別れた男の弟が気になって仕方がない33

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 話したくないなら話さなくてもいいという態度を見せずに、本音を晒せと食い下がるこちらに、相手もいい加減観念はしているのかもしれない。誤魔化されてもやらないし、適当な言い分を信じて逃してやる気もないのだと、さすがにもう伝わっているんだろう。
 ただ、どうしてそんなに、とは思うらしい。困惑と諦観を混ぜたようなため息を吐いて、相手は口を開く。
「大概しつこい。あんなにあっさり兄との別れを受け入れたんだから、俺のことも、あっさり諦めてくれるものだとばかり」
「じゃあもういいよ。って言えないとこまで踏み込んじゃった自覚あるから、諦めてやるのは無理だなぁ」
 ここまで来て、そんなに嫌ならもういいやと、差し出した手を引っ込める真似なんて出来るわけがない。素気もなく拒否られ続けているならまだしも、相手の気持ちは揺れまくっているし、押してもダメなら引いてみろという言葉はあるが、引くより押しまくって、取り敢えず恋人という立場を手に入れてしまう方が良さそうな気がしている。
「もし、どうしても言いたくない、俺には教えたくない、これ以上むりやり聞かないで欲しいってなら、そこは取り敢えず諦めてもいいけどな。でも恋人にはなって」
 もっと時間を掛けて、ゆっくり引き出して欲しいならそうしてもいい。
「あと、諦めるのは取り敢えずだし、お前が話してもいいって気持ちになるのを待つってだけの意味だから。それは覚えといて」
 お前相手になぁなぁな付き合いする気はないからと言えば、唖然としてから、やはり不満げな顔になる。
「兄の本命も知らないまま、恋人やってた人のセリフと思えないんですけど」
「半分契約みたいな恋人という名のセックスパートナーと、初の両想いの恋人になる予定のお前とじゃ、扱い違うのは当然だろ。というか、俺が勘違いの思い込み激しいって言ったのお前でしょ。勘違いや思い込みで振り回されたくなかったら、お前だってもうちょっと俺に正直になるべきなんだよ」
 どんな恥ずかしい理由でも、しょうもない理由でも、もし本当にドMだったとしたって、ちゃんと受け止めてあげるよと笑えば、どう考えても茶化してるのはそっちという指摘が入った。ついさっき、お願いだから茶化さないで教えてくれと言ったけれど、確かにあれだって、先にドMという単語を口にしたのはこちらだった。
「ああ、ゴメン。色々雰囲気変えてみて、お前が話しやすいように持って行きたかっただけだったんだけど、お前がそれに乗っかって誤魔化そうとするのは許さない、ってのはオカシイよな。ただ、どんな理由でも、お前のことをちゃんと知りたいって思ってるのは本当だから。俺の方こそ、茶化すみたいな言い方して悪かった」
 言えば、仕方ないですねと言いたげに小さく息を吐く。そうしてから、おもむろに語りだす。
「抱かれることであなたを好きになったとしても、同時に失恋も出来るはずだったんです。あなたのことは兄から話を聞いていただけの頃からなんとなく気になってましたけど、兄の恋人なんて恋愛対象外もいいとこだし、そもそも、あの兄を見て育ってるので、恋愛とかセックスとか割と避けて生きてきたんですよね」
 それなのに、と彼の言葉は続いていく。口をはさむ気にはなれず、黙って耳を傾ける。
「気付いたらあなたのことばっかり考えるようになってて焦りました。初めて会った時、話に聞いてたより随分とクズな男だと思ったんですよ。でもあんな酷い誘われ方したら、逆にこれってチャンスかなと思っちゃって」
 チャンスってどういう事だと思いながらも続きを待てば、どうやら、恋愛もセックスも避けてきた人生の中で、あれが初めての直接的な誘いだったということらしい。
