聞きたいことは色々17

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「俺だって現状に満足してる」
 少なくとも俺の方は、なんて言ったからか、隣から聞こえてきたのは少し不機嫌そうな声だった。
「強引に口説いたとは思ってないし、別に脅したつもりもなかった。俺と付き合うのはきっと都合がいいだろうと提案しただけだし、事実だったからこうして関係が続いてるんじゃないのか」
「いやだからそれ、そんなのに納得して良好な関係が続いてるとかちょっと信じられないじゃん?」
 どう考えたってけっこう難アリ物件のお前相手に、という言葉に内心首を傾げる。けっこうな問題のある恋人、だなんて感じたことがないからだ。
 でもまだ知らないってだけなんだろう。そう思ってしまうくらいには、出会ったばかりのこの男の言葉を信じられてしまう。
 過去の恋人の話なんてわざわざ聞かないけど、結構な人数と付き合ったり別れたりを繰り返してきたんだろう気はしている。つまりそれは、恋人関係を長く続けられないとも言える。
 そう思うと、そんな男相手にこのままダラダラと恋人を続けていられると考えていたこと自体が、間違っていたのかも知れない。
 相手を落とすゲームだの言ってたのを覚えているから、中には落とすまでを楽しんで付き合ったあとはあっさり熱が冷めた恋人とかも居たんだろうとは思うけど。でも自分含めて、そうじゃない恋人だって居たはずだ。
 自分としては、まだたった半年って思うんだけど。でも半年っていうのは、血縁関係はなくても一緒に暮らしていたことがある家族同然の男に、「良好な関係が続いてるのが信じられない」と言われるほどの長さらしい。
 そんな事実、知りたくなかった。いったいどんな理由で別れを切り出されるんだろう。
「実際、現状に満足してるらしいぞ」
「らしいね。まぁなんの不満もなく付き合ってるって感じでもなさそうだけど」
 突然知らない男が家に上がり込んでて随分不安そうだよと言う指摘に、彼は嫌そうな声で、誰のせいだと思ってると返している。それはそう。でもこの不安の一番の原因は、突然知らない男がリビングに居たことじゃない。
 このあと突然突きつけられるかも知れない別れに、すっかり怯えてしまっている。
「俺の存在隠してるとか思わないじゃん」
「居ないのにわざわざ説明する必要もないだろ。こんなあっさり戻って来るとか思わなかったし」
「嘘ばっか。こんな子恋人にしたら、俺が戻るのわかってたでしょ」
「え?」
「君、俺をここに引っ張り戻すために利用されたかもよ? って言ったら、こいつ見限って別れちゃう?」
「別れてって、言われたら」
 それが事実で、もうお前は必要ないからとか言われて別れを切り出されるなら、多分きっと受け入れるだろう。だって別れたくないと縋る理由がない。
 不安になって怯えるのは、別れてって言われたら終わるのが確定しているせいで、でも別れたいなんてちっとも思ってなくて、続けられるなら続けていたいと思っているらしい。
 しんどいって思うことがなかったからあまり実感してなかっただけで、結局、自分ばかりが好きな片想いは始まっていたってことなんだろう。気づかないままでいたかったけど。こんな場面で気づきたくなかったけど。
「ちょっ、ごめん。うそうそ。利用なんかしてないし別れてとか言わないから」
 眼の前に座っていた男がガバっと立ち上がったかと思うと、小走りで机を回り込んできて、いきなりぎゅっと抱きしめられてしまった。
 さっきからずっと堪えていた涙がとうとう溢れてしまって、どうやら相当慌てさせてしまったらしい。なんで慌てて慰めてくれるのがこの人の方なんだと思うと少し笑ってしまう。
 まぁ彼は隣りに座っているから、こちらの涙に気づかなかっただけなんだろうけれど。ってことにしておこう。でも気づいたからって、こんなふうに慌てて慰めに来てはくれないだろうなとも思うけど。
「ねぇ、寝室って」
「たまに掃除はしてる」
「じゃあちょっとこの子借りてくね」
 ちょっと二人だけで話をしようと言われて連れて行かれたのは、開けたことのないドアの先だった。

