バレたら終わりと思ってた6

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 可能なら女装を解かないまましたい。と思ってしまうのは、前回自分だけイカされたせいだけど、シャワーを勧めてくるってことは女装を解いて欲しいって意味かもしれない。
 だって男のままの自分とデートする気だったのは明白だ。
 でもこの女装姿だったからこそ、あんなにベタベタと接触してきてたのも多分事実で、男の格好だったらあんな風に肩や腰を抱いて引き寄せたりしなかったはずだから、やっぱり女装してたほうが手を出しやすいんじゃないかとも考えてしまう。
 そんな風に、答えが出ない問いを頭の中でぐるぐると巡らせているうちに、バスルームの扉が開いて相手が戻ってきてしまう。
「なにか気がかりなことがあるなら言って欲しいな」
 どうしよう、と内心焦っていたら、近づいてきた相手がすっと腰を落として、椅子に腰掛けるこちらを下から見上げてくる。
「え……」
「さっき喜んで抱かれますよ、って言ってくれたけど、男に抱かれた経験があるわけじゃないんだよね?」
「そ、です」
 抱かれた経験どころか、女の子を抱いた経験もない童貞です。とか言ったら、引かれてしまうだろうか。それとも、嬉しいとか思ってくれたりするんだろうか。
「色々調べてみたんだけど、受け入れる側をするのって大変そうだし、無理させたいとか全然思ってない。この前みたいに触らせてくれて、気持ち良くなって貰えるなら、それで構わないって思ってるよ」
「え、やだ」
 前回と同じで、なんて言われて、咄嗟に嫌だと口から漏れた。
「やだ?」
「だ、だってほんとに、私だって、ずっと抱かれたいって思ってて」
「うん。それは本当に嬉しいけど」
 でも何か凄く躊躇ってるでしょと指摘されて、結局は相手がどうして欲しいか聞かないと答えないんて出ないんだからと、何を迷っていたかを告げる。
「いやその、女装、どうしようかなって、思ってただけで……」
「えっと、メイク落とすと何か問題ある? ってかお泊りしようって言ってなかったから、メイク道具がないとかそういう?」
「いえ、持ってきて、ます」
 男だとバレてる以上、男の自分としたいと言われる可能性も一応は考えたし、女装のまま致した結果、メイクがどうなるのかの想像がつかなかったというのもある。
「えと、じゃあ、他に何が……」
「その、女装してたほうが、エッチな気分が盛り上がっ」
「ええっ!?」
 こちらが何を言いたいか察した相手があまりに驚くので、途中で言葉が止まってしまった。
「え、いやいやいや。何いってんの。そんなことあるわけないだろ」
「で、でも、前回」
「前回? って、男の子の姿の君と何度も舌絡ませるようなキスして、あちこち触って、尖らせたちっちゃなおっぱいの先っぽいっぱい弄って、気持ちぃって喘いでくれるのめちゃくちゃ可愛いって何度も言いながら、この手で勃起おちんちんイカせてあげたあれより、俺が興奮するって思ってるの? 体も心も男の子だって知ってるんだから、女の子の姿かどうかで興奮変わったりしないよ? というか脱いだら男の子の体なんだから、メイク落としたほうが自然でいいと思うよ」
 ああやっぱり女装は解いてって思ってるっぽい。
「でも、でもっ」
「ああうん、ごめんね。ちゃんと聞く」
 気がかり話して、と優しく促されて、前回自分だけがイカされたからと訴えた。
 本当に興奮してたなら、なんで抱かずに帰っちゃったの。それって男の姿だったからじゃないの。
 そう告げれば、相手は慌てたように違うを連呼した。
「違う違う。そういうんじゃないから。てか誤解だから」
「誤解、って?」
「気持ちぃって言わせて、イカセて、そこで終わりにしたのは、男同士でセックスどうやるかとか全然知識なかったせいだよ。あの日初めて男の子だって知ったんだから、そこは大目に見て」
「本当に? 本当に男の俺の体触って、興奮できた?」
「してたよ。するに決まってるだろ」
「なら、同じように手でして、とか、口でして、とか、」
「いやいやいや。あのときの自分がどうだったか覚えてる?」
 とてもそんなお願い言える雰囲気じゃなかったよと言われて、確かに、イカされた衝撃でしばらく放心してたな、とは思う。
「俺に知識とか経験とかあって、痛い思いとか嫌な思いとかさせずに抱ける自信があったら、あの勢いで押し通した可能性はなくないよ。だってずっと、出来ればそういう関係に進みたいって思ってたんだから」
 でも踏みとどまれて良かったとも思ってるよと言った相手は、男同士でのセックスは知識があっても色々大変そうだし、ゴムだけあればどうにかなるようなもんじゃないもんね、と続けた。
「っていうか、あのまま抱いてほしかった、みたいに言ったけど、あの時、俺に抱かれる準備とかしてたの? そもそも別れる気満々そうだったし、準備してあるからそのまま抱いて、とかも言わなかったよね?」
「準備……」
 確かに、そういうのは全く考えていなかった。というか準備とかしないと、男同士でセックスするのは難しいのか。
「待って。今なんか恐ろしいことに気付いた気がする」
「え?」
 男同士でのセックスってどうやるか知ってる? と聞かれて、お尻でするんでるよね、と返した。
「うんそう。で、どうやってお尻に勃起したおちんちん挿れるかはわかってる?」
 わかってると思うけどそこそこの太さと長さがあるものだよと言われて、確かにそうだなとは思う。思うけど、相手のがめちゃくちゃ太いとか長いとかじゃない限り、そこまで難しくもないような気がする。だって、自分の勃起時くらいの太さの大便は、出てくることがあるわけだし。
 でも相手の様子からすると、そう簡単なわけではなさそうだった。

