理解できない31

1話戻る→   目次へ→

 それって結局、誘導されたようなものじゃないのか。言われてないけど、言われたのと大差ない。そう思ってしまうから、言われずとも好きになるなら嬉しいという言葉を、受け入れられないのかも知れない。
 更に言うなら、もっと早く恋情を育てられていればきっと別の未来があったのだろう、という後悔に似た気持ちは、今も胸の奥に重く沈んでいる。
 そういう想いが色々と重なって、結果、好きになってと言いたくなかった理由にはそれなりに納得がいくのに、さっさと言って欲しかったのにと荒れる気持ちが抑えられないんだろう。多分。きっと。
 そんなこちらの疑問だったり不満だったりに、全部、納得がいく答えが返ってくるんだろうか。それは必要なことなんだろうか。
 今もまだ好きだと言ってくれたし、好きだと返して、その好きを彼が喜んでくれる好きに変えて差し出したいのだと言ったら嬉しいと笑ってくれて、それを嘘じゃないと言い張っているのだから、もうそれで良くないか。自分たちは両想いってことにして、彼がこの家に居ないのは寂しいと言って一緒に過ごす時間を貰って、もう一度抱いてもらえる機会を狙えばいいんじゃないのか。だってさっき、今からでも一緒に住みたいとか、もう一度抱いて欲しいとか、そういうお願い混じりの相談も、こちら次第で検討はすると言っていた。
 どうしたらまた一緒に住めるだろうとか、もう一度抱いてもらえるんだろうとか、こちら次第で検討するといったこちら次第ってのは、どんな状態や言葉を指しているんだろうとか、そんな事を考えだした頃、ようやく彼がお茶とお茶菓子を持って部屋に戻ってきた。
「遅い」
「てことは、考えまとまったのか?」
 そう言いながら、体を起こして空いたテーブルの上に降ろされたお盆の上には、近所と言うにはちょっと離れた場所にある、お気に入りの洋菓子店の、お気に入りのケーキが乗っていた。
「わ、凄い。え、まさか買いに行った?」
「まさか、買いに行ってきましたよ。お前に時間が必要だろうと思ったから。で、引っかかってた色々はどうなった?」
「んー……まぁ、まとまったというか、どうでも良くなったと言うか」
「は?」
 どうでも良くなった、なんて言われるとは思わなかったらしい。
「どうでも良くなったって、どういう方向で?」
「どういう方向?」
 少し焦った様子で問われたけれど、意味がわからない。
「お前が今日、俺に話した気持ちをなかったことにされたくない、って言ったろ」
「ああ、うん。それをなかったことには、してない。そういう全部投げ出しての、どうでも良くなった、じゃあないよ」
「なら、何がどうでも良くなったって?」
 あからさまにホッと安堵されて、これきっと期待していいんだよねと思う。一緒に住みたいとか、抱いて欲しいとか、今すぐ口に出して言ってみたい気持ちがわいてしまう。
 こちら次第で検討する、としか言われてないのだから、早まったらダメだとグッと気持ちを抑え込んだ。今返す言葉は、それじゃない。
「もっと早く、教えてくれればよかったのにって、恨む気持ち?」
「恨んでたのか。てかそれ、俺が言ったことが納得できたってことでいいのか?」
 あんな嫌そうな顔見せてたのにと言われて、納得できたわけじゃないけどと返す。
「でもなんか、納得しなきゃいけないことでもないような気がしてきたというか、好きになっていいなら、いつか俺に育つ気持ちをちゃんと喜んで受け取ってくれるなら、もうそれでいいかなって」
「あー……そういう方向」
「うんまぁ、そういう方向だね」
 そうか、と言って頷いたから、これから先のことを話すのかと思ったのに。
「で、お前が引っかかってることはなんだった?」
「は? それ聞くの?」
 だってそれはそれで知っておきたいだろと、平然と言い放つ相手のことを睨みつけた。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