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聞きたいことは色々16

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「そいつは戸籍上の兄で家主だよ。急に戻って来るから俺もびっくりした」
 寝室に姿がなかったからリビングに居るのだろうと思っていたが、どうやらキッチンにいたらしい。ちょうど朝食が出来たようで、キッチンから出てきた彼は両手に皿を持っている。
「戸籍上の? 兄で、家主?」
 不満と不信感があからさまにならないよう気をつけつつ、どれも初耳なんですけどと続ければ、相手は軽く肩をすくめてみせる。少し面倒そうな顔をしてるから、あまり会わせたくないと思っていたのかも知れない、とは思ったのだけど。
「暫く帰らないと思ってたし、紹介する必要が出る前には別れてるかと思って」
「そ、っすか」
 どうにかそう返したものの、内心けっこう動揺していた。順調にお付き合いを続けていると思っていたのは自分だけで、相手にはこの関係を長く続ける気がなかったらしい。
 好きだと言ったことはないし、しんどい片思いを抱えている自覚もないが、別れを想像して胸が痛むくらいにはちゃんと情が湧いている。
 別れる気でいたなんて知らなかった。そういうのは始める時に教えておいて欲しかった。せめてこんな形でじゃなく、知りたかった。
 なんで今なの、と文句の一つくらいは言ってやりたいのに、でも口から出たのは全然違う言葉だった。
「でももう会っちゃったし、ちゃんと紹介、してくれるんですよね?」
 言えば食べながら説明すると言われて、席に着くよう促される。
 それから改めて、初めましてと自己紹介を始めた男の名字は、確かに彼と一緒だった。けれど二人に血の繋がりは一切ないらしい。二人ともとある男の養子になっていて、だから戸籍上の兄弟なんだそうだ。
「戸籍上の父親は母方の叔父だから、俺とは血縁関係あるけど。あと養子って言ってもこの人は実質叔父の嫁な」
「えっ」
「だからってこの子の義理のお母さんになったつもりは欠片もないんだけどね」
「当たり前だ。つかこの子言うなよ」
「わざとに決まってるよね。いやぁあの頃は可愛かったなぁ」
「嘘つけ。顔だけ詐欺だの、中身が可愛くないだの、言われまくった記憶しかないわ」
 自分相手にはもちろん、職場の誰とだって、彼がこんなに気安く話しているのを見たことがない。嫉妬したって仕方がないのに、わかってたって胸はチリチリとして痛かった。
「仲、いいんですね」
 その指摘に彼は少し気まずそうにしながら、色々あったから、と言い訳みたいなことを告げる。
「ほんと色々あったんだよねぇ」
 しみじみと同意する声は、直前の楽しげなやり取りと打って変わって、なんだかさみしげだった。
「で、その叔父さんは……?」
「いない」
「いない?」
「事故って死んだ」
「は……」
 随分あっさり告げられたが、そうなんですねと軽く流せるわけがない。とはいえ、そんなことを聞かされてとっさにどう返すのが正解なのかもわからなくて、結局言葉に詰まって何も言えなかった。
 ただ、しみじみとさみしげな声の理由がわかってしまって、なんだかこちらまで切なくなってしまう。
「そんな顔しなくていいよ。乗り越えたと言えるかは微妙だけど、こうして君の顔見に戻ってこれるくらいには消化できてる」
「つか戻る理由がそれって」
「いやだって恋人できたとか聞いたらそりゃ気になるでしょ。しかもなんか面白そうな子っぽいし」
 一体何を聞かされているんだろう。面白そうな子、ってなんだそれ。
「面白いとか言われた記憶、あまりないんですけど。あなた俺のこと、面白い奴って思ってたんですか?」
「俺が勝手に、面白そうな子って思って見に来ただけだよ」
「ちなみにどのへんが? というかこの人、あなたに俺のことなんて言ってるんですか」
「気になる?」
「そりゃあ」
「その前に確かめておきたいんだけど、こいつのこと好きじゃないってホント? 脅されて恋人やってんの?」
 微妙に肯定しづらい質問だが、否定するのもオカシイと言うか、事実そういう流れだったという認識はある。
「なんとも答えにくい質問ですね」
「そうなんだ?」
「かなり強引に口説かれたのは事実ですね。でも嫌々付き合ってるわけじゃないし、現状に満足はしてましたよ。少なくとも、俺の方は」
 随分含みを感じると笑われたが、だって別れる気があるなんてさっきまで知らなかった、とは言えなかった。思い出したらまたキュッと胸が痛くて、それを口に出したら、一緒に涙まで溢れてしまいそうだったから。

