口でして貰う気持ちよさを思えば、してやりたいし、して欲しいと思う。けれどやってみないと出来るかわからないと言っていた事を、今試してしまうのはどうだろう?
後追いしてくるから、こちらが咥えれば相手だって張り合って、取り敢えず口でしてくれるのはわかっている。でも無理をさせたいわけじゃない。
「先輩?」
余裕なんてなさそうなのに、こちらの逡巡を感じ取ったらしい相手が、どうしたのかと問いたげに見つめてくる。
「ゴメンね」
謝れば不思議そうな顔をするから、こちらも首を少しばかり傾げてやった。
「他のことに意識散らしてるの気付いて、それを咎めたわけじゃないの?」
「何、考えてたんすか」
硬い声は掠れかけたうえに緊張が滲んでいる。試されている側と言っていたから、ダメ出しでもされると思っているんだろうか。
「他のことって言っても、結局はお前のことなんだよ。ちょっと、どうすればもっと一緒に気持ちよくなれるか、考えてただけ」
「やっぱ、もの足りないてこと、すよね」
はぁと熱くこぼれた息はため息にも似ている。ああ、失敗した。
「ちっがう、って。メチャクチャきもちぃしお前可愛いし、もっとアレコレ色々してみたいけど、お前に無理させたいわけじゃないし、お前に引かれたくないの。俺の恋人になるのは無理だって思われたくないの」
「それ、まるで、俺に恋人になって欲しいみたい……っすよ」
「そうだよ。そう言ってるんだよ」
言えば少しばかり大きく見開いた目を、パシパシと何度か瞬かせる。それから嬉しそうに、おかしそうに、顔を綻ばせながらクッと喉の奥で笑った。
「先輩って、可愛いっすよね」
「は?」
脈略がなさすぎてすぐに反応ができずにいたら、相手はますます楽しげだ。
「なりますよ、恋人に。一ヶ月経ったら本気の告白しに行くんで、そしたら罰ゲーム終わらせて、俺をごっこじゃない恋人に、して下さい」
「それは、もちろん。でもお試しは? まさかここで中断とか言わないよな?」
とっくに互いの手は止まっていたけれど、だからって自分の手の中のものが萎えていないのも、相手の手の中にある自分自身の勢いが衰えていないこともわかっている。
「さすがにここで中断はお互い辛すぎじゃないっすか?」
「んぅっ」
くちゅっと尖端を指の腹で擦られて、一瞬だけ息を詰めた。
「先輩俺より全然エッチだし、したいこと全部出来るとはとても言えそうにないっすけど、でも、恋人になって欲しいって事は、俺が出来る範囲で満足してくれる気でいるんすよね?」
「うん。というか俺、エッチなことさせてくれないからって理由で、彼女に別れてもらった事なんてないんだけど……」
逆はある。挿れてくれないのは愛されていないからだと判断されて振られる事はあった。あまりに求められたら、変な既成事実を作られる前に、応じられないと言って別れを切り出すこともあった。でも基本的には振るより振られる方が断然多い。
「別れてって言わないことと、お前じゃ満足できないって思わないことは、イコールじゃないっすよ。先輩に振ったつもりがなくても、別れるといい出すのが相手側でも、それって結局、先輩が振ってるのと変わりないと思うんすよね」
そんなことは考えたことがなかった。言われてドキリと、心臓が嫌な感じに跳ねる。
「先輩を好きって思ってたら、それに気付いて恋人続けられなくなる人が居るの、わかる気がするんすよ。というかきっと俺は、そうなるタイプっす」
「そ、……っか」
辛うじて吐き出した声ははっきりと掠れていた。相手は責めてるわけじゃないっすけどと苦笑してみせる。
「先輩は優しいっすけど、それは特別な一人に対してだけじゃなくて、誰にでも同じように優しいんすよね。先輩が恋人とあまり長く続かないの、相手が誰でもいいの隠さないからってのも、理由の一つなのわかってます?」
「それは、まぁ」
「誰でもいいなら俺でもいいっすよね。とは思うんすけど、お前じゃ物足りないって態度を長く続けられたら俺のほうがダメになるのだけ、覚えてて下さい。これから俺は、先輩を本気で好きになるっすけど、自分の傷が深くなる前に離れようと思ってるくらいには、俺だって自分が大事なんで」
「わか、った」
「萎えるようなこと言ってすみません」
続けていいっすかと言いながら、止まっていた手をゆるゆると動かし始める。ずっとこちらを追いかけるように動いていた手が、相手の意思で好き勝手に動き始めたことで、中断していた熱はあっと言う間に再燃した。
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