理解できない37

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 今度は自分が焦らしてやろう。という企みを胸に、彼との時間を重ねていく。
 それは、どこかに出かけるか自室でまったりイチャつくかの二択に、彼が越した先の家で過ごすという選択が増えた日だった。
 初めて招かれた彼の家への興味と興奮が大半で、けれど、どうして家に呼んでくれたのかと勘ぐる期待だってもちろんある。自室でまったりイチャつくのが、せいぜいキス程度で終わってしまうのは、家の中に彼の両親が居るからなのだとわかっていた。完全に二人きりで過ごすのなんて、あのラブホ以来と言ってもいい。
 ただ、いつもより過激なスキンシップが可能だと期待する気持ちはあっても、正直、どこまで許していいのかわからない。焦らしてやれと思っていたって、どうすれば相手が焦らされてくれるのか、肝心な所がわかっていない。ということに、勧められるままソファに座ってから気づいて焦っていた。
「なんでそんな緊張してんの?」
 ソファ前のローテーブルにお茶を置きながらそう言った相手は、隣の空きスペースに腰をおろす。しかも随分と体をこちらに向けていて、視線が頬に突き刺さる。
「期待していいんだよね? とか言いながら、ぐいぐい来そうなとこなのに」
「期、待……していい、の?」
「多少は」
「たしょう、って、どれくらい?」
「んー……そうだなぁ」
 言いながら彼の手が伸びてきて、頭を撫でて髪を梳き、やわやわと耳を摘まれた。いつものスキンシップよりも手付きが柔らかで、ゾワゾワとするこの感覚が、快感の芽であることはわかっている。
「俺とのセックスを意識し過ぎてこんなになってる、ってなら、このまま抱くのも有りなんだけど」
「えっ、抱くの?」
 抱くのも有りだなんて言葉が出てくるのはあまりに想定外で、思わず相手を振り向いてしまう。ようやく彼と視線を合わせたせいか、目の前で満足そうに笑われた。ただし、その口から吐き出されてきたのは否定の言葉だったけれど。
「いいや。だってどう見たって違うんだよなぁ」
「違うって何が?」
「緊張してる理由。やっと抱いて貰えるかもなんて事、ちっとも思ってないだろ」
「だ、って、同じ好きになったのか、自信ない、し。でも、いつもよりえっちなこと、して貰えるのかも、って思っては、いる」
「どこまでしていい?」
「えっ?」
「今日、どこまでなら、お前に触っていい?」
「えー……っと、それを、俺が、決めるの?」
「そう」
 頷かれて、どこまで許せばいいのかを考え込めば、しばらくして、相手が堪えきれなかった様子で吹き出したから、驚きのあまり肩が跳ねてしまった。
「えっ、え、何!?」
「なぁ、お前、いったいなに企んでんの?」
「たくらんでなんか……」
 焦らしてやりたい気持ちを見透かされているようで居たたまれない。
「こーら。ちゃんとこっち見て言えよ」
 視線を泳がせればすぐに窘められてしまったが、だからと言って真っ直ぐに彼を見返すのは難しい。
「お前ね。そんなじゃますます、変なこと企んでますって言ってるようなもんだぞ」
 呆れた様子の声に、何企んでるか言ってみろと促されたけれど、果たして、今度は自分が焦らす番だなんてことを口に出していいのかわからない。というか、そんなの言えるわけがなかった。