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バレたら終わりと思ってた5

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 夜というよりはまだ夕方って時間だったけれど、早めの夕飯を済ませたあと、躊躇いのない運転で連れて行かれたのは、ラブホじゃなくて普通のホテルのツインルームだった。目当てのラブホでもあるのかと思ってたけど、どうやら予約してたらしい。
「予約までしてたなら、最初から今日はお泊りデートでって誘ってくれても良かったのに」
「そうなんだけど、ちょっとガッツき過ぎてるような気もして。男の子の君とは初デートなのに、って思ったら余計に、エロいこと期待してるって思われながらデートするのも避けたかったし」
「今までのデートで避けてた分、エロいことも期待されてるって、ちゃんと思ってましたよ。というか次こそ、自分だけ気持ちよくして貰うんじゃなくて、あなたを気持ちよくしてあげたい。って思って、張り切ってるくらいなんですけど」
 前回あんなことをしておいて、エロいことなしの健全デートなんて考えるわけがないのに。
 でも相手はこちらもしっかりその気だった事実に、そこそこ驚いているらしい。
「でももしそういう雰囲気になったとして、行くのはラブホだと思ってました」
「ラブホねぇ……男同士で利用できるとこもあるみたいだけど、実際に男同士で使った経験なんてないし、慣れないことして失敗したくなかったっていうか、万が一でも嫌な思いさせたくなくて」
 男でもいいよと言ってくれたこの人は、男女なら出来ることが男同士だから出来なくなるのはオカシイと言いながらも、それで変な目で見られたり嫌な思いをして欲しくないとも言ってくれるような人だから、色々と考えてくれたんだろう。
 こんなに気遣ってくれるこの人に対して、女装しとけば避けれそうな問題は女装しとけば良くない? って考えは、あまり誠実ではないかもしれない。
 なんて反省してしてる間に、相手もなにかに思い当たった様子で目を見張っている。
「って、もしかして、男の子って知られた後なのに女装してきたの、まさかラブホはいる想定とかしてた?」
「まさかってなんですか」
「あー、ごめん。そっか、そういうの、考えてくれてたんだ。全く気付いてなかった」
 ここで、ありがとう嬉しい、って笑ってくるのはズルいなと思う。
「恋人っぽいこともっとしたいって思ってたの、そっちだけじゃないんですからね」
「そっか」
「男ってバレたら振られるって思ってたからはぐらかしてただけで、ずっと、本当に女の子だったらセックスだって出来るのにって、私だって思ってましたよ」
「そっか」
「ほんとは男の俺とでも、したいって思って貰えるなら、喜んで抱かれますよ」
 声音を地声に戻して俺と発言しても、相手は嫌な顔をするどころか、口元をへにょりと緩ませている。
「もちろん、したいよ」
 はっきり断言されて、ホッと息を吐いた。
「顔にやけてます」
「うん、知ってる」
 照れ隠しの指摘に、相手はニヤけた口元を隠すように片手で覆ってしまう。
 照れ隠しだったのに、なんだか余計に恥ずかしい気がしてきて、思わず視線を彷徨わせてしまうけれど、目に入ってくるのは綺麗にベッドメイクされたベッドなので、気持ちが静まる気配がまるでなかった。というか、逆にめちゃくちゃ意識してしまう。
「えっと、先にシャワー使う?」
 ベッドを凝視していたら、横からそんな言葉がかけられて、思わず肩が跳ねてしまった。
「え……」
「あー……じゃあ俺が先にシャワー使ってもいい?」
「あ、はい。はい、もちろん」
「うん、じゃあちょっと行ってくるね」
 妙に慌てた態度になってしまったけれど、相手は特に何も指摘せずにバスルームに消えていった。
 一人になって、数度深呼吸を繰り返す。
 そういや意気込みばっかり膨らませて、エッチなことをする手順とか方法とかまであまり考えていなかった。
 シャワーをと言われて真っ先に考えて、一瞬動きを止めてしまった原因は、この女装をどうするかを全く考えていなかったせいだ。

