抱かれたら慰めてくれんじゃないのかよ3

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 誘うと決めた時から、体の準備はしてきている。だから相手の指は難なく受け入れることが出来たのだけれど、他者の指が体内というか腸内を探る違和感はなかなかに凄かった。
 あっさり受け入れてしまったせいか、相手の動きに容赦がないのも原因の一つかもしれない。初心者どころか全くの未経験なのだから、もう少し優しく触れてくれればいいのに。
「っ……なぁ、」
 妙な声を上げてしまわないよう必死で息を整えながら呼びかける。
「なに?」
「ん、慰めて、……ぁ、くれんじゃないの、かよ、ぁっ、ゃ、んんっ」
 喋りやすいようにと途中で一瞬指の動きを止めてくれたものの、言い終えればまた、グチュグチュと中を掻き回されて慌てて口を閉じた。慰めという名の優しさをくれるつもりはないらしい。
「逆に聞くけど、俺に、可哀想にだとか、辛かったねだとか、そんなこと言われながら、頭撫でられてキスの雨降らされるみたいなセックス、したいわけ?」
 可哀想にだの辛かったねだのの言葉はさすがに要らないが、撫でられたりキスされたりならしたい。だってベッドに上がってから先、彼の手はアナルを広げるためだけにこの体に触れている。唇なんて、この体のどこにも触れていない。
「なら、お前の慰めるって、なに」
 返答を待つようにまた指の動きを止めてくれたので、されたいとは言わずに、逆にこちらからも問いかけてみた。ただ、答えはわかっているような気もする。全く好みでもない男を抱くっていうだけで、相手からすれば大きな譲歩に違いない。きっと、抱いてあげてるでしょって、返ってくるんだろう。なのに。
「わざわざ俺を選んで抱いてくれって頼む理由、一つしかないでしょ。いいよ。あいつの名前、呼んでも」
「はぁああ!?」
「そんな驚くような事?」
 想定外の言葉に驚きの声を上げてしまえば、相手は一瞬怯んだ様子を見せた後、ゆっくりと埋めていた指を抜き取っていく。違和感からの開放に思わずホッとしてしまったが、抜かれてしまったことへの戸惑いもあった。充分広がったから慣らすの終わり、って意味ではなさそうだからだ。
「いや、だって……」
「さすがに、あいつがどんな抱き方するかを考えながら、あいつの代わりにあんた抱く、みたいな器用さはないから、そういう期待があるなら捨てて。というか、期待はずれだってならやめる?」
「いや、いやいやいや」
 そんなこと全く思ってもいなかったし、またしても想定外すぎる返答に、ただただ否定のような何かを繰り返す。というか、止めたいのは相手の方なんだろうと思ってしまって胸が痛い。胸の痛みに気を取られて、それ以外を口に出せなかったというのも大きい。
「なにそれ。どういう反応?」
「いやいや、だって、そんなこと、考えてなかったっつーか」
「じゃあ何を期待して俺を誘ったって言うの。慰めてって、何して欲しいわけ?」
 お前に優しく抱かれてみたかっただけだよ、なんて、当然言えるはずがなかった。
「あのさ、やたらな相手と関係持ちたくないって気持ちはわからなくないけど、お金出せば、他の男の名前呼んでも優しく抱いてくれる男、買えなくないと思うよ?」
 まさかこんな提案をされるとは思わなかったし、この男はそうやって買った男を、彼の名前を呼びながら優しく抱いたのかも知れないという想像に、ますます胸が締め付けられる。名前も顔も知らない、金を出せば抱けるような男相手に、紛れもなく嫉妬している。
「俺、が、……」
 こんなことを提案しても、きっと無理って言われるんだろう。
「あいつの名前、呼んでいいっつったら、お前、俺をあいつの代わりに、抱けたりすんの?」
 絶対にもっと傷つくだけだとわかっているのに、それでも口からこぼれ出る言葉を止められなかった。

続きました→

 
 
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抱かれたら慰めてくれんじゃないのかよ2

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 だって仕方がなかった。この男が自分にチラリとでも優しい面を見せるのは、同じ相手を好きになった同士だからだ。
 同じように叶わない想いを抱える相手への憐れみ混じりの優しさは、すなわち、自分自身へ向ける憐れみと慰撫に他ならない。自分だって、相手への想いが育つ前までは、自分自身をそっと慰めるのが目的で、この男と行動を共にしていたと言ってもいい。
 双方そういう認識が出来ていたからこそ続いている縁なのに、お前のことも好きになってしまったから、なんて理由で抱かれたいと言えるはずがないだろう。それに言ったところで断られるのは目に見えていた。
 なんせ自分は、相手の好みからはかけ離れている。
 かといって、抱かれることで慰めて欲しいなんてことも、言えるような状況になかった。言えないのがわかっていたからこそ、慰められたいならお前が抱かれる側でと、この男は言ったのだ。
 想い人の彼のことを、抱かれたいではなく抱きたいという目で見ていることをこの男は知っていたし、好奇心で男を抱くまでは出来ても、好奇心で男に抱かれるなんて真似が出来るタイプではないことも間違いなく見抜かれている。
 そう簡単に抱かれる側を選ぶことはない、という前提での、お前が抱かれろという訴えに、気軽に乗れるはずがなかった。だってこんなの、はっきり言ってしまえば、お前とそんな関係になるのはゴメンだと、そう言われているのと大差がない。
 それでもあの時、はっきりと冗談じゃないと突っぱねられずに、どうしても慰めが必要ならという濁し方をされたのは、多分きっと保険だった。いつか、今日みたいな日が来た時に、なりふり構わず慰められたいと思う可能性を、この男自身考えたに違いない。
 結果から言えば、自分たちの予想よりも彼の結婚はずっと遅くて、双方とも気持ちの整理が充分に出来てしまったけれど。でもその事実を隠してしまえば、それくらいにショックだったと言い張れば、彼の結婚というのは、抱かれてでも慰められたいと訴えても許されるくらい、大きな出来事であるのは間違いない。
 後ろめたさは確かにあるが、転がってるチャンスを拾うくらいはしたっていいだろとも思う。抱かれる側になれば慰めてやると言ったのは、この男なのだから。
「お前だって黙って付いてきてんじゃん。わかってて付いてきて、だから、さっきもすぐに分かったって頷いたんだろ」
「それが何?」
「だから、それって、気持ちの整理が付いてたって、お前だって多少はショック受けてんだろって事。俺と、慰め合ってもいい、って思うくらいには」
 指摘してやれば嫌そうに眉を寄せて、けれど口からはそうだねと肯定が返った。
「ほらみろ」
「ああもう、わかったから黙って」
 痛いところを突いてしまったのか、不機嫌そうに言い放たれて、素直に従い口を閉ざす。相手だって、この誘いに応じようって思うくらいには、今でも彼のことが好きなのだという事実に、ほんのりと胸が痛んでしまうことには、いっそ笑いがこみ上げる。
 喉の奥に笑いを飲み込んでいる事に気付かれた様子で、ますます嫌そうな顔をされたけれど、でももう諦めきったのか何も言われることはなかった。代わりに、開かれた足の間に伸ばされた濡れた手が、迷うことなく真っ直ぐにアナルに触れてくる。
「ぁはっ」
 ブルッと身を震わせながら思わず開いてしまった喉からは、飲み込みきれなかった笑い声のようなものが漏れた。

