夢見る腐男子は理想の攻めを手に入れたい3

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3章 本当に来てくれた

【日が落ちて暗い路地裏】
:君が腐男子の颯真くん?

そっと掛けられた声に慌てて立ち上がった。
目の前の男は背が高く、見上げながら頷いてみせる。

颯真:そ、です

:良かった
 :俺が来るまで見つからずに済んだみたいだな

颯真:あ、あの
  :あなたが、通りすがりの、翔、さん?

:そうだよ

颯真:ほんとに、来てくれるなんて思わなかった

:待ってる間不安にさせた?
 :でも絶対行くって言ったし
 :到着予定時間もオーバーしなかったろ?

颯真:そ、ですけど、でも……
  :(だって掲示板でたまたま見つけただけの他人だよ?)

:目が赤いな、泣きそうだ
 :こんな場所で一人待たせてたのは悪かった

颯真:謝らないでよっ
  :来てくれて、嬉しいんだ
  :ホッとしただけ、だから

言葉にしたら緩んでいた涙腺が決壊した。

颯真:ご、ごめっなさ

:気にしなくていい
 :なんなら胸を貸そうか?

頷けばふわりと抱きしめられる。
柔らかなリズムで背を叩かれながらひとしきり泣いた。

颯真:(落ち着いてきたら途端に恥ずかしいぞこれ)
  :(ど、どうしよ)

:そろそろ落ち着いた?

颯真:は、はいっ

:車で送られることに抵抗がないなら車で
 :会ったばかりの男の車に乗るのが不安なら公共交通機関で
 :ここまでくれば安心と思える場所まで送るがどうする?

颯真:電車とかで送ったらまたここに戻ってくるの?

:まぁそうなるな

颯真:じゃあ車で

:なら車まで案内しよう

颯真:はい

:しかし怖くないのか?
 :タクって男に襲われかけた直後なんだろう?

颯真:車に乗ったら翔さんも豹変して押し倒してきますか?
  :カーセックス興奮するだろ、みたいな

:そんな性癖はないな
 :それにそんなことをしたらクビが飛ぶ

颯真:クビが飛ぶ?

:急いでいたから職場の車を借りてきたんだ
 :車体にばっちり社名が入ってる

ほらと言われて指された先の車の側面には飼沼不動産の文字が書かれている。

颯真:ホントだ、って、もしかして仕事中だった??
  :(気にしてなかったけどよく見りゃスーツじゃん)
  :(不動産屋勤務なら土曜仕事も当然か)

:いや今日の業務は終わってた
 :ただ昼に見た「今から会う」って書き込みが気になって
 :何度も掲示板をリロードしてた

颯真:だからあの早さで返信してくれたんだ
  :正直あれはかなりビックリした

:おかげで「助けて」にすぐ反応できて良かったよ

ふわっと柔らかに笑われて心臓がドキンと跳ねた。

【車の中】
自宅最寄り駅へ送って貰いながら今日起きたことを話している。
しかし強引に口を塞がれたという場面で言葉が詰まる。

:さっきも言ったけど
 :聞きたいと言ったのは俺だが無理して話す必要はないんだからな?

颯真:いや俺も聞いて欲しいんで
  :ただちょっと、
  :口の中好き勝手舐められて気持ち悪かったの思い出しちゃって
  :体中ゾワゾワしたっていうか

:好きでもない相手とのキスに拒否反応を起こしたんだろう

颯真:そう、なのかな……

:もしくはやはりBLが好きなだけでゲイではないんじゃないか?

颯真:あー……
  :(そっか、掲示板に書いたこと全部知られてるんだ)
  :(ゲイじゃないなら翔さんでも同じように気持ち悪いのかなぁ)
  :(確かめてみたいけどキスしてなんて言えないか)

:どうした?

颯真:いえ、なんでも

:試してやろうか?

颯真:え?

:キス、俺ともしてみる?

颯真:ええっっ!?

:今、俺とキスしても気持ち悪いのかって考えたろ?

颯真:なんでわかったの!?

:視線?

颯真:ほんとに、してくれんの?

:ただの腐男子でゲイじゃないんだって自覚ができれば
 :抱いてくれる相手を探そうなんて思わなくなるだろ?

颯真:(ゲイじゃない前提かよ)
  :じゃあもし翔さんとのキス
  :気持ち悪くなかったら?

:その時はあれだ
 :あーなんて言ったっけオキヨメ?

颯真:オキヨメ?ってまさかお清めセックス?
  :レイプされた受けが
  :恋人とか好きな相手とかに抱いて貰う的なアレ?
  :嫌な記憶上書きしてあげる、みたいな

:ああ、それだな
 :お清めと言うよりは記憶の上書きだ

颯真:あの、翔さんてBL読むんですか?

:そりゃ多少は触れる機会もあるよ
 :腐男子と言えるほど好んでは居ないが

颯真:そっか……

:それで、どうする?してみる?

颯真:して欲しい、です

:なら車どっか停めるからちょっと待ってね

やがて車通りの少ない路肩に車が停止した。

:颯真くん

そっと肩を抱かれて相手の顔が近づいてくる。
しかしキスは一向に深くならず何度も軽く触れては離れていく。

颯真:あの……

:もっとリラックスして
 :怖くなくなったら自分から少し口を開いて

颯真:あ、そっか……
  :(無意識だったけど、口、固く閉じてた)

:いいよ
 :気持ち悪いキスされたばっかりだろ
 :颯真くんの気持ちの準備が出来てからね

颯真:(これ深くなっても絶対気持ち悪くなんか思わないよね)
  :(翔さんになら口の中も舐めて欲しい)
  :(早くキスの上書き、して欲しい)

意識的に口を開けばゆっくりと舌が入り込んでくる。

颯真:んっ
  :(ほらやっぱ全然気持ち悪くない)

【ちゅ……ちゅく、ちゅっ】
颯真:ぁっ……はぁ……
  :(音、小さいのになんか凄くエロい)
  :(どうしよ気持ちぃ)
  :(上書きなんかじゃなくて最初がこのキスだったら……)
  :(っていうかファーストキスがあんななの最悪だよ)

:颯真くん?

颯真:も、っと

:泣いてるのに?

颯真:えっ?

:泣いてるよ

颯真:あれ?

:これではっきりしたろ
 :ゲイじゃないなら

颯真:違っ!
  :凄く気持ちよかった、です
  :ただちょっと思い出して悔しくなっただけで

:悔しい?

颯真:あんなキスされたくなかった、って
  :このキスが上書きのキスじゃなければ良かったのにって

:そうか

颯真:ねぇ翔さん、俺、翔さんに抱かれたい

:は?

颯真:俺の初めて、翔さんに貰って欲しい
  :俺、初めては絶対翔さんがいい

続きました→

 
 
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