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聞きたいことは色々15

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 夢見ていたと言うか想定していた恋愛とは全然違った始まりだったものの、お付き合いはそれなりに順調だった。
 月に1〜2回程度デート名目でどこかしら出かけて、セックスするだけの仲だけど。プライベートでやりとりするメッセージに甘い言葉が並ぶことはないけど。
 でも特別不満を感じてはいないし、何かを改善してほしいと強く思ってもいないし、実はそこそこ満足してもいる。相手が言っていた通り、初めて付き合う相手として、たしかに悪くはない相手なのかも知れない。
 相変わらず好きだと言われることはないものの、デート中はまぁまぁ甘やかされているような気もすると言うか、それなりに気に入ってくれてるのは伝わってくるし、一応あれこれ気遣われてもいるようだ。
 当然こちらも好きだなんて言わないけれど、こちらの好意がどれくらい相手に筒抜けなのかはわからない。そういや、それに対する言及はされたことがない。
 男同士でのデートに躊躇いがない相手にヒヤヒヤさせられることは多々あるけれど、こちらが本気で嫌がるラインを踏み越えての無茶振りはしてこないし、ヒヤヒヤとドキドキは近しいものがあって、人目を盗んで掠め取られていくキスに興奮まではしなくてもうっかりトキメク瞬間はある。
 だってしてやったりって顔で楽しそうに笑うから。あと稀に、こっちの反応を愛しげに見つめてくることがあるから。そんな目で見られたら、うっかりドキドキするし逆にこっちが見とれてしまうこともあるけど、それを指摘されて揶揄われたことはない。
 恋人って関係さえ続けられれば、こっちの気持ちはどうだっていいのかも知れない。と思うと少しだけ虚しいような寂しいような気持ちになるけど、好きはあげないけど好きを頂戴とか言われるよりは断然マシだろう。
 セックスだって、毎回初回みたいに抱き潰されたりはしないというか、むしろあんなの初回だけで基本相手が1回イッたら終わりになるけど、毎回充分すぎるくらい気持ちよくされてるから不満なんか出ようがない。
 基本相手任せで、恋人がいるという状態の経験値だけガンガン詰んでいるような日々だった。
 恋愛経験値が上がってる気はしないけど。恋愛してるって実感はないけど。まぁこの人相手に恋愛したいわけでもする必要があるわけでもないのだから、今はこれでいいかと、この状況を受け入れきっていた。
 自分ばっかり好きになってしんどい片想いが始まりそうだ、という当初の不安が外れたのも、この状況を受け入れられている理由の一つかもしれない。
 ドキドキはするしトキメクしそれなりに好意が育っている実感もあるのだけれど、相手のこちらの好意を欲しがってなさそうな素振りだとか、こちらの気持ちを気にする様子のなさに、けっこう萎えさせられている。
 好きって気持ちがなくても付き合ってていい。この状態を続けてていい。と思えるのは気楽でもあった。
 けれど、このままダラダラとこの関係が続いていくのも別に悪くないなんて思っていられたのは、変わらないまま続けることが可能だと思い込んでいられたのは、そう長くはなかった。
 交際開始から半年と少々経った、相手宅にお泊りをした翌朝。リビングに行ったら知らない男がテーブルについていて、なのに相手はこちらを知った様子で、明るい笑顔でおはようと声を掛けてきたせいだ。
 年齢はそこそこ上っぽいけど、親ほど離れた感じはしない。兄弟かとも思ったけれど、兄がいるなんて聞いたことはあっただろうか。少なくとも、一目で兄だとわかるような要素はない。
「え、誰!?」
「そうそう。初めましてだったよね」
 よく話に聞いてたから初めましての気がしなくて、と言われたけれど、こちらは相手の話なんか一切聞いてない。何者なのか欠片も検討がついてない。
「いや俺は一切話聞いてないですけど」
「あれ、そうなの?」
 事情聞いてないのと言われて何もと返せば、相手はそこで考え込んでしまう。本人が告げてないことを話してしまっていいのか迷っているのかも知れない。