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バレたら終わりと思ってた4

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 次回はぜひ男の子の格好で。という希望には明確な返答を避けつつ、今日のデートが楽しみだという方向へ話題を変えてしまう。
 男バレして破局、という展開を避けたかっただけで、二人きりの空間への憧れはあったし、相手とより親密に過ごせる時間を欲する気持ちもあった。だからドライブのお誘いは嬉しかったし、すごく楽しみでもあった。
 本日の目的地は海沿いの水族館で、別の水族館でデートをした時に、いつか行きたいと話した場所でもある。
 以前の水族館デートの楽しかった思い出や、今日行く水族館への期待や、下調べ済みの近辺施設情報などから話を膨らませた雑談をしているうちに、あっという間に目的地に到着していた。
 結局女装でデートに来てしまったから、車から降りてしまえば、以前のデートとそう変わることもない。なんてことはもちろんなかった。
 男バレを警戒する必要がないのも、だからといって男同士でデートしてる姿を人目に晒しているという緊張感がないのも、気楽でいい。けれど男バレしたおかげで、以前よりも相手との距離が間違いなく近いという、戸惑いや羞恥が新たに発生していた。
 相手に触れられるのが嫌なわけでも怖いわけでもないのが知られたせいで、相手が大胆に触れてくるようになった、というのがかなり大きい。手を繋ぐだけじゃなくて、肩を抱かれたり腰に腕が回ったりするから、そのたびに内心けっこうドキドキしてしまう。ドキドキしながら、このあとのことを考えてしまう。
 ホテルに行く気があるのかは、結局恥ずかしくて聞けていなかった。
 今日は土曜日だから泊まりだって可能なんだけど、でもいきなりお泊りを期待していいのかもわからない。というかそんな期待をしていること自体が、はしたないのではとも思ってしまうし、恥ずかしさで悶えそうになる。
 でも相手と触れ合っていると、どうしたってあの日の夜のことを思い出してしまうし、期待するのをやめられない。
 もう一度手を出して欲しいし、今度こそ、こちらからも相手に触れたい。相手の手で気持ちよくされたいし、相手にもちゃんと気持ちよくなって欲しいし、感じる姿を見せて欲しい。
 ずっとこうしたかったって言いながら優しく触れて欲しいし、舌が痺れるくらいのエッチなキスで腰を疼かせて欲しいし、躊躇いのない手つきで固くなったおちんちんを扱いて欲しいし、たまらず喘いでしまう姿をトロトロに感じて可愛いねと言って欲しい。
「もしかして疲れちゃった?」
「……え?」
「ちょっとぼんやりしてるみたいだけど」
 体調を確認されて、慌ててダイジョブですと返した。エロいことで頭がいっぱいなだけです、なんて言えっこない。
「本当に?」
「はい」
「距離が近いのしんどい、とかではなく?」
「ええっ!?」
「避けられないの嬉しくてベタベタしすぎてる自覚はあるというか。しかもそれを意識して貰えてるのがかなり新鮮で、やりすぎたかもと反省してるとこ」
 ドキドキしすぎて疲れた、とか言われても驚かないんだけど。なんて苦笑顔で続けられて、こちらも思わず苦笑を返す。
「ドキドキ、伝わっちゃってました?」
「うん。めちゃくちゃ嬉しかったよ」
「もう、そう言われたら、こっそり楽しんでるなんてズルい、とか、酷い、とか。言いにくいじゃないですか」
「ごめんね。でもこっそりずっと見てたから、ドキドキしてくれたのがぼんやりになったの気になっちゃって」
 何考えてたの? と聞かれてしまって言葉に詰まった。
「っ、そ、れは……」
「言いにくいようなこと?」
「えっと……まぁ……」
「もしかしてエッチなこと?」
「うっ……そんなの直球で聞かないでくださいよ」
「てことはエッチなことだ」
 面白そうに笑って、ますます何考えてたか知りたくなったなと言う相手に、不満を知らせるように少しばかり口先を尖らせる。
「このあとの予定はどうなってるのかな、って考えてただけです」
 言えば相手が時計を確認してから、何時に帰りたいとかある? と聞いてくる。
「ないですけど」
「明日の予定は?」
「ないですけど」
「じゃあ、帰るの明日になっても大丈夫?」
「だいじょぶ、です」
「ごめんね。俺も、ちょっとどう切り出したらいいか迷ってて」
 期待しちゃうけどいいんだよね、と続けられて、いいです、とだけ返した。こっちだって期待してるんですよ、今のやり取りで期待爆上がりですよ、なんてことはさすがに言えなかった。