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理解できない36

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 今はまだ気持ちを育てている段階で、きっと同じ好きが育つまで抱いてはくれない。抱いてくれとねだったり迫っても、なんだかんだと理由をつけて躱されるだろうと予測はついていた。
「俺に同じ好きが育つまで、待ちたいんでしょ?」
「そうしたい気持ちはあるけど、お前の気持ちを蔑ろにしたいわけでもないよ」
 交際を開始したら随分と消極的になってしまって心配なんだと言われた。必要だったにしろ、やや強引に家を出てしまったことを、どうやら気にしてもいるらしい。
「こう、って決めたことは貫いちゃうの知ってるから、何言ったって、どう誘ったって無駄。って思ってる部分は確かにあるかなぁ」
「うん、だから、そう思わせるくらい頑なだったことは認めるけど、高校生のお前相手にはどうしても必要だったからで、高校卒業して恋人って関係になった今、今までのせいでしたいことも言えない関係になってるってなら、それは改善していきたいと思ってる」
 早くもう一度抱いて欲しいって気持ちはもちろんあるけれど、困らせたいわけではなかったし、とりあえず恋人の座を手にしたことで焦る気持ちもなかった。彼がそう決めているのなら、自分の欲求を満たすために誘いをかけてもあしらわれるのは目に見えていたし、だったら今は自分の気持ちを育てる方に集中しておけばいいと思っていた。というだけなんだけれど。
 高校時代、めげずに彼を誘い続けて、高校卒業したらするという言葉をもぎ取り安心するような真似が当たり前だったからか、今の自分の態度が、彼からすると不可解なようだ。
 いやでもちょっと待って欲しい。それを気持ちを試す行為だと指摘し、気持ちを疑われて試されるのは不快だったかもと思い至らせたのは彼だ。
「つまり、俺の気持ちを試す必要は感じてない?」
「そう、だね。というか恋人として、十分構って貰ってるし」
 なんせ今だって、彼に背中から抱きしめらたままでいる。どれくらい先かはわからないけど、この関係が育った先に、セックスはあると疑っていない。
「まぁ、気持ちが充分育ったはずなのに、いつまでも二回目がなかったら、いつになったら抱いてくれんのって言い出したりするかもしれないけど」
「なるほど。じゃあ、どうせ俺が頷かないから諦めきってて、抱いてくれって言えないわけじゃない?」
「抱かれたくて仕方ないのを我慢してる、ってわけではないかな」
 でも今すぐ抱いてくれるならそれはそれで嬉しい。とも付け加えたけれど、相手はせっかくだから楽しみに待つよと言った。楽しみにと言いながらも、ほんのりと落胆を混ぜたような声だと思った。
「もしかして、しつこく抱いて欲しいって繰り返しねだられたかったりする?」
「そういうわけではないけど、きっとお前が考えてるよりずっと、俺はお前を、早くもう一度抱きたい、って思ってるよ」
「ぇひぁっ!?」
 ええっ!? と驚きの声を上げるはずが、うなじにチュッと落ちた唇がそのまま肌を吸い上げていくのに更に驚いて、結果、妙な声を上げてしまった。
「あー……」
 明らかに不満の声まじりな大きいため息を首元で吐かれて、ちょっとわけがわからない。
「え、ちょっ、いったい何?」
「このままもうちょっと手ぇ出したい気持ちと、それやったらお前に今すぐ抱いてくれるんじゃって期待させそうな躊躇いと、うっかりその期待に応えそうな恐怖。との葛藤」
「このまま手ぇ出しやすいように、誘惑してあげようか」
「嫌だ。お前の気持ちが育つのを楽しみ待つんだ」
 はっきりきっぱり言い切られて、一旦彼の腕の中から開放されてしまったけれど、こんなことをされたら尚更、気持ちを試す必要なんて全然ないよなと思う。早くもう一度抱かれたい気持ちは間違いなくあるけれど、じっくり気持ちを育てて、いっそ我慢できないくらい彼を欲しくなってからでもいいような気がしてしまった。
 高校時代散々焦らされたのだから、今度は自分が焦らしてやりたい、みたいな気持ちが湧いてしまったことは認める。