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聞きたいことは色々14

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 泊めてと言ったからには、車は相手宅へ向かうのだろうと思っていたのに。途中からどこへ向かってるのかわからない景色になって、というよりは明らかに街中から逸れて山道を登り始めて、やがて辿り着いたのはどうやら展望スポットらしい。
「いいとこ、とか言うから、馴染のラブホでもあるのかと思ってました」
 いったいどこ向かってるんですか、というのは当然尋ねていて、その時の返答が「いいとこ」だった。
 確かに見下ろす景色は綺麗だし、多分、知る人ぞ知る的な穴場スポットなんだろう。なんせ車が3台停まれるかどうか程度の広さしかない。
「ラブホ街はもうちょっと違う方向だなぁ」
 じゃあ次のデートはラブホ行こうかと言われてしまって、ラブホ予測を口にしたのは完全に失言でヤブヘビだったけど。
「ホントは夜景がオススメなんだけどね」
 良い案ですねとも嫌ですとも言えずに、黙って眼の前の景色に見入るふりをすれば、隣に並んだ相手が、さすがに早すぎるなと残念がった。昼に待ち合わせて買い物とランチくらいしかしていなかったので、日が暮れるのはまだまだ先だ。
「でもまぁこの時間も悪くないよね、人居ないし」
 特に週末だと、車が停められない、なんて場合もないわけじゃないらしい。
「そんな人気観光スポットなんですか」
「ここからの夜景がけっこう綺麗、ってのはそこそこ知られてるんじゃないの」
 全然知らない? と聞かれても、知りませんと返すしかない。車を持ってるかどうかで、気に留める観光情報はだいぶ違うだろって話な気がするけど。だって知ってたって、こんなとこ一人じゃ来れない。
「じゃあここの夜景も候補に入れとこう」
「デート先の?」
「そう」
「デートはちゃんとするんですね」
「だってセックスしかしないなら恋人じゃなくてセフレじゃない?」
「なるほど」
 そういう基準か、と「恋人」の解像度が上がっていく。
 今日の買い物やドライブやこの展望スポットもそうだけど、デートに誘ってるってはっきり言われたし、さっきはデートっぽくドライブしようとも言ってたし、ちゃんと恋人っぽいことをしてくれる気はあるらしい。
 ここの夜景はともかく、さっきラブホも今後のデート先候補に入れられてたっぽいけど。映画だの水族館だの動物園だの遊園地だのの定番デートスポットでも、行きたいって言えば一緒に行ってくれるんだろうか?
 そもそも、映画はともかくそれ以外は行きたいと言えないと思うけど。というか憧れ的なものはあるけど、男二人で? 定番デートスポットに? と考えて尻込みしてしまうに決まってる。
「俺、デートするの好きなんだよね」
「へぇ意外……ではないか?」
 反射的に意外だと思ったのは、男同士でデートすることに躊躇いがないらしい、って部分に対してだからだ。というか多分自分は人目をそれなりに気にすると思うし、純粋にデートを楽しめるかは正直あまり自信がない。
 今日だって、買い物中は買い物に付き合って貰ってるだけって内心いっぱい言い訳してたし、車出して貰えて良かったって心底思ったし、人の居ないデートスポットを知ってるのも、そこにシレッと連れてくるのも、さすがだなって感心しきりだ。
 でもこの人はゲイであることを隠してないから、同性とのデートも、人目なんか関係なく楽しめるのかも知れない。
「お、理解して貰えそう?」
「賛同は出来ませんけど、まぁ」
「賛同は出来ないか。でもちょっとずつ慣れれば、ね」
「ですかね。こういう人が居ないデート先なら、安心して楽しめる、かも?」
「多少は人が居たほうが、俺はスリルあって楽しいけど。それも含めて、慣れてけば、かな」
「いやスリルとかは求めてないんで」
「だとしてもやっぱ多少の刺激は必要でしょ」
 ふいに横から伸びてきた腕に肩を抱かれて、グッと引き寄せる力に従えば、顔を覗き込まれる気配と唇が触れ合う感触と、チュッと小さく響くリップ音。
「え……」
 前触れがなさすぎるキスに驚きよりも戸惑いが大きいが、相手はいたずらが成功した子どもみたいに上機嫌に笑っている。
「誰も居ないところで掠め取るキスより、人目を盗んで掠め取るキスのが興奮するけど、まぁ、嫌がられない程度に、と自制する気も一応はあるから」
 あまり警戒しすぎないで欲しいと言われても無理な話だ。
「社内でとか絶対なしですから! 慣れとか関係ないですから!」
「ああ、まぁ、そこはね。さすがに懲りてる」
 デート中以外で手ぇ出したりしないからと言われても、やっぱり欠片も安心できない。だって再度のキスは外でするにはあまりに濃厚だったし、勃っちゃったなら車の中で抜いてあげようかって提案されたし、それをお断りしてさっさと相手宅に向かってもらうよう説得するのはなかなかに大変だった。