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バレたら終わりと思ってた3

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 二人きりの空間が大丈夫ならドライブデートがしたいと言い出した相手に頷き、待ち合わせた駅のロータリーで、先程送られてきた画像の車を探す。以前、免許はあるけど車は持ってないと言っていた相手は、わざわざレンタカーを借りて来たらしい。
 車はすぐに見つかった。
 ロックは既に外れていたようで、取っ手を引けばあっさり助手席のドアが開く。
「お待たせしました」
「え、あ、あー、うん」
 珍しくも不躾な視線と、なにやら言いたげな相手の反応の理由はわかっている。でもあえて気づかぬふりをして問いかけた。
「どうかしました?」
「や、その、今日は男の格好で来るもんだとばかり思ってたから、ちょっと、驚いちゃって」
 確かに、女装が好きで趣味でやってるというよりは、異性愛者である相手に女だと思わせるためのものでしかないから、男だとバレた以上はわざわざ女装してデートに赴く必要はないんだろう。
「でもこれ、デート、ですよね?」
「それはそうなんだけど」
「なら、この格好の方が何かと都合がいいと思いませんか?」
 ドライブデートだからってずっと車の中に居続けるとは思えないし、車から出た時には以前と同じように、手を繋いで歩きたかった。あともしホテルやらに入る予定があるなら、やっぱりはっきり男同士よりも男女に見えるほうが良いんじゃないかとも思う。
 というのは割と建前的な理由で、実のところ、デート用の服を所持していない。女装は何かとお金が掛かって、バイト代も生活費も結構注ぎ込んでしまっている。メンズ服なんて、大学とバイト先に通うための最低限でいいと思っていたせいで、どう考えても女装で出向く方がマシだった。
 それにやっぱり素を晒すのは怖い。今までこの女装で相手とのデートを繰り返して、相手の気持ちを掴んできた実績があるのだから、いくら「そのままの君との新しい恋人関係を始めよう」と言われていたって、そう簡単に手放せるわけがなかった。
「せっかくのデート、手ぇ繋いで歩いたり、したいですもん」
 まぁ色々理由はあるけれど、とりあえず口にして問題無さそうな部分を伝えておく。
「男同士でそれやったら、やっぱ問題あるかな?」
「え、やる気だったんですか?」
「だって、実は男だったから。なんて理由で、今まで出来たことが出来なくなるのは変だろ。でもそれで変に注目されたり、嫌な思いをして欲しくはないから難しいな」
「難しいならやっぱデートは今まで通り女装で良くないですか?」
「女装が好きで趣味でやってるってならそれもありなんだけど、俺と付き合うために女装してるとか言われたら、そこはやっぱ、そんなの必要ないよって言いたいだろ。男の子でも何の問題もなく君が君だから好きなんだよ、とも言ってるわけだし」
「それは、確かに言われました、けど」
 その言葉を疑いたいわけじゃないけど、女装なしの男の体に手を伸ばされ済みでもあるけど、でも好みに寄せた外見のが絶対いいでしょ、という気持ちはどうしたってある。
 だってあの日、男とバレないために二人きりになることや広範囲での接触を避けていただけ、という部分を何度も確認された後、嫌じゃないならとお願いされて抱きしめられた。
 当然それだけで終わりになんかならなくて、何度も嫌じゃないならと確認されながら、押し倒されてあちこち撫でられて、口の中を舐められるようなキスをされて、結局最後には相手の手の中で果ててしまった。可愛いと繰り返して、ちっとも嫌悪感なんてないよと柔らかに笑って、電車の中でのあまりにみっともない出来事を上書きしてくれた。
 ずっと、女の体ならすぐにでも応じたいと思っていたのだから、その手を拒むことはしなかったし、嬉しかったし、安堵だってしたけど。でも、相手が帰ってから気づいてしまった。
 相手がそれで興奮できていたのかがさっぱりわからない。というか、一方的に撫で回された挙げ句、自分だけがイッて相手をイかせることなく終わってしまったという事実。
 想定外すぎる展開にいっぱいいっぱいだったせいなのは明白だけど、もし女装を解かずにいたらその先も当たり前のように求められていた可能性、というのを考えずにはいられなかった。