「突き詰めて考えるのを避けてましたけど、多分自分も兄と同じ側の人間だろうとは思ってて、だからあなたで試したんですよ。こいつクズだなとは思いましたけど、あの兄を変えた恋人ってことで、一方的にそれなりには信頼してましたし、抱かれるって言ったら焦ってたから、やっぱり思ったほどクズでもないのかなって思ったし。後、本気で嫌になったらいつでも逃げれるって思ったのもあったんですけど、とにかくそんな感じで試したら、あなたは俺を抱く気なんてサラサラないまま俺に合わせて構ってくれただけだったし、しかも兄とはあっさり別れてくれて兄の恋の応援までしてるから、だからまぁ、兄があなたに甘えまくってた理由にも納得はしたんですけど」
 兄の恋人相手に試すようなことしたから、きっとバチが当たったんですよと、ふにゃっと顔を歪ませる。また、泣きそうになっている。

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別れた男の弟が気になって仕方がない32

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 ついつい勢い任せに疑問符を並べ立ててしまったことを反省しながら深呼吸を一つ。ここで自分まで相手の苛立ちに巻き込まれて、なぜ理由を話してくれないと苛立つわけには行かない。
 だから何と、なるべく柔らかな響きになるよう気をつけつつ続きを促せば、一瞬ムッとした様子で口を噤んだものの、それからすぐに、拗ねたみたいにまた少し唇を尖らせる。
「恋人になれって言われるとか、まったく想定してなかったんですって」
 はああと吐き出されてきたため息は重い。
「それは俺も同じだよ。恋人になって、なんて言うことになるとは思ってなかった」
「何言っても忘れてくれるって言ったくせに」
「いやそれはっ」
 想定外にもほどが有りすぎる名前が飛び出したからだと言いかけたけれど、でも言ったことを守ってやれてないのは事実なので、確かに自分が悪かった。
「あー、その、あれは、ゴメン。でもそれでお前が俺を好きって事に気づけたから、俺からしたら結果オーライでもある、かな」
 もう一度ゴメンねと言えば、やっぱり深い溜め息で返される。
「結果オーライじゃないですよ、もう。あなたの好きって絶対、俺が可哀想になっただけのものですよね」
「疑うねぇ。好きだって言葉だけなら気持ち盛り上げるために口にだすことは確かにあるけど、少なくともお前と恋人として付き合いたいってのは、こいつ可哀想ってだけで簡単に出てくる言葉じゃないんだけど。しかもお前、元々付き合ってた相手の弟だよ? どっちかって言ったら避けたい相手だよ?」
「だったら、あなたが抱いたりせずに、別の男紹介するか放っといてくれたら良かったんですよ。そしたらあなたを好きだなんて、思わなくて済んだのに」
「てことは、抱かれてその気になった、ってのは事実なのか。お前ほんっと危ないな。キモチイイに流されて相手好きになるなら、セックスする相手はマジでしっかり選べよ」
 言えば嫌そうに眉を寄せて、どこまでも保護者と吐き捨てられた。余計なことを言ったとは思ったが、もう口に出してしまった。
「でもまぁお前には不本意でも、俺にとってはやっぱりそれも結果オーライ、かな。お前の初めての相手が俺になって、本当に良かったと思ってるよ」
「俺は思いっきり失敗したって思ってますけどね」
「かわいそうに」
「それ絶対本気で言ってない」
「そりゃあね。だってもうお前の初めては俺になっちゃったし、お前は俺を好きって言っちゃったし、俺がお前を恋人にしたいと思っちゃった現実は変わらないし、それがお前にとってどうダメなのか未だにさっぱりわからない」
「いやだから、ダメっていうか、あなたと恋人になる予定がなくてどうしていいかわからないだけですって」