理解できない30

1話戻る→   目次へ→

「好きになってくれって言ったら、好きになってくれるのがわかってたから、だよ。さっきお前自身、言ってたろ。礼として差し出すために、張り切って想いを育てたはずだって」
 そんなことはして欲しくなかったから言えなかったと言う相手の言い分そのものは、そこまでわからなくはない。納得がいかないどころか、やっぱりと思ってさえいる。
 だってちゃんとその解に辿り着いている。
 彼が求めているからと差し出す好きの言葉では不十分、という解にはすぐに辿り着いたし、彼が求めているからと育てる恋情を望まれていないことも、喜んでくれないことも、わかっていた。
 だからこそ、まさに今、彼の想いに応えたがって、彼への好意を恋情へと育てようとしている自分を、嬉しいなどと言って受け入れようとするのかが、わからない。理解できない。
「わかんないよ」
「やっぱ納得できないか」
「好きになってと言わなかった理由は、わかった。というか多分知ってた」
「知ってた?」
「だって、もう一度抱いてくれたら、抱かれながら好きって言えるよって言ったけど、そういう話じゃないって抱いてくれなかったでしょ。だから、好きって言ってって言われて好きって返すんじゃ嫌なんだろうってのは、わかってた。それと一緒で、好きになってって言われて好きになるのもダメって……あっ」
 そこまで言って、何かが閃いた。
「どうした?」
「えっと、もしかして、好きになってって言われてないのに好きになるなら、それは嬉しいって話?」
「まぁ、そうだな」
「えー……」
「不満そうだな」
 めちゃくちゃ嫌そうに顔をしかめてしまった自覚はあったし、苦笑されるのも仕方がない。
「いやだって、さぁ……」
 わかったことが増えたのに、理解は出来たと思うのに、ちっともスッキリしていない。
「何が引っかかってる?」
「わかんない。なんか、色々」
「ゆっくりでいいよ。この際だから気になることは全部吐き出しちゃえよ」
「今? まだこれ続くの?」
「そう。続きはまた来週、なんて俺が待てない」
「なにそれ」
「言葉通りだよ。でも、ちょっと休憩入れようか」
 お茶いれてくるからテーブル出しといてと言い残し、さっさと部屋を出ていってしまう。言われたとおりに小さな折りたたみテーブルをいつもの位置に出しながら、長い一日になりそうだと諦めのため息を一つ吐き出した。
「引っかかってること……」
 お茶をいれてくると言って出ていったのは、一人で考える時間をくれたと思っていいんだろう。テーブルの上にだらしなく身を投げだして、というよりも、小さなテーブルを抱え込むように身を預けて、何が気になっているのかを考える。
 好きになってと言われて好きになるのはダメで、好きになってと言われずとも好きになるなら嬉しい、という彼の言い分を、彼らしいと思いはするが、そうなんだと素直に飲み込めはしかった。彼の中では大きな違いあるんだろう、とは思うが、自分自身の実感として、そこにそこまで大きな差があるように思えないからだろうか。
 結果として、好きな相手の中に好きという想いが育つなら同じに思えるどころか、好きになってと言って好きになって貰うほうが明らかに手っ取り早くて楽そうだ。なんでそんな回りくどいことをする必要があるのかわからなかった。
 それに、確かに好きになって欲しいと直接的に言われたことはないが、好きだと返らない相手を抱く気はないと突き放されたせいで、彼はこの体よりも彼を想う恋愛感情が欲しかったのかもしれないと認識した部分は確実にあると思う。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

