でも先に飯なと言われて、食べながら当初の望みどおり彼が読んでいた方の感想を言い合う。白熱したそれは食べ終わった後も暫く続いたけれど、意見も出尽くしたあたりでじゃあそろそろしようかと言われて、最初は意味がわからなかった。
「寝室移動する? それともそこのソファでいい?」
重ねられた言葉に、すっかり意識の外へ追いやっていた先程の会話を思い出す。そうだ。さっき彼は、セックスさせてくれると言った。
行為への期待からか心拍数はあがっていくのに、同じくらい不安が広がってもいる。
「怖気づいたならやんなくたっていいけど、次にいつ、その気になるかはわからないぞ?」
本当にどっちでも良さそうな若干投げやりな態度と言葉に、ここで断ったら多分二度目はないと察知する。少なくとも、好奇心でやってみたいが通じるのは今日この時だけ、なんだろう。
「やります、よ」
やった後、気持ちや関係がどうなるのかはわからないが、少なくとも今の段階では今後も通う気でいるので、リビングで致すのは気が引ける。というか今後ランチの度に意識する羽目になるのが目に見えている。
それを口にはしなかったが、寝室に移動したいと言えば、あっさりじゃあおいでと席を立つ。
連れて行かれた寝室には、シングルサイズのごくごく普通のベッドと、小さな本棚だけが置かれていた。本棚にはガラス扉が付いていて、そこに並んでいるのはきっととても大切にしている本たちなのだろうと思う。
一冊一冊柄の違うブックカバーが掛けられていることなども、本部屋や仕事部屋に置かれた本との扱いの違いがあからさまだった。
「ここの本は触っちゃダメだよ」
どうしたって気になってしまう本棚をジッと見つめていたら、クローゼットを開いて何やらごそごそやっていた相手が、本棚と自分との間に割って入りながら言った。
「あんな大事そうな本、許可もなく触りませんよ」
「知ってる。じゃなきゃ寝室に入れたりしない。でも一応な」
「それより、それ」
すっごい食いつきだったからと苦笑する相手の手には、ローションとゴムの箱らしきものが握られている。しかもどちらも間違いなく使いかけだ。
「ああ、初めて見る?」
「最近は薬局にも平気で置いてますよ、ローション。ゴムはコンビニでだって買えます。じゃなくて、思いっきり使いかけですけど、まさか恋人居たり、するんですか?」
「恋人なんか居るはずないって思ってたか?」
「居るならダメでしょ、こんなの」
「真面目だね。あと目ざといな。使いかけなんか出して悪かったよ。気遣いが足らなかった。大丈夫。居ないよ、恋人なんて」
一人でするのに使ってたと平然と続いた言葉に、カッと体が熱くなる。ただローションをペニスに垂らして擦るオナニーという可能性だってあるのに、目の前の男がベッドの上で自ら尻穴を弄っているアナニー姿を想像してしまった。
「当然そんなことを言うお前にも恋人は居ないって事でいいんだよな?」
「いません、よ」
「さすがに後ろは処女だと思うけど、童貞? 彼女いた事あったよな。高校生の頃」
「そんなの、覚えてたんですか」
「まぁ、あの頃既に、お前以外はほとんど本読みになんか来てなかったからな。お前もこのまま来なくなるのかなって思ってたところに、頻繁に顔出すようになったから印象に残ってる」
最近立て続けに来るねと声をかけられて、彼女に振られたからだと答えたのを覚えている。
「あの時、ああそう、って随分軽く流されたから、そんなの忘れてるとばかり」
「あまり積極的に関わってなくても、うちに通ってた子どもたちが俺に報告してくれた事は、それなりに覚えてるよ」
「そう、なんだ」
「そう。で、俺の問いに関する返事はないの?」
「問い?」
「お前、童貞? 俺で童貞捨てさせてって思ってる?」
「童貞じゃない、です」
「そ、なら良かった」
何が良いのか聞き返す前に腕を引かれてベッドに押し倒された。
「抱くんでも抱かれるんでも、どっちでもいいんだよな?」
ああこれ、自分が抱かれる側になるのか。
そう思いながら、見下ろしてくる相手を見つめ返して、はいと短く返した。
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■
HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁
えっ、えぇ?・・・抱くのか・・。(笑)
あっ!タイプだから、通ってたのか。
読み返しなどしながら、ん?これが伏線かも、
おおぉ、などと今回も楽しんでいます。
るるさん、戸惑いの滲むコメントをありがとうございます(笑)
正直この二人の左右はどっちでも良くて、どっちにするかメチャクチャ迷ってたんですけど、視点の主は絶対抱かれた経験はないだろうなと思うと、おっさんの心情面も考えて好奇心での主受はやはりハードルが高そうかなと。
というわけで、おっさんには乗っていただく事にしました。
使いかけローションでうっかり想像したことはあながち間違いでもなかったって事で(●´艸`)
こんばんは〜。1日に何度もすいませんf^_^;
こっちも読んでました。自分は待つのが辛いので完結してから続きは読もうと思ってたのですが読んでしまいました。
だ、抱かれる側とは〜(笑)固定観念はだめですね〜。
すごくいいところなので次こそ完結した頃読みに来ます〜。
それまで別のお話読ませて頂きたいと思います〜。
睡魔さん、いえいえ沢山読んでもらえて、コメントまで頂けて、凄くうれしいです(∩´∀`)∩ワーイワーイ
この二人は少なくとも一度は受攻両方体験するリバップルと思ってますが、最初はどっちが抱かれる側になるかかなり迷って、手っ取り早く一応経験がありそうなおっさんに抱かれて貰う事にしました。
おっさんが色々拗らせてる人なので恋人になるまでとなるとまたグダグダに長くなりそうなのですが、さすがにそこまで書くつもりはなく、今回のは一度エッチする所までで一段落と思って書いているので、多分そこまで長くならずに終われると思います。
一段落つく所まで書けたら、ぜひまた読んでやって下さい〜(^^♪