背を抱いていた手がスルッと背を滑り落ち、グイと腰を引き寄せる。それに慌ててしまって、ひっそりと落ち込んでなどいられなかった。
「ぁっ……」
自分の上げた小さな声と、相手が安堵で吐き出す息が重なる。
「先輩も、勃ってる」
身長のあまり変わらない二人が股間を押し付けあっていれば、互いの状態なんてわかりすぎるほどに伝わるのだから、噛みしめるようにしみじみと言わないで欲しい。というかそもそも、そんな確かめ方をしないで欲しい。
相手の興奮も自分の興奮もまざまざと突きつけられて、それに煽られ益々興奮していくようだった。
「ベッド、行く?」
「はい」
誘えば躊躇いなく頷かれて背に回っていた腕が外されたが、せっかく作ってくれた夕飯が冷めてしまう事も少しばかり気に掛かる。
「温め直せば平気っすよ。俺が、やりますから」
運んで欲しいと言われていた皿に、チラリと視線を送ってしまったことに気付いたらしい。
「んっ。じゃあ部屋、行こっか」
「はい」
再度頷く相手の僅かな声からも、期待と興奮とがはっきりと漏れ出ていた。
風呂とトイレは別で、後は小さなキッチンと一応のリビングと部屋一つという構造なので、ベッドまでの距離なんて大した事はないのだけれど、そんな素直さが可愛いような愛しいような気持ちで、相手の手をしっかりと握って導くように歩きだす。単に離れがたく、相手に触れ続けていたいだけでもあった。
ベッド脇に辿り着き、くるりと体の向きを変えて向かい合う。
「脱がして、いい?」
「はい」
やっぱり短い肯定が返って小さく笑った。
「さっきから、はい、しか言わなくなってる」
服に手をかけさっさと脱がしに掛かりながら、緊張してるのかと聞いてみる。
「多少は?」
なんで語尾上げてるんだろうと思いながらも、剥き出しになった相手の肌とその下の筋肉に釘付けで、そんな疑問はすぐにどこかへ消え去った。
この一ヶ月弱、週末はずっと泊まりだった上に、バスケをして帰った後は順番に汗を流したりも当たり前にしていたけれど、風呂上がりに半裸でうろつくようなだらしない真似をしていたのは自分だけだったので、抱っこされた時に薄い布越しに感じることはあっても、彼の胸筋や腹筋を直接見るのは初めてだ。
バスケを始めて数ヶ月ではあっても、中学時代も運動部だったという彼の体は程よく引き締まっている。
「触るよ」
「どうぞ」
疑問符をつけないそれはただの宣言でしかない。それでも一応相手の了承が降りるのを待って、それからその肌の上に手の平を押し当てた。
男の体を性的な興味を持って撫で回すのも当然初めてだ。この興奮はだからこそなのだろうという自覚は頭の隅にあるものの、興奮した自分が相手の目にどう映っているかまでは思考が回らなかった。目の前の体にうっかり夢中になって、そんな自分を観察されている事に気づかなかった。
手の平で一通り女の子にはなかった筋肉を楽しんでから、膨らみも柔らかさもない胸を両手で包むようにして揉みながら、小さすぎる乳首を指先で捏ねる。
「ぅっ……」
初めて何かを耐えるような声が漏れて、慌てて手を外すと同時に俯いていた顔を上げた。相手は眉を寄せ、眉間にわずかなシワを刻んでいる。
しまった。興奮に任せてやりすぎた。
「ごめん、気持ち悪かった?」
慌てて謝れば、相手はゆるく首を振ってから大丈夫だと返してくる。
「本当に? 我慢してない?」
「してない、す」
「じゃあもう少し、続けていい?」
「はい」
「ちょっと舐めたりもするけど、気持ち悪くなったらすぐ言ってね」
やはりはいと返ってくる声を聞きながら、相手の胸の先に頭を寄せた。
片側をチロチロと舐めながら、もう片側は先程と同じように指の腹で擦ってやれば、声は漏れなかったが腹筋がヒクリと蠢くのを感じた。あまり強い刺激にはならないように注意しつつ、それでもしつこく続ければ、やがて小さいながらもプクリと膨らみその存在を主張してくる。
でも刺激に対して反応しただけで、この行為を気持ちよく感じては居ないだろう事も、ちゃんとわかっている。女の子だって、胸だけ触って感じてくれる子は少なかった。
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