付き合ってもつまらない男、の意味は割とすぐにわかった。つまらないというか、張り合いがない。
デートなんてのは中身そのものよりも一緒の時間を楽しむものだという認識だけれど、どこに連れて行っても何を食べさせても反応にそう大きな差がない。もちろん、自分と過ごす時間を楽しんで貰っている実感もない。
処世術的な感じでそつなく対応してくれるから、そうそう不快にはならないのだけれど、でもデートを重ねるほどに相手との熱量の差を感じていく。つまらないと言ってふりたくなる気持ちがわかる程度には、自分ばかりが相手に興味を寄せている事実を突きつけられる。
「そろそろ終わりにする?」
それを言われたのは、そこそこお気に入りの店で、本日のおすすめを口にした少し後の事だった。美味しいとは思うよといういつも通りの反応を貰って、ぼんやりと、手強いなぁと思っていた。目の前に座る男が、生きてて良かったって思えるような美味しいものや楽しいものに出会わせたいのに。
自分が良いと思うものをアレコレ紹介しているが、どれも反応が薄くて若干挫けかけてもいたから、期待はずれだったと言われるのも納得ではあるのだけれど。
「やっぱ、つまんないですよね。すみません。あんな大見得きっといて、ちっとも楽しませてあげられなくて」
「いや別にそこはいいんだけど。そっちこそつまんないだろうと思って」
つまんない男だって振っていいよと苦笑されて、ああなるほど、と思う。この人の、つまらない男だと振られてきたって話は嘘らしい。
つまらないってふりたくなる気持ちがわかるくらいには、事実つまらない交際ではあるから、全部が全部嘘ってこともないだろうけれど。でもこうやって振らせてきたんだろうなと思ってしまった。
「ズルい人ですね。俺に飽きたなら、飽きたから別れてくれって言うべきだと思いますよ」
思わず睨みつけてしまえば、相手は驚いた様子で目を瞠り、それからおかしそうに口元へ手を当てて、どうやら笑いを噛み殺している。
「何笑ってんですか。俺、そんな変なこと言ってませんよね」
「うん。言ってない」
「じゃあなんでっ」
「そろそろ別れたいと思ってそうだ、と思っただけなんだよ。同じ会社の直属の上司なんかとこんな遊び始めちゃって、別れたいって言い出せないなら可哀想なことをしたかなと、気を遣っただけっていうか」
「別れて気不味くなるような関係じゃないすよね。俺ら。振るなんてって嫌がらせしてくる可能性も薄そうだし、というかそういうタイプには思えないし。別れたくなったら言いますよ、ちゃんと」
「てことはまだ続ける気があるんだ?」
「ありますね。全然ありまくりです。てかそっちこそどうなんですか。酔った勢いで俺なんかと恋人になって後悔してんじゃないですか。期待はずれだったなって」
「まぁ確かに、期待してた方向とはだいぶ違っちゃったな、とは思ってるけど」
はっきりと期待はずれと言われて胸が重い。
「じゃあ振っていいですよ。期待はずれだったから別れようって言ってくださいよ」
「期待してた方向と違うってだけで、期待はずれとまでは言ってない。というかさ、俺は別にこのまま付き合い続けたっていいんだけど、俺と付き合ってるこの時間、君にとって無駄にならんの?」
「え、どういう意味ですか?」
「せっかく楽しく生きてるのに、その時間削って俺とデートする意味なんてあるのか、って聞いてるの。俺とデートしたって楽しくないだろ?」
「ちゃんと楽っ……」
楽しんでますよと断言しきれなくて言葉を止めてしまえば、正直でいいねと、相手はやっぱりおかしそうに笑っている。何度かデートを重ねてきて、初めて心から楽しそうな顔を見せてくれたのがこれって、と思うとますます気持ちが沈んでいく。
「ねぇ、まだ付き合い続ける気なら、一つ注文つけていいかな」
「注文?」
「俺がじゃなくて、君が楽しくなるデートプランを考えてよ。君が人生を楽しんでいるところをもっと見せて。それが出来ないなら、期待はずれだったから別れてくれって言うから」
そう言われて、期待してた方向というのが少しだけわかった気がした。人生めちゃくちゃ楽しいですよと言ったくせに、相手を楽しませることに重点を置いて落胆する姿ばかりを見せていた。
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