「それだとまるで、俺を好きになる予定はあったみたいだけど」
 抱かれてその気になっちゃったんじゃなかったのかと、からかうような気持ちで口に出しただけだったから、あっさりありましたけどと肯定されてびっくりした。
「は? えっ? 抱かれてキモチヨクなっちゃって、うっかり好きって思っちゃった、って話じゃないの? あれ?」
 また何か、盛大な勘違いと思い込みをしているらしい。またなのか、まだなのかは微妙な所ではあるが。
「うっかり好きになったりはしてないですね」
「え、でも、抱かれてその気になったのは? それは事実?」
「事実ですけど、あなたに抱かれたらきっとあなたを好きになるんだろうって、最初っから思ってはいました」
 そう思っていたなら、なぜあんなにあっさり抱かれることを了承したのかますますわからない。恋人になる予定はなかったというなら、好きになったって辛い思いをするばかりじゃないのか。
「ドMかな?」
「そういう自覚はないですが、やったこと考えたら違うとも言い切れないかもですね」
「いやゴメン。そんな冷静に返さないで。というか、それ、片想いになること前提で抱かれたって意味だよね? なんでそんなことしたの」
「ドMだから?」
「ゴメンナサイ。お願い茶化さないで教えて」
 きっと言いたくなくて誤魔化してしまいたい部類の話なのだというのはわかるけれど、少しずつでもどうにか彼の隠しつづける部分を引っ張り出したくて頼み込んだ。相手が言いたくないならと踏み込まず、相手から話してくれるのを待ってあげられる余裕はなかった。

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別れた男の弟が気になって仕方がない31

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 まだ随分と迷ってはいるようだけれど、このまま恋人となることを了承してくれる可能性はありそうだし、だとしたらそこは確かめておきたかった。相手が自分の何を、どこを、好きだと思ってくれているのかを知るのは重要だ。
「えっ?」
 相手は突然何をと言いたげに、思考を中断してこちらを見つめてくる。噛み締めていたはずの唇は、呆気にとられてかうっすら開いていた。
「俺を好きだと思いながら、なのに俺以外の、お前を抱いてくれる人を探してた? それはなんで? だとしたら俺に抱かれる気になった理由も聞きたい。好きになれたら付き合う気があったのに、でも俺は別っての、お前の本音として確かに伝わってはいるけど、理由はやっぱわかんないんだよな。本気で年の差がダメとは言わないだろ?」
「質問、多すぎ」
 ちょっと聞きたいって内容じゃないですよと言いながらも、相手が酷く動揺しているのがわかる。
「そうだな。じゃ、さっきのはちょっと答えてに変更で。でもって、ちょっとずつお前のペースでいいから、答えて。ゆっくりでもいいけど、なるべく全部な」
 小さな声がズルいと呟いたようだったし、確かになと思いはしたが、聞こえなかったふりで相手の答えを待てば、やがて嫌だと吐き出されてきた。そう言いそうな気がしていた。
 やっぱりと思いながら、用意していた言葉を告げてみる。
「そんなに恥ずかしい理由なの?」
「ちょっ、恥ずかしい、って、なん、で」
「いや恥ずかしくて言えないってやつかなと思って?」
「別に、恥ずかしくも、そもそも大層な理由なんてのも、ない、です」
「じゃあ尚更、もったいぶらずに教えてよ」
 もう一度、いつから俺が好きだったのと繰り返せば、仕方がないと言った様子のため息を一つ吐いた後、相当気まずそうにさっきからと返された。
 さすがの衝撃に息を呑む。まだ淡い好意だとは感じていたが、そこまでとは思わなかった。というかそれって結局、キモチイイに気持ちが引きずられたってだけじゃないのか?
