Wバツゲーム9

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 夕方帰宅後、汗を流してバスルームを出れば、部屋にはいい香りが漂っていた。先にシャワーを使った後輩が、夕飯の準備をしてくれているからだ。
 日曜日なのでさすがに泊まったりはしないが、それでも相手は最初に頼んだ、なるべく一緒に食事をして欲しいというこちらの願いを叶えるように、ここで夕飯を食べてから帰っていく。
 当然前日から泊まりだし、それがもう四回目になる。つまり、この罰ゲームが始まってから先、週末はずっと一緒に過ごしていた。最近は女の子を泊めなくなってしまったが、泊めていた頃だってさすがにここまでべったり過ごした事はなかった気がする。
 一度親は何も言わないのかと聞いたことがあるが、食費が浮いて喜んでるみたいだと返されて笑ってしまった。初めて夕飯を作ってもらった時、財布役で直前の買い出しも当然付き合ったが、その買い物量に驚いてしまったくらい確かに彼は良く食べる。その時、罰ゲームで一ヶ月限定の恋人ごっこ中という事まで、親に話したと聞いて驚きもした。
 それで毎週末の泊まりを許しているというのだから、彼の親は完全に遊びと思っているのだろうし、きっと何の心配もしていない。それとも、スキンシップに飢えた寂しがり屋の先輩を、時々抱っこしてあやしてるだなんて事まで、親に知らせ済みだろうか。
 さすがに言わないだろうとも思うし、彼なら言っているかも知れないとも思う。どっちにしろ彼が何の迷いも見せずに毎週末泊まりに来ていた事実は変わらないし、彼の親が知っていようがどう思っていようが、今日さえ終えてしまえばどうだって良かった。なぜならこんな週末は今日で最後だからだ。
 後数日で、罰ゲームが始まってから一ヶ月が経過する。
「もう出来ます。この皿、持ってって貰ってもいいっすか」
 小さなキッチンを覗けば、焼きあがった肉を皿に盛り付け終えた所らしかった。うんと答えながらも、持っていって欲しいという皿を無視して相手にぐっと近づいていく。
 一瞬不思議そうにしたけれど、それでも手にしたフライパンと菜箸を置いて、相手はどうぞと言いたげに両腕を広げてくれた。その腕の中へと一歩踏み込めば、広げられていた腕が躊躇いなく背を抱き、軽いリズムで柔らかに背を叩きだす。
 慣れた仕草だ。そしてこちらも慣れてしまって、恥ずかしいなんて気持ちはもう湧かない。でもいつにも増して寂しいなと思う。安心するより寂しさが増してしまったから、ちょっと失敗したなと思った。
「疲れたんすか?」
「そりゃあね。ヘトヘトだよ」
 体を動かすことは嫌いじゃないから、部活をしてなくたってそれなりの自主筋トレはしていたし、気が向けばそこらを走ったりすることも多かったけれど、やはり現役運動部に比べたら圧倒的にスタミナが足りない。楽しくていつもより長時間遊んでしまったのもある。
「だったら尚更、さっさと飯にしましょうって、言えばいいのに」
 なぜか黙ってしまった相手にクスリと笑ったら、本当に疲れてるだけっすかと聞かれてドキリとする。
「なんで、そう思うの」
「先輩たちが、色々仕組んだって聞いて、かなりショック受けてたっすよね」
「それは学食奢って貰うことになったろ。というかお前だって何も知らずに嵌められた側なのに、ショックないわけ? 後、本当に学食奢って貰わなくていいの?」
 学食奢りは最初、二人に一週間という話だった。それを彼がこちらに譲ってくれて二週間になったのだ。
「俺が選ばれたのは俺が今年の新入生で唯一の未経験者だったからってわかってるんで、ショックはあんまないすね。実際上手くなったって言われましたし、むしろ感謝してるくらいで」
「そーなんだ」
「それに学食は先輩たち一緒に食うって話だったすから、さすがに周り三年だらけの中に混じって昼食うのは嫌っすよ。一ヶ月散々夕飯奢られて、週末も食材全部先輩持ちだったんすから、先輩が奢ってもらって下さい」
「そっか」
「あの、ダイジョブっすか?」
「うん。学食奢りで納得できてる」
「じゃなくて。あー……」
 迷うように言葉を探す相手に、どうしたのかと思いはしたが、助け舟は出さなかった。彼の気持ちを読む努力もせず、先を促すこともせず、ただただ相手が次の言葉を吐き出すのを待っている。
 なぜなら、彼が迷う時間分、彼の腕の中にいる時間が増えるからだ。失敗したと思っているくせに、寂しさが募ってどうにも離れがたい。

続きました→

 
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