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聞きたいことは色々13

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 何が不満? と聞かれて、逆に何が良いんですかと尋ね返した。
「俺が未経験だったから抱いてみたかった、ってだけじゃないんすか。一回やったら興味なくしてポイなんだとばかり思ってたんですけど。てか、恋人になろうって言ったのは俺が抱かれる気になれるようにだし、俺が本気で好きになったらどのみちポイするんですよね?」
「なんか色々誤解されてる気もするけど、恋人になったと思ってたから、お前を落とすゲームをやってる気はなかったよ。でもあの晩限りの恋人と思ってて、今はもう恋人じゃないって言い張るなら、今からお前を落とすゲームを始めるのもありだよな」
「待って待って。だってもう抱かれたのに? 俺を落としてどうすんですか?」
 好きにさせてから振るのが楽しいとか言い出したらドン引きなんですけど、と続けたら、おかしそうに笑われて、そこまで悪趣味じゃないけど、と返された。
「けど、なんですか。結果的にそうなっちゃうよね、みたいな話ですか」
「どうだろね。結果的にそうなる、と言えないこともないのかもだけど、説明が難しいな」
 好きになって貰う過程を楽しむのは事実で、だけど別れを楽しんだりはしてなくて、でも惜しいとも悲しいとも思わないから薄情なのもきっと事実、らしい。好きになって貰うまでが楽しければ楽しいほど、ある程度満足したところで急激に気持ちが冷める、らしい。
「標的にされる相手が可哀想すぎじゃないですか。てかそれが俺になるかもとか、大迷惑なんすけど」
 恋愛未経験者を弄ばないで下さいよと言ったら、やっぱり可笑しそうに笑っている。こっちはちっとも笑えないのに。
「だからそんなゲームなしで、もう恋人ってことでいいだろ」
「だから! 俺の何が良くて恋人とか言ってんですか、てのを聞きたいんですって。そういや抱かれてる間『いいね』って何度も言われた記憶あるんですけど、あれって何が良かったんですか?」
「そうだな。端的に言えば、恋愛未経験でセックスも俺とのあの1回しかまだ知らないとこ」
「つまり体目当てなんだ……」
 知ってた!
 てかそれくらいしかないだろうことを、まんまと言われてしまっただけだ。
 特別鍛えてるわけでもないけど、運動は嫌いじゃないと言うか勉強に比べたら体を動かすほうが断然好きだったから、そこまで見劣りする体ではないはずという自覚はあった。それに、色々経験してそうだけど、むしろ経験してるからこそ、他の男を知らない体がいいのかも知れない。なんてことを思ったりもしていた。
「男なんて結局そこでしょ」
「ですよね」
 はぁああ、と大きなため息が零れ落ちていく。
 だって見た目なんか至って平凡で、相手と比べたら完全に見劣りするレベルだし。こんな人だと思わなかったって感じたくらい、相手だってこちらのことなんか大して知りはしないだろうし。って考えたら、魅力があると言って貰えるのなんか体だけなのは納得でしかないんだけど。一応は可愛いとも言ってくれてたんだから、何かしら、こういうところが好ましい的なものが聞けたら良かったんだけど。
 この人にとっての「恋人」ってのはセックスをする相手のことを指していて、恋愛する相手を指していないんだろう。欲しかったのは恋愛相手で、互いに恋情を持って付き合うことを「恋人」と呼ぶのだと思っていたのに。
 この人と恋人として過ごす時間が増えたら、こういう人だってわかってたって、本気で好きになったらポイされるって知ってたって、絶対好きになってしまう。今現在、強引に恋人関係に持ち込もうとされたり、体目当てを隠しもしない態度を取られているのに、ちっとも嫌えそうにないのがそれを証明している。
 こんなの、体だけが目当ての恋人相手に虚しい片想いが確定だし、本気の好きがバレたら捨てられるって不安が常に付きまとうことも確定だ。こんな確定事項、憂鬱になるに決まってる。
「そんなに嫌?」
「嫌じゃないです。てか俺を落とすゲーム始められる方が断然嫌です」
「だよねぇ」
 今度は相手から、小さなため息が吐き出されてくる。
「正直、なんかもう色々面倒だから落とすゲーム始めたい」
「やですってば。てか恋人でいいです。文句ないです」
 今夜また泊めてくださいよと誘いをかければ、「いいよ」と短いながらも機嫌の良さそうな肯定が返った。