続きました→

 
 
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抱かれたら慰めてくれんじゃないのかよ1

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 古い友人の結婚式帰り、同じく参加していた一人の男に声をかけて、予め取っていたとあるホテルの一室に連れ込んだ。特に何も言わずに付いてきた時点で、相手だってとっくにこちらの目的は察していただろうけれど、二人きりとなった部屋の中で改めて、抱かれる側でいいから慰めて欲しいと頼む。
 相手はこれみよがしに大きなため息を吐いてから、それでもわかったと頷いてくれたから、ひとまずはホッとして、それから互いにシャワーを浴びて準備をした。
 ベッドの上に仰向けに転がり足を開くように言われ、素直に応じながらも、内心は当然羞恥が募っていたし、不安や恐怖も当然あった。どうしたって相手の挙動が気になって、手の平の上にたっぷりのローションを垂らし、それを両手で捏ねる仕草をじっと見守ってしまう。
 躊躇いのなさが慣れているように見えて、見えるだけでなく、事実慣れているんだろうと思う。
 お互いそれなりにいい年齢で、まさか童貞なはずもない。結婚してしまった彼と、いま目の前にいるこの男だけが特別な自分でさえ、試しに男を抱いてみたことがあるくらいなのだ。相手にとっても結婚してしまった彼だけが特別で、それ以外の性対象が女性なのかまでは知らないけれど、相手だって男を知っているだろうとは思っていた。この様子なら、きっとそれ以外の性対象には、確実に男性も含まれているんだろう。
 相手の慣れた様子に安堵するべき場面で、実際はバカみたいに胸を痛めている。自分にとっては、決死の覚悟でこの身を差し出す特別な夜なのに、相手にとっては、頼まれて仕方なく慰めてやるだけの夜だ。相手にとって、この身にはなんの魅力もないのだと、改めて突きつけられているようで苦しかった。
 自分たちの繋がりなんて、同じ男を好きになってしまったことと、その想いを隠す選択をしたことくらいしかない。想いを周りに知られるだけでも色々と面倒が起こりそうだったから、ほぼ同じ条件の相手の傍らは、少しばかり居心地が良かったと言うだけ。だった、はずだった。
 この男にだけは、想いも、それによって生じる心の揺れも、知られてもいい。その安心感は、じわりとこの男へ向かう想いまでも育てていたが、相手にとってはそうじゃなかった。
 相手のせいで心揺れてしまうことまで増えて、かなりしんどくなっていた頃に、衝動でこの男の唇を奪ったら、蔑むような視線と声とで、どうしても慰めが必要なら抱かれるのはお前の方だと宣言された。相手の中には、自分への想いなんて、欠片だって育っていなかった。
 まぁそれも当然だ。この男の想い人と自分は、性格にしろ見た目にしろ、重なる部分がほぼ皆無と言っていいほど似ていないのだから。
 それでも相手の優しい部分につけ込んでは、キスもハグもそれなりの回数奪ってはきたが、さすがに抱かれるまでの決心はずっとつかなかった。今回、彼の結婚が決まるまでは。
「そんな顔して、よく、抱いてくれなんて言う気になったよね」
 ジッと見つめるこちらに気づいたようで、手元から顔を上げた相手に見つめ返された後で、そんな事を言われた。全く乗り気ではない、嫌そうな顔と声だった。
「どんな顔だよ」
「悲愴感たっぷりな顔」
「それは、しょーがないだろ。てかそんくらい色々ショック受けてるから、慰めてくれ、って話だろ」
「ショック、ねぇ」
「お前にとっては、もう、諦めの付いた想いなのかも知れないけど」
「むしろ、未だに気持ちの整理がついてないなんて、正直驚きだけどね」
 やっと結婚かと言われるくらい彼らの交際は長く順調に続いていたから、そう言われるのも当然だし、実際のところ、自分だってちゃんと気持ちの整理はできている。今この男に晒している悲愴感は全くの別物だけど、彼の結婚は関係がないのだと、正直に伝えるわけにいかないというだけで。

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