理解できない29

1話戻る→   目次へ→

 溢れる気持ちは音にして口からも吐いていたから、泣いてしまった理由は相手にも伝わっている。ただ、投げやり気分が続いているからか、泣き顔を晒しても先ほどみたいな悔しさはないし、みっともないと恥じ入る気持ちさえもわかない。
 どうでもいいし、どう思われてもいいし、どうしたいのかもわからなくて、気持ちが揺れるに任せて涙を流す。
 そんな中、目の前の相手が随分と困り果てた顔をしていることに気づいて、申し訳ないと思うより先にふふっと笑いが漏れてしまった。だから困るよって、言ったのに。
 先程も使ったティッシュの箱から数枚引き抜いて涙を拭い、息を整えてから口を開いた。
「俺の勝ち」
 頑張って作った笑顔は口の端が少し震えたけれど、吐き出す声は震えなかった。
「は?」
「困らせてみろって、言ってたじゃん」
「勝負はしてないだろ」
「でも俺の勝ち」
 言い張れば、はぁとため息を吐いてから、いいよそれでと認めてしまう。してない勝負の勝敗なんてどうでもいいって感じだったが、負けを認めるなら、これ以上は踏み込まないで欲しいと心底思う。
「じゃあ、もう、いいよね」
「いいって何が?」
「敗者はおとなしく帰ってって言ってるだけ」
「帰るわけないだろ」
「なんで?」
 そう簡単に帰ってくれるわけがないのはわかっていたから、努めて冷静に、短な言葉で問い返す。付け入る隙はないのだと、少しでも思わせたかった。
「なんで、って、ここで放り出して帰ったら、お前、俺が出てって寂しいだとか、俺を好きって言ったこと、全部なかったことにしそうだし」
「ダメなの?」
「ダメっていうか、嫌なの。何度だって言うけど、俺はお前が俺に対してそういう気持ちを抱いてくれたことを嬉しいって思ってるから、なかったことにされたくないよ」
「でも俺、嬉しいって言われるたび、嬉しいならなんでもっと早く教えてくれなかったのかって責めるし、泣くし、困らせ続けると思うんだけど」
 彼はいいよって言うのかも知れないけれど、そんなのは自分が嫌だった。
 本当は、相手の気持ちなんて知ったこっちゃないと、言えたなら良かったのだけれど。なるべく短な言葉で、付け入る隙を見せないようにと思っているのに、なかなか上手くは運ばない。
「それだけどさ、言い訳というか、俺の言い分、聞く気ない?」
「言い分?」
「言った所でお前が納得するかはかなり微妙な話だけどな。ただ、俺を好きになってくれたら嬉しいよって、高校生のお前相手に言えなかった事情くらいは知ってて欲しいんだけど」
「言えなかった事情……って、高校生は子供だから、みたいな話?」
「それに近い話ではあるかな」
 高校生は子供だからエッチなことはしないし出来ないと言われ続けた日々を思い出して、正直、あまり聞きたくないなと思う。だってきっと、彼の言葉はどうせまたいつも通り正しくて、納得できないと喚いた所で、相手の強い意志を前に諦め折れるしかないのだ。
「いいよ。話して」
 それでも頷き促した。これ以上踏み込まないでと思っているのに、結局こうして許してしまう。
 もともと疑問に思っていたことでもあったし、聞いたら彼が言う嬉しいの言葉をもっと信じられるかも知れないし、なぜもっと早く教えてくれなかったと責めて困らせずに済むように、なれるならばなりたかった。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

理解できない28

1話戻る→   目次へ→

「嬉しいよ」
 耳に届く声は甘やかで優しい。演技には思えなかったし、そこまで器用だとも思っていないし、つまりきっと、本心からの言葉と笑顔なんだろう。そうわかっているのに、心のどこかが嘘だと思っている。嬉しいはずがないと思っている。
「嘘つき」
 ほろりと口から零してしまった本音に、相手は肩を竦めながら、言われると思ったと言って苦笑した。
「で、どうしたら嘘じゃないって信じられる?」
「嘘だって認めるわけじゃないんだ?」
「認めないよ。だって嘘じゃないし」
 嬉しいよと繰り返す声も顔もやっぱり優しいから、ぐらぐらと頭が揺すられる気がする。信じたくて、でも信じるのは怖くて、そんなはずないと否定する自身の声が頭の中に響いた。
「でも、俺が望む通りの反応をしてくれてるだけ、でしょ」
「そう思われたくないから絶対とは言わない、って予防線を張った。ってとこまで全部晒してあげたのにそれ言う?」
「だって好きになりたいなんて言われて、困らないはずないから」
「それってどこ情報よ」
 好かれて困るなんて言ったことは絶対にないと言い切って、なのになぜ、困るはずだと確信しているのかを問われる。
「誰かに何か言われた?」
「言われてない」
「好かれて困るなんて絶対言ってないとは言ったけど、そう誤解するような何かを俺が言った?」
「言われては、ない」
「じゃあ言葉じゃなくて態度か」
 どんな態度からそう思った、と少しずつ踏み込んでこようとする相手に、違うそうじゃないと首を振って否定した。
「困るとは言われてないよ。けど、好きになれとも、なって欲しいとも、言われてない」
「そりゃ言えないだろ。っていうか、それで……あぁ……」
 直接困るとは言われなくても、好きだと思いながらもその相手に想いを請わなかったのは、好かれたら困るせいだろう。そんなこちらの推測混じりの理由で、どうやら納得できたらしい。
 相手の勢いが目に見えて萎んだ。酷く気落ちした様子で項垂れて、頭が痛むのか額に手を押し当てている。
 ほら、信じなくて良かった。そんな相手の姿を見ながら、自分は正しかったと安堵しているはずなのに、胸の中は重く淀んだままで苦しい。
 もやもやとした気持ちを抱え、それをどうすることも出来ないままぼんやりと見つめ続ける先で、相手がやがて大きく息を吐く。俯いていた頭を上げて、こちらを真っ直ぐに見つめる顔は真剣だった。
「誤解させたのは、謝る」
「誤解?」
 相手は真剣なのに、対するこちらはぼんやりとしたままだった。だいぶ投げやりな気持ちで、もうどうでも良かった、が正しい気もする。
「好かれたら困ると、思わせてたことだよ」
「まだ、誤解だって、言うんだ」
「そりゃ言うよ。お前が俺を好きだって言ってくれるのは、困るどころか嬉しいんだから」
「なんでそんな事言うの」
「事実だからだ」
「じゃなくて。なんで今さらそんなこと言うの、って事だよ」
 もっと早く知りたかった。抱かれる前に好きになっていたかった。礼として差し出せるものは、彼が唯一はっきりと求めてきたハグ以外では、この体くらいしかないと思っていたのだ。嬉しいなんて言われたら、張り切って彼への想いを育てたはずだ。そうして育てた好きを、彼に抱かれながら、差し出すことが出来たかも知れない。
 それが出来ていたら、好きだと返らない相手を抱かせずに済んだのに。苦しいばかりだったなんて言われるセックスを、彼にさせずに済んだのに。
 そんな気持ちがどうしようもなく溢れて、涙になってこぼれ落ちていった。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