 いくら成り行きでそうなっただけだとしても、相手が自分を想っていなくても、出来る限り相手も気持ち良くなれるセックスをしようとした結果がこれか。
 相手は大学生とはいえ未成年で、男相手のセックスは間違いなく初めてだと知っていたのに。
 知識として、そういうこともあるとわかっているし、実際そういうタイプも居るんだろう。けれど今まで出会ってきた友人知人から、リアル体験として耳にしたことはなかった。自分自身、体の快楽と好きという感情が直結はしていない。気持ちいいセックスをした後、嫌いな相手が好きな相手に転化したことなんてない。というかそもそも、それなりの好意が育っている相手としか関係を持ったことがない。
 だからこそ、考えつきもしなかった。
「えー……っと、つまり、抱かれたら好きかもって気がしてきたとか、そういう、話? さすがに好きの自覚ははっきりありそうと思ってたけど、そこからして俺の勘違い?」
 絶対嫌われただろう相手に、好きだと繰り返された上で名前を呼ばれたりしたから、慌てて舞い上がり過ぎていたらしい。
「恋人になってに頷いてくれないのは、本当に俺を好きかどうかで迷ってるせいもあったりする?」
「ちがっ……ぁ、わない」
 思わずといった感じで否定を漏らしたものの、すぐにしまったと言いたげに更に否定を繋げ、またキュッと唇を閉ざしてしまった。
 えー、もう、本当に困る。こんな反応をされてしまったら、全てが疑わしく感じてしまう。自分に都合の良い部分だけを信じて、後は照れ隠しの嘘やごまかしって事にしたくなってしまう。もしくは真逆で、自分に都合の悪い部分だけ信じて、彼のことを諦めてしまいそうだ。
 そしてきっとまた、勘違いの思い込みが激しいなどと言われてしまうんだろう。そうしたら、勘違いするのはこちらばかりが悪いわけじゃないと、今度こそ口に出して言ってしまうかもしれない。
「はいダウト。というか頼むからもう、いい加減お前の本当を教えてくれ。で、どっから違うの? 俺のことは本当に好き? それはいつから? 抱かれてその気になっちゃった? それともさっきから、ってのからして、嘘だったりするの?」
「だからっ」
 焦れた様子で叫ばれたってわからない。ちょっと聞いていいかだとか、ゆっくり答えてくれればいいと言いながら、どんどん疑問符を並べ立てているのは事実で、それに苛ついているっぽいのはなんとなく感じているけれど。

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別れた男の弟が気になって仕方がない30

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 確かに嫌がる相手を抱くことはしないし出来ない。ただ、言いくるめてその気にさせて、もう一度抱くことは出来そうな気もする。抱きながら快楽で押し流すようにして、恋人になってと頼みこんで頷かせることもだ。
 問題は、そうやって頷かせた所で、本人が納得しなければ結局は逃げられてしまう気がする点だ。もう一度抱くことでこちらの本気が伝わったとしても、彼が危惧して嫌がったことをそのまま成してしまったら意味がない。下手したらかなりのマイナス評価で、せっかくの好意が嫌悪に変わる可能性だってある。
 そもそもその好意だって、本当はまだ随分と淡いもののような気がしている。
 好きだという想いそのものを疑う気はない。けれど相手は、聞かなかったことにして欲しい、知ったからと恋人になる必要はないと言って逃げ腰だ。恋人にならないかという誘いにこれ幸いと乗ってこないのは、きっとそこまで強い想いではないからなんだろう。
 本当にこの一度きりで終わりにしても、さして胸が痛むこともなく、消えてなくなる想いなのかもしれない。
「お前にとっては、俺に恋人になれって言われるのは、困るばっかりで欠片もチャンスじゃない?」
「なんの、チャンスですか」
「お人好しで不安だとか、俺の好きが信じられないとかで、叶うかもしれない恋を自ら諦めて手放しちゃうの? って聞いてる。心も体も求める相手が、自分を好きになってくれない事も多い。ってのは、お前が自分で言ったんだからわかってるだろう?」