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理解できない35

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 結論から言えば、彼との交際がスタートした。きっとまだ同じ気持ちの好きではないけれど、気持ちを育てるのは付き合いながらで構わないらしい。
 恋愛感情と呼ばれる想いが未だよくわからない自分を、彼はわかってると言ったし、ゆっくり育てればいいと言ったし、いつか自覚する日を楽しみにしていると笑った。笑って、とりあえずデートからと言って、さっそく翌日の日曜に映画を見に連れ出されもした。
 家を出てから全然戻ってこなかった彼が、ほぼ毎週末顔を出すようになったのに、おじさんもおばさんも何も言わずにあっさり受け入れている。こちらが調子を崩していたのは事実で、様子がおかしいと彼に連絡を入れたのはどうやらおばさんらしいし、今のこの状態はアフターケア的なものと認識されているのかも知れない。
 まぁどうせ自分が知らないだけで、彼との間で話が済んでいるってだけだろうけど。
 恋人って関係を得て変わったことは結構あった。一緒に出かけることが増えたし、明らかに一緒にいる時の距離が近くなった。
 自分が使っている部屋はこの家の長男が使っていた部屋で、年に一回戻ってくるかどうかの長男が泊まっていく時だって、次男である彼の部屋に来客用の布団を持ち込んでいたのだけれど、彼が家を出たからと言って彼の部屋がなくなったわけじゃない。だんだん物置代わりに使われ出してるとは言っているが、週末に戻ってきても彼が過ごすのはダイニングかこの部屋だったし、二人だけで過ごす部屋の中では彼から触れてくれることも多かった。
 以前は差し入れのお礼にと、部屋を出ていく前にこちらからギュッと抱きしめる以外の接触なんて殆どなかったし、あったとしてもこちらから仕掛けるばかりだったし、確かに風呂場に突撃して背中や頭を洗いあったりもしたが、そんなことが出来る機会は滅多になかったから、彼から何の躊躇いもなく伸ばされる手には正直戸惑いも多い。
 ただそれ以上に嬉しくもあって、彼と過ごせる時間が待ち遠しい。次に会える日を楽しみに待ってしまう、という状況だけでも、自覚するたびなんだか不思議な気持ちになった。
 お礼ならハグがいいとか言うだけあって、スキンシップが好きなのだと言った相手は、保護者だった時にはどうやら相当自制していたらしい。彼側から触れることを許したら、なし崩しで手を出す可能性があっただとか、これくらいならって思いながらエスカレートしていくのが怖かっただとか、そんなの全く知らなかった。気づかなかったし、欠片も考えたことがない。
「気づかれたら絶対そこ狙って俺に手を出させようってしてたろ」
 背後から耳元に落とされる声と息とが気持ちいい。
「それはするね。というかそれをこの状態で教えるってことは、誘惑していいよってこと? それともこのままなし崩しで手を出されることを期待していいってこと?」
 現在彼の腕は自分の腹に回されていて、つまりは座る彼を椅子代わりにしながら、彼が持ち込んだタブレット端末で一緒に動画を見ていた。他愛ない感想を言い合う中で、彼の口からほろりと溢れてきた、スキンシップが好きの言葉と、以前はかなり自制していたという話だった。
「どうしようか、とは思ってる」
「どうしようかって?」
「んー……恋愛初心者なのに行為慣れしてて、既に一度抱いてる子相手に、どう二回目を誘うのがいいのかを?」
「いつでも歓迎するけど」
 言えばすぐに、それは知ってると返される。
「でも思っていたよりは積極的じゃないんだよな」
「恋人になったんだから抱いてよって言われるはずだった?」
「言いそうだと思ってたし、どっちかというと、どう躱すのがいいかを考えてた」
 今度はこちらが、知ってるよと返す番だった。

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理解できない34

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「簡単に諦めるつもりがなかったから、保護者やら家族としての情じゃなくお前が好きだと伝えたし、お前と距離を置いたのだって、三年半掛けて作り上げてしまったお前との関係を、どうにか変えたいと思ったからだ」
 ある意味、賭けのようなものではあったけどと続けた相手は、そこで一度言葉を切ってじっと見つめてくる。
「なに……?」
「賭けには勝った、と思ってるんだけど」
「だけど?」
「あー……お前、わかってない顔してる」
 どんな賭けをしてたと思うかと聞かれて、すぐに答えが返せなかったら、やっぱりという顔をされてしまった。というかまんま、やっぱりなと言われてしまった。
「いや全くわかってないわけじゃないよ。えと、だから、諦めなくて良くなったとか、俺との関係が変えられたとか、でしょ」
「うん、だから、それを一纏めにして、俺が何を望んでたかだよ」
「ひとまとめ……」
 わかんないよと言いそうになったけれど、でもさすがにそれを口に出すのは悔しい。ムッと閉じた唇を突き出してしまえば、仕方がないなと言いたげに軽く肩を竦めた後で、答えを教えてくれた。
「お前が俺を、恋愛対象として見れるようになるか、だよ」
 ただ、答えを聞いても、いまいちピンとこない。何かがつっかえてスッキリしない。だから何が引っかかっているかを必死に考える。
「それは、好きになってってはっきり言わなくても好きになろうとした、ってことを言ってるの?」
「違うな」
「よくわかんないのは、高校卒業するまでは抱かないって言ってて、卒業後にはちゃんと抱いてくれたんだから、さっきの、好きになってって言って気持ちを誘導しちゃいけないってのも、高校卒業するまでの話じゃないの?」
 だとしたら、そんな賭けなんかしてないで、好きになってって言えば良かったのにと思ってしまう。恋愛対象にしてって言われたら、恋愛対象として見るようにだってなるはずだ。
 ただこれを言ってしまうと、また話が戻ってしまうのだけれど。さっき理解したと頷いたはずなのに、それを覆してしまう。
 けれどそんな心配はする必要がなかったらしい。
「そうだなって言いたいとこだけど、高校卒業したらもう子供じゃないからいいよなって、気持ちを誘導していいって話にはならないよ」
「なんで?」
「高校卒業したからって、俺が自分の都合で心ごと弄って好きにしていい存在だなんて、欠片も思ってないよって言ったらわかるか?」
 それはストンと胸の中に落ちて、収まりがいい言葉だった。すごく、彼らしい言葉だと思う。
「あー……うん。らしい」
「ただお前は、俺の都合で気持ち弄られようと構わないのにって、言いそうだけどな」
「言うね。俺が欲しくてそうしたって言われたら、嬉しいとか言い出しそうなくらいには、あなたにならそうされてもいいって思うよ」
 むしろそうして欲しかった気持ちも結構ある。それは彼が欠片も望んでいない関係なのだということも、今はもうはっきりとわかっているけれど。
「そこまでの信頼は嬉しいけど、そうやってお前を抱え込んだまま生きて行く気は、俺にはないんだ」
「うん。わかってる」
「俺が気持ちを誘導するんじゃなくて、お前に、これから先、俺との関係をどうしたいか、どうなりたいか、考えて欲しかった」
「うん」
「愛だとか恋だとか誰かを好きになるって気持ちそのものを、高校卒業時点では多分まだ知らなかっただろうお前が、俺がお前に抱く恋情にどんな反応をするのかはわからなかったし、それを気持ちを誘導されたと取られたことはちょっと想定外でもあるんだけど、俺が、お前に同じ想いを返されたいと思っていることを汲み取って、俺がそれを喜ばないと思いながらも、俺への気持ちを育てようとしてくれてたことは、本当に、嬉しい」
 信じて貰えるかと聞かれたが、さすがにもう、その嬉しいを疑う気持ちはわかなかった。

