可愛いが好きで何が悪い4

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 互いに互いが初恋相手だろうと、そもそも性別の認識が違っていたわけだし、そこから何かが進展するはずもない。写真を交換して、ちょっと昔を懐かしんで、それで終わりなはずだった。
 しかし、付属高校からの持ち上がり組だという彼の人脈に白旗を揚げて、夏休みを目前にしてすっかり友人のポジションに収まっている。テストの過去問は正直言って魅力的すぎたし、彼の周りは何かと有益な情報が多いからだ。
 利用していいよと言われて断れるほど、自分の頭脳に自信が持てなかった。
 ただし、間違いなく友人と呼べる親しさで付き合いが続いているが、学科内に自分たちの仲の良さを知る人間は多分いない。なぜなら、趣味を隠したいからあまり目立ちたくない。仲の良い友人と認識されるのは迷惑だ。という割と失礼な訴えを、相手があっさり受け入れたからだ。
 まぁ、代わりに結構な頻度で自宅アパートを提供する羽目になっているのだけど。
 自宅から通学している彼は片道2時間弱かけて大学に通っているそうで、つまりは翌日1限から授業がある日は友人宅に泊まれたら楽だよねってことらしい。
 ずうずうしいにもほどがある。とは思うものの、それを喜んで受け入れる人間がいることも知っている。というか寄生先はどうやら複数あるらしく、ここもその中の一つに仲間入りというわけだ。
 他にも寄生先があるからか、頻繁とは言っても連日入り浸りというわけではないのと、一応気を使ってか色々と差し入れを買ってくるのと、こちらの趣味を一切否定しないどころかむしろ興味を持って聞いてくれる節があって、今日いいかと聞かれたらついつい受け入れてしまう。初めて彼が訪れたときには仕舞っていたアレコレも、今はもう、当たり前に飾られていた。
 なお、平然と同じ布団に潜ってこようとするので、何度も泊まる気でいるなら布団は自分で用意しろと怒ったら、翌々日には布団一式が届いてしまった。そこまでしてうちに泊まりたいのかという呆れもあったが、自分用の布団を置かせてくれるなんてありがたすぎると喜ばれてしまって、その件にはあまり触れられなかった。
 家が遠いからと言う理由以外に、家に帰りたくない理由でもあって、あちこち寄生先を作っているのかも知れない。その寄生先の大半が女性なのも多分間違ってはいなくて、彼が代価に何を支払っているかも、わざわざ聞きはしないがなんとなく察してもいた。
 変な揉め事に発展しなきゃいいけどと心配はしても、それをモテて羨ましいという気には到底なれない。察しているからと言って、それを確かめるようなことも言わない。
 結局、夏休みの間はどうするんだ、とも聞けないまま最後のテストが終わってしまった。明日から夏休みだ。
 今からいいかと連絡が来たのは、夜も8時を過ぎていて、何をしていたのかと思ったら学科の友人たちとテスト終了の打ち上げでカラオケに行っていたらしい。その流れでなんでうちなんだと思いながら、別にいいけどと返せば、およそ30分後にチャイムが鳴った。
「アイス買ってきたから一緒に食べよ〜」
 テスト終わったお祝いと笑って差し出された袋の中には、ちょっとお高い有名アイスと、明日の朝食用かなと思われるサンドイッチがいくつか入っている。量的に、サンドイッチも多分2人分だ。
「いいけど先にシャワー浴びろよ」
「ごめん、臭い?」
「それもあるけど、汗かいてるだろ」
 カラオケ独特の臭いに混じって、汗と、あと香水か何かの臭いがしていた。
「そうだね、じゃちょっと行ってくるから待ってて」
 素直にバスルームへ直行した相手が戻ってくるのをこちらも素直に待ち、一緒にアイスを齧る。
「そういや夏休みってどうする予定?」
 こちらからは聞けなかった話題が、相手の口からするりと飛び出してきて少しばかり身構えてしまう。こちらの予定にはやましいことなど何もないのに。
「どう、って、基本バイトと夢の国通いしかしないけど」
「実家帰んないの?」
「あー……お盆前後に帰ってこいとは言われるかも」
「帰ってこいって言われたら帰る?」
「まぁ、多分」
「じゃあ、帰る時に連絡してよ」
「ああ、うち泊まるつもりが家主不在じゃ困るもんな」
「え、違う違う。俺、今年の夏はリゾートバイトでお前の実家近辺にいる予定だから」
「は?」
 実家がどの辺りかは以前何かで話したことがあるが、まさかそんな返答がくるとは思っていなくて驚いた。
「ここなんだけどさ」
 そういって差し出された住所は確かに実家からそう遠くはない。
「って海の家?」
「そうそう。住み込みOKだし、交通費出るし、お前の実家近いし、ここだなって思って決めた」
「俺の家が近いの、なんか利点あるわけ?」
「え、夏休み、俺と一緒に遊べる時間欲しくない?」
 その自信はどこからくるんだとツッコミを入れる気も起きない。こういう奴だというのはこのさして長くもない付き合いで既にわかっている。
「欲しくないけど」
「連れないなぁ。てかまぁ、下心は別にあるんだけどさ」
「下心?」
「お姉さん、見てみたいなぁって」
「却下」
「なんで!?」
「なんでって、そもそも会って姉貴をどうする気だよ」
「どうするって、仲良くなる?」
 仲良くなってどうするんだってのを聞いているんだけど。
「お前、あの写真見て、姉貴と初恋相手間違えないくらいには違うって言ってたろ」
「あー、それ、覚えてたか。でもほら、やっぱ一応確認しておきたい的な」
「何を確認するんだよ。てか確認した結果、姉貴に惚れたとか絶対なしだからな」
「なんで? 姉貴じゃなくて俺を見てよ、みたいな?」
「なんでそうなる。実の姉が、下半身がだらしない男の魔の手に掛かるのなんて、黙って見てられるわけ無いだろ」
「あー、ね。でもほら、選ぶのはお姉さんなわけだし?」
「とにかく絶対会わせないから」
 絶対に譲らないと強い意志を持って言えば、わかったと言って引いてくれたけど。でも一緒に遊びには行こうよねと笑う相手を、どうしても疑いの目で見てしまう。

続きました→

 
 
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