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バレたら終わりと思ってた2

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 仮初でまがい物でも、とりあえずのお試しでも、遠くから見てるだけだった想い人との「恋人」という関係が嬉しくないはずがない。でも同時に、後ろめたさやら罪悪感やらを盛大に抱える羽目にもなった。
 どうせすぐにバレて終わるから、少しくらいは報われてもいいだろう。なんて、とことん自分に甘くて考えが浅い真似をしたせいで、デートを重ねるたびに少しずつ苦しくなっていく。
 だって見ず知らずの男の子を痴漢から救ってくれるような人だ。そこに惹かれて好きになっているのだ。
 会話をするようになって、相手のことを知るようになって、相手の優しさや思いやりに触れて、想いはあっという間に膨れ上がっていく。
 女装バレを避けたくてけっこう不自然な避け方をしてしまうこともあるのに、不機嫌になることもなく、相手から率先して二人きりを避けてもくれる。おかげで、あっさりバレて終わるはずだった関係は、思いの外続いてしまっている。
 いつか終わるとわかっているから、会える時間を出来るだけ大切に。なるべく楽しい思い出を作ろう。
 そんな努力のかいあって、表向きは多分間違いなくかなり良好だ。
 相手の好意だってちゃんと伝わってくるし、関係を進展させたい欲も間違いなくあるようなのに、でもそれ以上に恋人として大事にされていると感じる。
 実情を知らない、全く気づく気配のない相手は、どうやらすっかり長期戦の構えで、ゆっくりと関係を深めていけばいいと思っているようだった。
 嬉しくて、ありがたくて、でも同時に、あまりにもいたたまれない。申し訳ない気持ちが膨らんでしまう。
 相手の好みに合わせて作った外見なんだから、相手の中に好意や男としての欲が湧くのは当然だと思う気持ちの中に、虚しさやいたたまれなさや申し訳無さを感じるのは、もしもこの体が男ではなく女なら、今すぐにでもその求めに応じたいと思っているせいもあるんだろう。
 でもどんなに申し訳なさを感じても、膨らむ想いが苦しくても、自らバラして関係を終えようとは考えなかった。むしろ少しでも長く続いて欲しいと願っていた。
 いつかバレる日を恐れながら、いつか終わってしまうその後に、自らを慰めるための思い出を貪欲に欲している。
 そんな日々の中、転機はあっさり訪れた。
 デート帰りの電車が途中駅で運悪く酷く混雑したせいで、ずっと密着を避けていた相手と正面から抱き合う形で過ごす羽目になり、結果、男であることがバレてしまった。
 いつかはバレるとわかっていたが、想定よりだいぶ酷い状況に絶望しかない。だって、満員電車の中で相手に抱きしめられたまま、股間を刺激されてはしたなく射精してしまったのだ。