理解できない27

1話戻る→   目次へ→

 口を閉じて首を横に振る。言いたくないと態度で伝え、口はそのまま開かなかった。
「ふーん……」
 そんなこちらに対して、相手もどうするべきか悩むような頷き一つを残して黙ってしまう。
 もしかして根比べだろうか。こちらが諦めて次の相談を口に出すまでこのままなんだろうか。気まずい時間が長く続くのは嫌だなと思うが、だとしても負ける気はなかった。
「あー……わっかんねぇなぁ」
 やがてぼそりとそう口にした相手をハッとして見つめてしまえば、真っすぐに見つめ返される。
「降参だ。お前が言うのを躊躇う相談てのが本気で思い浮かばない。そもそも、言われたら困る相談に心当たりがない」
 きっぱりと言い切られて、だから教えてくれと続く。根比べではなく、ずっと、こちらの相談が何か、ということを考えていたらしい。もしくは、根比べに相手が白旗を上げた結果、なのかも知れないけれど。
「望む反応ごと全部話せば、なるべくお前が望む通りの反応をしてやる。って言ってもダメか?」
「このまま俺を放っておいてくれる選択肢は? 欠片もないの?」
「ない。寂しいなら構ってやる、ってのも、あんまり嬉しそうじゃなかったからな。今を逃したらもっと拗れそうだ」
 強い意志を感じて諦めに似たため息を一つ吐き出した。相手が本気でこうと決めたことを、崩せた事がないからだ。
「まだ、望む反応なんか返ってくるはずがないって、思ってるか?」
「どうかな。だって、なるべく、だしね。絶対に、じゃないし」
「絶対に、って言ってやってもいいけど、そう約束したからお前が望む反応を返したんだって思われそうだろ。それはダメだ」
「すっごい自信だよね。なんでそう言い切れるの。困らせるよって言ってるのに」
「相談そのいちが、寂しいのどうすればいい、だったからだ。お前が俺を嫌ったり恨んだりしてて、この世から居なくなれ、みたいな物騒な方向の気持ちを育ててるわけじゃないってのがわかってりゃ、何言われたってそうそう困ることにはならないよ」
 言われて困る相談事に全く心当たりがないんだと繰り返した相手は、ふと何かに思い当たった様子でニヤリと笑ってみせる。
「俺が困ると思うなら、いっそ困らせてみろっての」
「なにそれ。煽ってんの?」
「そうだよ」
 しれっと肯定されて、もう一度深く息を吐いた。
「ねぇ、俺のこと、まだ好き?」
 やっという気になったかと待ち構えていただろう相手は、一瞬呆気にとられた顔をしたけれど、すぐに真剣な顔に戻って、もちろん好きだよと返してくれる。だから安心して相談を口に出していいのだと、背中を押してくれる。
「俺も、好き」
 やっぱり想定外の言葉だったんだろう。驚きに目を瞠った相手を真っ直ぐに見つめ続けるのはなんだかいたたまれなくて、少しだけ視線をそらして言葉を続けていく。
「今はまだ、あなたがくれる好きとは違う好きだと思うけど、それを同じ好きに変えていきたい。あなたが喜んでくれる好きって気持ちを、いつか、あなたに差し出したい。そう言ったら、俺に、協力してくれる?」
「その前に、お前が望む俺の反応は?」
「嬉しいって、笑って欲しい」
 なんだそんなこと、と言わんばかりに安堵の息を吐いてから、相手は嬉しそうに笑ってみせた。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁

