、とうとう男でも良くなったらしいと思われようが構わないし、そもそも事実でもあるけれど、それをこの後輩に背負わせてまで、この関係を続けたいなんて言えない。
なのに。
「あの、先輩に次の彼女出来るまで、もう少しこれ、続けないっすか」
まさか相手側から提案されるとは思わなかった。でもきっと、これを続けることで彼が受ける被害をわかってない。
「続けないよ。罰ゲーム終わってもこんなことダラダラ続けてたら、マジホモになったって思われちゃうよ? こういうのは終わったらお互い、せいせいしたって感じにバイバイするのが正解なんだよ」
見世物じみたゲームを楽しいまま終えるならそうするべきだ。
「せいせいしたなんて思えそうにないんすけど」
「振りだけでもそうしなって話」
「無理っす」
「そこはまぁ頑張ってよ。俺だけスッキリしてたら、罰ゲーム中に男でも構わず後輩たぶらかして終わったらポイ捨ての酷い男だって噂がたつの、目に見えてる」
まぁ別に、今更何を言われようといいんだけれど。でも律儀で真面目なこの後輩は、こういう言い方をされるのは苦手だろう。
「それほぼ事実じゃないっすか」
だから不貞腐れたように言い放たれて、珍しいなと思った。
「何お前、俺にたぶらかされたの?」
「たぶらかされてなかったら、続けませんかなんて言うわけないっす。今、こんなに寂しいって素振り見せてるくせに、終わったらせいせいしたってスッキリするつもりとか、騙された感凄いんすけど」
「せいせいしてスッキリするなんて言ってないだろ。人にはそういう振りを見せなきゃダメだって話をしただけで」
「じゃあやっぱ、寂しいんじゃないすか」
「そりゃ寂しいよ」
「なのになんで続けるのダメなんすか」
「そんなの、これが罰ゲームだからだろ」
「なら俺が、もう一回付き合って下さいって言えば、今度は罰ゲームじゃなく付き合ってくれるんすか」
一体何を言い出しているんだか。
「お前さ、罰ゲームで恋人ごっこするのと、告白してお付き合いするのが同じだとでも思ってんの?」
忠告混じりに軽く笑ってやれば、何が違うのかと聞いてくるから、やはり何もわかってないと思う。
「お前が俺に告白してきたら、お前は俺を好きなんだって、恋愛的に惚れてるんだって、そう思っちゃうぞって事だよ。俺を好きなら良いだろって、お前にエロいことしちゃうよ?」
さすがに黙ってしまった相手に、更に追い打ちをかけていく。
「冗談でも脅しでもないからね? 男に告白されたことないから、男相手にエッチな事した経験ないけど、今回お前のお陰で男だから無理ってならないことわかったし、それなりに興味もあるし」
「それ、やっぱ抱っこだけじゃ、スキンシップ足りてないって事すよね?」
これで続けようなんて気持ちもなくなるだろうと思っていたのに、相手の返してきた言葉はなんとも斜め上だった。
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