わかりやすく順番に話してくれというこちらの要望に、沿ってくれたのかも知れない。
「別に他に付き合いたい相手がいるわけでなし、お前が俺を捨てる気になるまで待ってやるつもりだけど、って言ったら?」
俺からはふらないって思ってくれていいよと付け加えてやる。なのに、喜ぶような様子は欠片もなく、むしろ呆れられた気配がする。
「だから年齢考えてくださいってば。あなたクズだよとか言いながらも優しいから、本気で俺の気が済むまで付き合ってくれそうで、そんなの困るんですよ。というかあなたこそ、俺をつけあがらせるし、そんな俺に付け込まれること考えてくださいよ。さっきのあなたじゃないですけど、どこまで先のこと考えて言ってんですか、それ」
数ヶ月も付き合ってやれば飽きるか幻滅するって思ってませんかと言われたけれど、数ヶ月で相手からもう終わりにしようと言われるならそれでもいいし、逆にだらだらと何年も続いたとしたって別に構わなかった。正直にそう伝えれば、やっぱりまた、ちっとも年齢を考えてないと返された上に、二十歳の彼と一回り以上年上の自分とでは、一年の価値が違うだろうとまで言われてしまう。
まるでこちらの一年のほうが貴重だという口ぶりだけれど、普通は若い子の一年のほうが貴重なはずなのに。年齢差があるお付き合いの場合、大抵は年上側が若い子のいい時期を食い潰している、的な見方をされるものなはずだ。
「一年の価値が俺とお前で違うってのはわかるけど、それと俺の年齢がどう絡んでんだかわからねぇよ。俺がお前に付き合って自分の時間を無駄にするんだとして、それをお前が気にする必要ある? 逆に俺は、お前の貴重な二十代をケチなおっさんに付き合わせようとしてるんだけど? こんだけ年齢差あって、普通に仕事してんだから金だって本気でないわけじゃないけど、お前相手に金銭的な優位を利用する気がないってのは、お前の俺が好きって気持ちがなかったら成立しない関係だぞ。というか、たいした金出さずに若い体抱かせてもらうんだから、時間くらい好きに持ってけば?」
時間くらい好きに持って行けと言ったところで、こちらにも仕事やらがあるのでそうそう相手に時間が割けるわけではないけれど、やらせてくれないなら会う必要がないと思うほど性欲に支配された思考は抜けているから、ただ一緒に居たいだけなどという理由で傍をうろつかれても受け入れてやれると思う。もちろん枯れたわけじゃないので、やりたい気持ちになった時に断られるというのが続くのは困るが、現状そうなる可能性は低そうだとしか思えない。
「もし俺が女の子だったら、あなたの言い分にも納得、できるんですけど……」
黙って聞いていた相手が、先程までの呆れた様子から一転して、苦しげな声を絞り出すからドキリとして息を飲んだ。
「若いって言ったって、男の俺にそこまでする価値、ないですよ。付き合ったって結婚できないし子供も産めないし。年齢的にそろそろ後がないんだから、俺なんかに付き合って時間無駄にするべきじゃないです」
一人息子なんだから、と続いた言葉に、ようやく彼が気にする年齢の意味が理解できた気はしたが、こんなに何度もケチだと訴えているのに結婚したい意思があると思われていることに驚く。自分の稼いだ金を嫁だの子供だののために使う、という生活を受け入れられるなら、とっくに結婚していただろう。
恋人を作らなくなった理由の一つに、年齢的に相手が結婚を期待する、というのが間違いなくある。男である彼と恋人になってもいいと思ったのだって、結婚やらをせっつかれる面倒さがないから、という考えがあったことを否定する気もない。
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