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理解できない33

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 なぜか、逃がす気ないから覚悟して付き合え、なんて言葉まで飛び出てきて驚く。朝食の席でそんな幻聴を聞いた記憶はあるし、その後の彼の様子からも逃がす気がない気持ちはなんとなく伝わっていたけれど、まさか本当にその言葉を聞くことになるなんて。
「わかったよ。で、言い訳って?」
 言われたとおりに再度覚悟を決めつつ促せば、じゃあ一つ目と言って、どう考えても手っ取り早いだろう方法を取らなかった理由を話し出す。
「お前が家に来る以前、お前の周りに居た大人たちは倫理観が狂ったヤバい奴らが多かったらしい。ってのは知ってるし、お前にもそう言ってきたし、お前自身自覚があるだろ?」
「そりゃあ」
「俺はそいつらの仲間入りをする気はないってことも、散々言ったよな」
「てことは、俺に好きになってって言うのは、倫理観が狂った大人がやることなの?」
 あっさりそうだよと返されたけれど、やっぱりよくわからない。
「お前はその狂った大人たちのせいで自分の常識、特に性愛、というかセックス関連に対する感覚がズレてる自覚もあるよな?」
「大人が子供に手を出すのは犯罪ってのは嫌ってくらい聞いたし、もうわかってるよ。わかってて、でも何度も誘ってたのは、別にいつか気まぐれに抱いてくれるかもなんて気持ちからじゃなくて」
「俺にその気がちゃんとあるのか、気持ちが変わってないか、試してたんだろ」
「あー……まぁ、そう」
 相手もそれをわかっているから、高校卒業したらと繰り返し言葉で伝えてくれていたのだとは思っていたが、気持ちを試す行為だったと指摘されるとなんだか気まずい。こちらは安心を貰うようなつもりだったけれど、何度も繰り返したあれらを、気持ちを疑われ試されていると感じていたんだとしたら、なんだか申し訳ない事をしていた気になる。なのに。
「まぁそれは今はどうでも良くて」
「どうでも良くて!?」
「あ、そこ引っ掛かんのか」
「いやだって……」
「いいよ。聞かせて。どうでもいいって流されたくないのはなんで?」
 知りたいよと促されて、なるほど、これはそういう話し合いだったと思い出す。会話中、何かに引っかかって反応したら、こうして追求されていくらしい。
 しどろもどろになりながら、申し訳ない気がしたことを説明すれば、優しい顔で聞いてくれていた相手が、ありがとうと言った。
「ありがとう?」
「俺がどう思うか、思っていたか、考えてくれてありがとう」
「ああ、そういう意味」
「以前のお前なら、俺がどう思うかとか感じるかとかは、それが俺の機嫌を損ねて、お前が望む展開が遠のかないかを心配する要素が強かったんだよ」
 自覚あるかわからないけどと言われて、言われてみれば確かにそういう感じだったと思う程度には、彼の言葉は当たっている。
「お前の要求を通すために機嫌をはかるんじゃなくて、ただただ俺の言葉から俺の気持ちを考えて、申し訳なかったなんて言葉がお前から出てくるの、すごく嬉しい」
 本当に嬉しそうに笑われて、その笑顔からなんだか目が離せない。照れくさくて、ホッとしてて、嬉しいのが、ふわふわに混ざり合うみたいな気持ちだった。
「こうやってお前の成長を目の当たりにすると尚更、お前が高校卒業前に、お前の誘惑やら自分の欲やらに負けなくて良かったって思うよ」
 そう言って笑みを深めた相手が、話を戻すけどと前置いて口を開く。
「好きになって欲しいと言ったら、張り切って俺への気持ちを育てるだろう事がわかっているからといって、お前の信頼を少なからず得ている保護者の立ち位置に居た俺が、自分に都合よく誘導して俺を好きになって貰うってのは、俺が、俺自身の欲に負けるのと同義だと思ってるし、真っ当な大人がやっていいことじゃないとも思ってる」
 ゆっくりと噛んで含めるように告げられる言葉に、こちらもじっと耳を傾けてしまう。
「ここまで、理解して貰えそう?」
 黙って頷けば、じゃあ続きと言って、諦めがついちゃう気持ちなのかについてだけどと、彼の言葉が穏やかな響きで続いていく。