 バレた時には今までのことを説明して、謝罪して、少しの間だけでも恋人として過ごせたことを感謝して……なんて考えていたことは全て吹っ飛んで、すぐにでもその場から立ち去りたい気持ちばかりが頭の中を占めて、その衝動のまま逃げ帰ろうとした。けれどそれを引き止められ、別れる気はないという驚きの言葉を告げられて、交際継続が決まってしまった。
 正直意味がわからない。というかこんな展開、全くついていけない。
 だって驚きの連続だった。
 男とバレたなら二人きりを避ける必要もないので、駅のホームなんかで話す内容じゃないからもっと落ち着いた場所に移動したいという相手を自宅に招いて、女装をすべて解いて男の姿で相手の前に座ったら、なんと相手は自分のことを覚えていた。痴漢されてた男の子でしょと言い当てられたときの衝撃は忘れられない。
 次にあった時には間違いなくスルーされたし、というか何度も男のまま同じ電車に乗っていたけれど、相手にこちらを認識してる様子はなかったのに。でも相手が言うには、不躾にならないように注意しながら気にしていた、らしい。
 つまりはこちらを気遣った結果の無反応で、意図的な無視に近いけれど、こちらの想像とは全然違う理由だった。
 男に痴漢されるような子とこれ以上関わりたくないとか、礼も言わずに逃げ出した相手には関わりたくないとか、そんなタイプじゃなさそうなのはお付き合いで相手を知ればわかることだったけれど、だからこそ、相手の記憶に自分が残っているなんて考えていなかった。
 女装までしてのストーカー行為に関しても、相手はあまり深刻には捉えなかった。こちらの執着というか執念と言うか、女装までして相手に近づきたかった想いに、ドン引くどころかなんだか感心した様子で、そんなに好きなのと聞かれて正直に好きですと返せば、あっさり、男のままの君と新しく恋人関係を始めようなどと言い出した。
 嬉しくて、でも当然すぐには信じられなくて、男の姿の自分にキスをねだった相手に、本当に男でいいのか気持ち悪くないのかと問う。ずっと騙してたのに怒った様子が全然ないのだって、不思議で仕方がなかった。
 だってもう好きだって思っちゃった後だから、なんて言われて、更には、異性愛者の相手に女装という形で近づくのはいい手だったと思う、なんて懐が深いにもほどがあるようなことまで言われたら、信じて頷く以外の道はない。
 堪えきれずにほろりと溢れた涙に、優しい笑顔と力強い腕が伸びてきて、近づく顔に慌てて腰を浮かせばそっと唇が塞がれる。
 バレたら終わりと思っていた女装は、こうして相手の驚き満載な返答の数々により、バレても終わらずに済んでしまった。
 でも、相手が好きになったのは女装した自分であって、素のままの、男の自分とは違う。仮の姿だからと大胆になれていた部分ははっきり自覚していたし、相手の前での振る舞いは、幸せで楽しい思い出づくりのために、必死に頑張っていた部分もかなりある。男の自分がどこまで同じように頑張れるのかは、いまいち自信がなかった。
 素の部分がバレてしまったら、きっと今度こそ終わりになるんだろう。
 でも延期された別れの日まで、もうしばらくは頑張ろうと思った。

続きました→

 
 