「あなたの好きがなんであれ、好きって言ってんだから四の五の言わずに恋人になれ、ですか?」
「お前がそれで頷いてくれるならそれもありだけど、ちょっと違う。お前の恋愛経験知らないけど、今のこの状況、俺がお前を逃がせないなと思う以上に、お前にとって、またとないチャンスだと思うんだよな。って話。好きになった相手に交際相手が居なくて、気持ちよくなれるセックスが出来て、しかも恋人になりたいと言ってくれる。ってのが揃うことなんて、かなり稀なことだと思うけど。ここで逃げたら勿体なくない?」
 別に勿体無いなんて思わないと言われてしまったら、さすがにもうお手上げだ。つまりは彼の方こそ、その程度の好きなのだ。
 そう思いながらの質問に、相手はきゅっと唇を噛み締めながら何事か考えている。即答できない程度には、どうでもいい想いではないらしいとホッとする。
「ちょっと聞きたいんだけど、いつから俺が好きだった?」
 彼が答えを出してしまう前に、ついでとばかりに問いかけた。
 自分を好きだなんて欠片も思っていなかった理由の一つに、彼に好意を持たれるようなことをした意識が一切なかったからというのがある。
 そもそも彼と会うのは今日で三度目だ。もちろん、いきなり家に押しかけてきた日と、たまたまラブホ前で揉めていたのを見つけた日と、今日だ。ついでに言うなら、互いの連絡先の交換さえしていない。なんせ男を紹介したときだって、すんなり相手の男を呼び出し引き合わせることが出来たから、後日改めて連絡を取り合う必要がなかった。
 ただ、自分にとってはあの日押しかけられるまで、全く意識されていなかった存在ではあるが、彼からすると違うのだろう。彼は兄から自分のことを色々と聞かされていたようだというのは、話の端々から伝わっていた。
 でも初対面で兄と別れさせたいなら抱かれろなどという、かなりゲスな提案をしてしまっているし、もし彼の兄が好意的な話をしてくれていたってあれで台無しにしただろう。ラブホに連れ込まれそうになったのを助けたり、男を紹介したりはしたが、あの時にはもう彼は抱いてくれる誰かを探していたのだから、いったいどこで好きになられたのか、自分のどこを好きだと言っているのか、実のところさっぱりわかっていなかった。

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別れた男の弟が気になって仕方がない29

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 あなたって勘違いな思い込み激しいですよねと、やはり呆れた口調の指摘に反論出来ない。
「前に、兄の本命が俺だと思ってた、とも言ってましたし」
「言ったね。あの時も、今も、色々勘違いしてゴメンな」
 彼ら兄弟は揃って本命に関する情報を隠蔽するから、仕方がない部分だってあると思うのだけど、さすがにお前たちのせいだとは言えそうにない。そういうのは無遠慮に踏み込んでいい部分ではないと思っているし、自分から話さない事に関してはこちらからは触れずに居たほうがいいという判断も、結局は自分自身の選択だ。
「別に謝られたいわけじゃないですけど……」
 あの時も、過ぎたことだし目的は果たしたから別にいいと言っていたっけ。でも、どう見たって「けど」の続きがありそうだ。
「けど、何?」
「損な性分だな、と思って」
「はぃ?」
「性分というか、それが性癖?」
 なんか大変そうと続いた言葉に、思わず待ったをかける。
「ちょっと待って。なんか俺、今、お前に同情されてる?」
 しょうもない性癖持ちな自覚はあるが、二桁近く年下の子供に同情される謂れはないはずだ。
「別に、かわいそうとは思ってないですけど……」
「けど、何?」
「お人好し過ぎて、不安になる」
「それ、お前が不安に思うようなこと? 俺をお人好しだって言うなら、そこにつけ込んでくれていいんだけど」