理解できない26

1話戻る→   目次へ→

 しかしこちらの予想と違って、彼は困り顔というよりはいささかムッとした様子の、不愉快そうな顔を見せる。
「俺が家を出たって、一人じゃどうにも出来ない困りごとが起きたら、今まで通り頼っていいって言ったろ。寂しいから構えとか、遊べとか、どっか連れてけとか、言えばいい。お前からすりゃいきなり俺が家を出てったのは事実だし、気持ちの準備期間が足りなかったって言われりゃ納得だってするし、協力だってする」
「保護者も家族も卒業したって言った相手に、そんな風に甘えて困らせたくない、って話なんだけど」
「別に困りはしないけど」
 ムッとした様子はなくなって、今度は平然と言い募る。
「なんで? 俺が段階を踏んで自立できるように、まずは一番頼りにしていたあなたが物理的に距離を置く、ってことだと思ってたんだけど」
 なのに頼って甘えてしまったら意味がないでしょと言えば、当たってるけど急ぎ過ぎだと返された。
「段階を踏んで、ってところには、俺が家を出て距離が離れたって、お前が困ったら今まで通り助けるって分も含まれてんの。ついでに言うなら、俺が居なくて寂しいって理由はともかく、お前が俺に相談できなくて調子狂う日が来るだろうってのは、実のところ想定内でもある」
「は?」
「お前が自分から頼ってこれないのわかってるから、お前の様子があまりにおかしけりゃ、今回みたいに親から俺に連絡入るようになってんだよ」
「は?」
 なにそれ意味がわからない。呆然とするこちらに、相手は肩を竦めて見せる。
「俺から離れるのにだってそれなりに段階を踏む必要があるだろ。ってのは想定内だから、寂しいから構えってのも、特別困るようなお願いじゃないよって話」
「なにそれ。なんだそれ。そんなの聞いてないし、保護者も家族も卒業って言ったくせに」
「まぁそうは言ったけども、保護者や家族を卒業したって形をとったのはお前を抱くため、って意味合いが一番強いんだよ。三年以上同じ家に住んで面倒見てきた相手を、卒業って言葉とともに放り出す気なんてもともと無いし、俺が居なくなって寂しいって思って貰えるくらい、お前に慕われてた事を嬉しいとも思ってるよ」
 本気で嬉しげに笑われて、なのにこちらに湧くのは怒りと混乱だ。また泣いてしまいそうで、でも再度抱きしめられてあやされるのはもちろん嫌で、ギッと奥歯を噛みしめる。相手のことを睨みつける。
 相手は今度こそ、少しばかり困った顔を見せた。
「寂しいならいくらでも構ってやるよってのは、お前が期待するような返答とは違ったか?」
「わか、ない」
「わかんないってなんだよ」
「どう返されたら満足なのかなんて、考えたことないし」
 ふとした瞬間に、日々のあれこれを聞いて欲しいだとか、彼が一緒ならもっと楽しいだろうとか、そう考えて寂しくなることは多々あった。だから彼の返答はちゃんと的を得ていると言えるだろう。でも、寂しいならいくらでも構ってやると言われても、ちっとも嬉しくなかった。
 どう返されたかったんだろう。どう返されたら満足が行くんだろう。嬉しいと、思ったんだろう。
 けれどそれをじっくり考える時間はない。
「望むような反応が返らないから相談できない、って言ってただろ。てことは、俺に望む反応がはっきりあるって事じゃないのか?」
「それは……」
「そういや、困らせるような相談そのいち、とか言ってたか」
 相談そのには何だと問われたけれど、もちろん、もう一つ抱えている大きな問題を、このまま彼に相談するなんて真似は出来っこなかった。

続きました→

 
 
*ポチッと応援よろしくお願いします*
にほんブログ村 BL短編小説/人気ブログランキング/B L ♂ U N I O N/■BL♂GARDEN■


HOME/1話完結作品/コネタ・短編 続き物/CHATNOVEL/ビガぱら短編/シリーズ物一覧/非18禁