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バレたら終わりと思ってた1

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 男なのに痴漢されている、という現実に、何もかも投げ出して実家に逃げ帰りたいと泣きそうになっていた時に、サクッとその痴漢を捉えて駅のホームに引きずり出した男のことが、その後の生活において心の拠り所的なものになってしまったのは多分仕方がない。
 だって大学に受かった喜びなんてあっさり霧散した、狭いアパートでの一人暮らしと混雑がひどい電車での通学に、既に心が折れ掛かっていたところだった。助けてもらったのにお礼も言わずに逃げ出してしまったことも、気持ちが落ち着いてからめちゃくちゃ気がかりだった。
 なのに次にその男を見かけた時、チラと目があっても相手は特になんの反応も示さなかった。
 自分にとっては救世主とも言えたその人にとって、自分はただのモブでしかない。そういや助けてくれたときも、相手の言葉は痴漢してきた加害者にのみ向かっていたような気がする。
 助けた相手になんて興味がなくて、全く覚えてないのかも知れない。いやでも、それならまだいい。
 痴漢行為に対する怒りを前面にだして罵る勢いで非難していた相手から、自分が掛けられた言葉は「悪いけど次の駅で一緒に降りて」くらいだったし、しかも一緒に降りるまではしたけど、痴漢男に告げる警察という単語にビビって逃げ出したわけだから、男に痴漢されるような男に嫌悪感があるとか、恩知らずにも逃げ出した自分なんかとこれ以上関わりたくないという、意思表示を兼ねたスルーかも知れない。
 そう思うと胸の奥が酷く傷んで、でもなぜか、その電車の利用を止めるという判断にはならなかった。それどころか、サラリーマンで毎朝同じ電車の同じ車両を利用しているらしい相手を、わざわざ見かけるためだけに電車に乗るようにまでなってしまった。
 相手が忘れてようと、意図的に無視してようと、どうにか機会を伺って礼を言いたい。
 そんな気持ちがただの詭弁で言い訳でしかないことを、頭の片隅ではちゃんとわかっていたけれど、自分の中の衝動と行動とをとめることが出来なかった。
 相手と対峙し、嫌悪されたり非難されるのは怖くて仕方がないから声が掛けられないのに、相手が降りる駅を突き止め、そのまま相手の背を追い続けてみたい衝動。勤め先が知りたいとか、帰宅時にも同じ電車に乗りたいとか、思考がどんどんおかしな方向に走り出して、なんだかストーカーっぽいと思ったところで、やっと相手への恋情を自覚した。
 痴漢から気まぐれに助けてくれた相手に、一方的に惚れてしまった。それは間違いなく見込みなんてないはずの恋心なのに、既に暴走気味だった思考はあっさりその先にも踏み込んだ。
 男にしては小柄な体型と母親似の女顔だったから、自身の中の悪魔のささやきに乗って、女装に手を出してしまったのだ。
 これのせいで痴漢にあったのかもと、うっすら恨んですらいたのに。背の低さは元々それなりにコンプレックスだったのに。
 それすら良かったとポジティブに捉えられるようになったのも相手に惚れたおかげだと、ますます相手への気持ちを募らせていたのだから始末が悪い。
 でも、そうやって相手に熱中できていたから、新しい生活に馴染めずに鬱々とした日々から気持ちをそらすことが出来ていたのも、紛れもない事実だった。本当は、目を背けたくて相手に熱中した、が正しいのかも知れないけれど。
 自覚したのが夏休み直前だったのもあって、夏休み中にひたすらバイトと女装の知識を仕入れ、ある程度資金が溜まった夏休み明けから実行した。
 本来の自分ではない姿に気が大きくなって、安々と相手の勤め先もおよその帰宅時間も把握し、更には相手の嗜好などへも興味の対象を広げていく。相手の視線の先を追って、女性の好みなども把握し、自身の女装へ反映させていく。
 そんな風に相手を一方的に追いかけるような日々ではあるが、なんせ相手を追えるのは朝と夜だけなので、大学にはちゃんと通っていたし、女装資金のためのバイトだってしないわけにはいかない。
 真面目に大学やバイト先に通い続ければ、新しい生活にだっていずれは馴染んでいく。ひとりきりのアパートで、泣きながら布団をかぶる夜はなくなったし、友人だって出来たし、痴漢に怯んで泣きかけるようなこともなくなった。
 まぁ、男の姿で痴漢されたのはあの1回だけだし、女装時の痴漢は自分であって自分ではないようなものなので、そこまで精神的にキツくないのが大きいけれど。あと、女装とバレてエスカレートするタイプの痴漢には、幸い遭遇してないのも多分大きい。ついでに言うなら、気づいてなさそうなら、それは自信につながる。
 女装までして、ストーカーじみたヤバいことをしている。という自覚はあったので、いい加減止めなければと思っていた。
 思っていたけれど、女装への自信がそこそこついてもいたから、これで最後とばかりに勇気を振り絞ってバレンタインに直撃した。といっても、ホームで呼び止めて手紙を添えたチョコを渡しただけだけど。
 ホワイトデーまで待って何もなければ、それできっぱりおしまい。
 そういう覚悟で渡したチョコは、今まで無反応だった相手から認識されるというちょっとだけご褒美みたいな1ヶ月を得て、当初の予定通り終わるはずだった。だって手紙に添えた連絡先に、相手からのメッセージが届くことはなかったから。
 なのにホワイトデー前日に相手から連絡があって、そのままお試し交際が開始してしまった。

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