「兄には見事に付け込まれたみたいですけど、でも結局兄もあなたに振られてるわけですし」
「おい待て。それは聞き捨てならない」
 誰のせいで別れることになったと思ってると言ったら、あっさり俺ですねと返ってくるから、なんだか微妙に会話が噛み合ってなくてモヤモヤする。
「話戻そう。俺がお人好しだと、何が、不安?」
 できるだけ明確にとも付け加えておく。なんせ勘違いと思い込みが激しいと指摘されたばかりだし。
「それは……変な思い込みと勘違いで、俺のためにとか言って、簡単に手を放してくれそうな所が。ですかね」
 明確にと言ったのに、それでもやはりイマイチ意味がわからず首を傾げてしまえば、なぜか拗ねた様子で、口が少しばかり突き出された。
「恋人になれって、あなたが言ったんでしょう」
「え? あ? ああ、そっか。恋人になった場合の不安、って意味……か?」
「そうですけど」
「はは。嬉しい」
「恋人になるなんて言ってませんよ。まだ」
「でもちゃんと、そうなる可能性を考えてくれてる。その不安を拭えたら、恋人になってくれるの?」
 期待を込めて聞いたのに、でも無理ですよねとバッサリ切って捨てられてしまう。
「酷いな。チャンスもくれない気?」
「性分やら性癖やらを簡単にどうこうできるなんて思ってないって話ですよ」
「じゃあどうすればいいの。どうしたらお前は俺と恋人として付き合ってみてもいいって言ってくれるの」
「幾つか聞いていいですか?」
「どうぞ。なんでも聞いてってさっきも言ったし」
「俺の好きに同じ好きを返せる気がしたって言ってましたけど、それ、恋愛感情なんですか? こんな年下の思いっきり子供扱いしてた相手に? 保護者的感情で、それこそ俺への同情がそう錯覚させてるとかじゃないんですか?」
「あー……」
 発した声は自分でもわかる程に落胆が滲んでいた。そもそもこちらの好きが信用ならないと、そう突きつけられているも同然だ。
 好きが信じられないって話かと聞けば、躊躇いがちではあったがはっきりと頷かれてしまう。
「じゃあ、もう一回セックスしてみる?」
「なんでそうなるんですか」
「お前が俺を好き、俺もお前を好き。って前提でやったら、さっきとは違うものが見つかるかもよ?」
 さっきの今なら比較もしやすいだろと言えば、嫌そうに眉を寄せただけではなく、嫌ですと冷たく言い放たれた。
「なんで?」
「き、もちよく、なった、ら頭、回んないし」
「頭で理解するんじゃなくて、俺の好きをそのまま感じてって話だけど」
「だとしても、です。あなたの本気とか、嘘とか、見分けつくわけない、し。絶対流されるだけ」
 やってる最中に恋人になれって言われたら、それだけで頷きそうで嫌だなんて、色々と可愛すぎてどうしてくれよう。
「そんなこと言われたら、逆にやるしかないなって気になるだろ。むしろそれ、最中に恋人になれって言ってくれってお願いなの?」
「違いますよっ。というかしませんよ、あなた」
「なんで言い切るかな」
「だって俺が嫌だって言ってるから」
 好きは信じないのに、そういう部分だけしっかり信頼されていることに、ズルいなぁと思いながら苦笑した。

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別れた男の弟が気になって仕方がない28

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 探るような視線に諦めのため息を小さく吐きだし、それから口を開く。
「お前の兄貴とのことだし、あんま言いたくないというか、どこまで話していいかもわかんないんだけど、要は俺の性癖の話なんだよね」
「せい、へき……?」
「そう。性癖。初めて会った時言ったろ。あいつが本当に好きなのは俺じゃないってわかってても、俺たちはそれなりに上手く付き合えてるって。それ、俺の性癖のせいなんだよ。あいつは俺の性癖を知ってて、だから俺を恋人に選んだの」
「それは、どんな……」
