だって仕方がなかった。この男が自分にチラリとでも優しい面を見せるのは、同じ相手を好きになった同士だからだ。
同じように叶わない想いを抱える相手への憐れみ混じりの優しさは、すなわち、自分自身へ向ける憐れみと慰撫に他ならない。自分だって、相手への想いが育つ前までは、自分自身をそっと慰めるのが目的で、この男と行動を共にしていたと言ってもいい。
双方そういう認識が出来ていたからこそ続いている縁なのに、お前のことも好きになってしまったから、なんて理由で抱かれたいと言えるはずがないだろう。それに言ったところで断られるのは目に見えていた。
なんせ自分は、相手の好みからはかけ離れている。
かといって、抱かれることで慰めて欲しいなんてことも、言えるような状況になかった。言えないのがわかっていたからこそ、慰められたいならお前が抱かれる側でと、この男は言ったのだ。
想い人の彼のことを、抱かれたいではなく抱きたいという目で見ていることをこの男は知っていたし、好奇心で男を抱くまでは出来ても、好奇心で男に抱かれるなんて真似が出来るタイプではないことも間違いなく見抜かれている。
そう簡単に抱かれる側を選ぶことはない、という前提での、お前が抱かれろという訴えに、気軽に乗れるはずがなかった。だってこんなの、はっきり言ってしまえば、お前とそんな関係になるのはゴメンだと、そう言われているのと大差がない。
それでもあの時、はっきりと冗談じゃないと突っぱねられずに、どうしても慰めが必要ならという濁し方をされたのは、多分きっと保険だった。いつか、今日みたいな日が来た時に、なりふり構わず慰められたいと思う可能性を、この男自身考えたに違いない。
結果から言えば、自分たちの予想よりも彼の結婚はずっと遅くて、双方とも気持ちの整理が充分に出来てしまったけれど。でもその事実を隠してしまえば、それくらいにショックだったと言い張れば、彼の結婚というのは、抱かれてでも慰められたいと訴えても許されるくらい、大きな出来事であるのは間違いない。
後ろめたさは確かにあるが、転がってるチャンスを拾うくらいはしたっていいだろとも思う。抱かれる側になれば慰めてやると言ったのは、この男なのだから。
「お前だって黙って付いてきてんじゃん。わかってて付いてきて、だから、さっきもすぐに分かったって頷いたんだろ」
「それが何?」
「だから、それって、気持ちの整理が付いてたって、お前だって多少はショック受けてんだろって事。俺と、慰め合ってもいい、って思うくらいには」
指摘してやれば嫌そうに眉を寄せて、けれど口からはそうだねと肯定が返った。
「ほらみろ」
「ああもう、わかったから黙って」
痛いところを突いてしまったのか、不機嫌そうに言い放たれて、素直に従い口を閉ざす。相手だって、この誘いに応じようって思うくらいには、今でも彼のことが好きなのだという事実に、ほんのりと胸が痛んでしまうことには、いっそ笑いがこみ上げる。
喉の奥に笑いを飲み込んでいる事に気付かれた様子で、ますます嫌そうな顔をされたけれど、でももう諦めきったのか何も言われることはなかった。代わりに、開かれた足の間に伸ばされた濡れた手が、迷うことなく真っ直ぐにアナルに触れてくる。
「ぁはっ」
ブルッと身を震わせながら思わず開いてしまった喉からは、飲み込みきれなかった笑い声のようなものが漏れた。
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