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聞きたいことは色々12

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 相手からの申し出だったのと、人目を気にせず話をするのに良さそうかもと思って、買い物デートは相手に車を出して貰うことにした。
 ただ、もともと強引に捻り出した「買い物」は当然のようにあっさり終えて、さぁじゃあじっくり話し合いを、と思ったところで次の目的地をどうするか聞かれて迷う。駐車場に停めた車の中で話せばいいかと思っていたけど、それじゃダメなんだろうか。
「ダメ、ではないけど。つか今のは、お前の家まで荷物運ぼうか、っていう提案だったんだけど」
「あ、次の目的地ってそういう……」
 重いものも嵩張るものも買ってないので、送ってもらう必要はない。車を出してもらった理由はそこじゃない。
 必要ないですと言えば、わかったと相手も即座に了承する。同時に、なんのために車を出してもらったかも思い出したらしい。
「話し合う時間が必要だろとは確かに言ったけど、そんな話すことないよなとも思ってんだよね。だって俺が恋人で不都合とかある?」
 身近なとこで欲しかったんでしょ、恋人。と言われてしまうと、そうだけど、とは思うんだけど。
「じゃあとりあえず俺の家向かうのでいい?」
「え、なんで!?」
 急に話が変わったのと、想定外すぎる次の目的地に驚いた。恋人が欲しい自身の気持ちに向き合ってる場合じゃない。
「家送らなくていいみたいだし、他に行きたいとこがあるわけでもなさそうだし」
「いやいや、ちょ、それは。えと時間下さい」
 行きたいとこ探しますって言ったら、あからさまに避けるねって苦笑されてしまった。
「だって家にお邪魔したら結局またエッチなことする流れになりそうで」
「うん。でもそれ、何か問題ある?」
 恋人が2週間ぶりに二人きりになってヤらないとかある? と聞かれても困る。だって恋人と2週間ぶりの恋人らしい時間、なんてウキウキと期待する気持ちが全然ない。
「だから! そもそも! 2週間ぶりの逢瀬、みたいに思ってんのそっちだけなんですって」
 なるほど、って返ってきたら、理解はしてくれたらしい。
「じゃあ適当にドライブでもするか、デートっぽく。さすがにこのままここで話し合うよりいいだろ」
 さすがにそれを引き止める言葉は持っていなかったので、車はあっさり動き出す。
「でさ、話戻すけど」
 しばらくして、相手がそう切り出してくる。
「どこに戻るんですか?」
「俺が恋人で不都合があるかって話」
 そういや相手の家に向かうのを阻止するやり取りの前はそんな話題だったっけ。
「むしろかなり都合のいい相手だろ、って思ってんだけど」
「でもこの2週間、恋人っぽいこと何もなかったですけど?」
 付き合ってるって認識だったんですよね? と確かめてしまえば、職場でゲイバレするのは嫌だろうと思ってただけと返ってきた。こちらからのそれっぽい行動が一切ないのも、同様の理由と思ってたらしい。
「まさか恋人になった認識がなかったせいだとはな。まぁプライベートの連絡先を交換しそこねてたのと、それに気づかず結果的に2週間も放置になったのはこっちのミスだが」
 会社でも恋人っぽいやり取りが必要? と聞かれて、慌てて首を横に振りつつ否定した。身近なとこで恋人が欲しいのは事実だけど、だからって職場バレなんか気にしない、という心境にはどうしたってなれそうにない。
 それに、校内でエロいことして退学になった過去持ち相手に、会社でも恋人扱いしてなんて言ったら、何されるかわかったもんじゃない。せっかく入った会社なんだから、あまり変な理由で退職したくはない。
「逆に言えば、俺の方からの会社バレはないって言い切れるくらい、完璧に隠し通せるのが証明されたんじゃないか?」
 会社にゲイバレしないし、ちゃんとゴム使うし、自分の快楽だけ優先しないし、むしろお前がイキまくりな気持ちぃセックスできる、身近な恋人だぞ。これ以上都合がいい相手とか居る? と自信満々に言い切られてしまうと否定はしづらい。しづらいんだけど、だからって歓迎出来るかは別だ。
 恋人が出来たってワクワク感はないし、どうしたって不安が大きい。

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