 当然そこは聞かれるよなと思いながら、叶わない恋をして苦しんでる子が可愛くて仕方なくて、つい慰めてやりたくなる性癖だと答えた。相手はその言葉の意味を飲み込むためか、眉間に僅かな力を込めながら黙り込んでしまう。
「つまり、あなたに対して叶わない恋をしてる俺を可愛いとか言ってるんですか? それを慰めたいから恋人になってやる、って話、ですか? 俺に、あなたへの片想いを続けながら恋人として側にいろって言ってます? 意味分かんないんですけど。もしそうしたら兄にしてたみたいに、目一杯甘やかし続けてやるって事なら、お断りです。絶対イヤだ」
 やがてそんな答えを導き出したらしい相手の気色ばんだ言葉に、思わず首を傾げてしまった。
「あれ? なんでそうなる。というかそんな理由で恋人になりたがるとか支離滅裂すぎだろ。あと、自分と兄貴とを重ねて考えるなって」
 自分相手に叶わない恋をさせたまま、恋人として付き合おうとか、それは一体どんな鬼畜の所業だ。
「だってそう聞こえたんですよ。違うんですか」
「違うよ。えーと、つまり、俺はそんな性癖持ちだから、可愛い抱きたいって思う子は誰かに片想いしてる場合が多くて、その片想い相手が自分だったって経験はなかったというか、俺を好きって思いながらそれ言い出せなくて泣いてるような子抱くのは、実のところ初めてだったわけ。付き合わないかって言ったのは、そんなお前とこれっきりなのが残念すぎるから。お前の好きに、俺も同じ好きで応えられると思ったから。だよ」
「両想いになったら、叶わない恋で苦しんでる可愛い子じゃなくなりますけど」
「そうだね。正直、お前と付き合った場合、今後俺の性癖がどう作用するかはわからない」
 自分の性癖に関してはかなり早い時期から自覚があったので、過去に恋人としてそれなりの期間付きあった相手の殆どは、セックスに於ける志向や嗜好が近いこと、人間性に好感が持てることなどを意識していて、信頼できる安全なセックスパートナーとしての面が強かった。
 彼の兄だってそうだ。遊び慣れた相手だったからこちらもそれなりに警戒したし、セックスパートナーとして信頼に足るかどうかの証明はして貰っていた。他の恋人たちに比べたら性癖に合致した分の情が強く湧いたけれど、結局相手は恋愛感情をこちらに向けては来なかったから、相思相愛的な恋愛に関しては自分だってなかなかの初心者と言える気がする。
 そしてそれを意識したら、ますますこの子を逃がせないと思ってしまった。
「だってもしお前が俺の恋人になってくれたらだけど、両想いの恋人って、俺にとっても初めてだよ?」
 ビックリした顔をするから、本当だよとダメ押ししておく。少しでも相手の気持ちが揺さぶれたらいい。
「ねぇ、俺の恋人になって?」
 さすがに今度は、絶対イヤですと即答されることはなかった。でもハイもわかりましたも返らないし、頷かれることもない。
 彼の中で引っかかっていることはなんだろう。それらをどうにかして引き出し、ひとつずつ潰して納得させていくしかないんだろう。もしくは、もう一度抱いてみるのもありだろうか。
 ちゃんと彼の想いを受け止めるつもりのセックスをしたら、さっきとは違う顔を見せるかもしれない。けれどそんなセックスを持ちかけるなら、彼を頷かせた後、はっきり恋人という関係になってからの方がいい気もする。
「あの、……」
 グルグルと考えるなか、おずおずと相手が口を開いた。何か聞きたいことがありそうだ。
「うん、何。この際だからもうなんでも聞いて」
 そして全てに納得できたら、どうか恋人になると言って欲しい。
「あなたを好きになるはずがないって思いながら、あれだけ可愛いって言いまくって抱いてくれたのは、最初っから、俺が誰かに片思いしてるとは思ってたからですか?」
「あー……それ、ね」
 正直に思っていたと告げたら、更にその相手が誰かを追求されてしまった。
「それはまぁ、その、お前の師匠だって言う、例の幼馴染を、お前も好きだったんだろうって思ってた」
 言えばやっぱりという顔をされて、どうやら呆れられたようだった。

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