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理解できない32

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 せっかく荒れる気持ちを押さえつけて飲み込んだというのに、それをわざわざ引きずり出して語ってやる理由としては弱い。なのに、やだよと言えばなんでと返されるし、言いたくないと言えばますます知っておきたい気持ちになると返ってきた。
 どうでも良くなった内容なら話せるはずだと諭されて、隠されれば隠されるほど、知られたらマズい何かを含んでいるのかと邪推することになるぞと脅されて、仕方なく口を開く。
「じゃあ言うけど、好きになってって言ったら好きになるのがわかってるなら、そっちの方が手っ取り早いのに、好きになってって言わずに好きになってくれるのを待つ理由がわからない。好きにならなかったら諦めがついちゃう程度の気持ちってことなの?」
「それは、」
「待って」
 まだ続きがあるからと言えば、わかったと先を促される。
「そもそも、好きになってとは言われなかったけど、それに似たようなことはされたし、それに誘導されて好きって気持ちを育てたいって考えた気もするから、して欲しくなかったらしいことをしちゃってるんだよね。だとすると、言われなくても好きになったら嬉しいって気持ちは、当てはまらないかも知れない。そう思ったら、誘導されて好きになろうとした事実は、隠したほうがいいような気はしたよね」
 邪推されるまでもなく、知られたらマズい何かは確か含んでいた。
「というわけで、ほら、やっぱ余計なこと知らないほうが良かったんじゃない?」
 これでもまだ嬉しいと言ってくれるのか。彼を好きだと思う気持ちを育てることを許容して、いつか育った気持ちを喜びと共に受け取ってくれるのか。それを挑発するように笑いながら問いかけてやれば、少し嫌そうに顔をしかめながらも、言葉だけは嬉しいよと返ってくる。
「ちっとも嬉しそうな顔じゃないんですけど」
「これはお前にそんな顔させてる自己嫌悪が顔に出てるだけ」
「なにそれ」
「言葉通りだって。不安にさせて悪かったよ。引っかかったのそれだけなら、言い訳聞いて」
「言い訳、あるんだ」
「あるよ。聞いてお前が納得するかはわからないけど」
「それさっきも言ってたね。聞いたら納得はすると思うよ。あなたらしいとは思う、って意味で。さっきのだって、そういう意味ではちゃんと納得は出来てる。納得はしても、もっと早く知りたかったのにって気持ちはなくならないし、卒業前に好きって気持ちが育ってれば、好きと返らない相手を抱かせることもなかったし、苦しいばっかりだなんて言われるセックス、させずに済んだのにと思うし、それが出来てたら、そのままセックス続けられる関係だったかもって考えちゃう、ってだけで」
 つらつらと重ねているのはこちらの不満でしか無いはずなのに、聞いていた彼の顔は少しずつ穏やかに解けていく。口を閉じればそうかと頷かれたけれど、声音も表情もだいぶ優しい。
「それなら尚更、お前もお前自身の気持ちを俺に話して、俺を納得させるべきなんだよ」
「どういう、意味?」
「俺のさっきの言い分に対するお前の不満だとか不安だとかは、今の話聞いて納得した。だから俺は今から、それを受け入れた上で、俺の話をお前にするよ。俺をもっと知って欲しいし、理解して欲しいし、納得を深めて欲しい、って気持ちでだ」
 もちろんお前をもっと知りたいし、理解したいし、納得を深めたいとも思っていると続けた相手は、これをそういう話し合いの場にしたいのだと言った。

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