顔を見られたくないんじゃないの、という指摘は間違っていないけれど、でもそれは、相手が見たくないだろうから、という理由もかなり大きい。さっき、欠片も似てないわけじゃないとは言ってくれたけれど、でもそれは内面の話で、見た目や言動に似てる所がないのは相手だって認めている。
「だって、顔、見せたら、お前が、あいつの代わりにしにくいかと……」
「え、そういう理由?」
「いや、恥ずかしいのも、あるけど。あと、お前の顔、見てたくない、とか」
「顔見なかったら、少しはあいつの代わりに出来そうだった?」
「なんでだよ。あいつの代わりに抱いてくれとは思ってないって言ったろ」
「じゃあどういう理由? なんで、俺の顔、見てたくなかったの?」
少し不機嫌そうな声に、こちらも不機嫌を隠さないままぶっきらぼうに返せば、さらに不機嫌さを増した声が返される。
何が気に入らないのやら。きっと何か不快な予想を立てて、勝手に不機嫌になっているに違いない。だって絶対、その予測は外れてる。
「お前が、俺をあいつの代わりに出来ても、出来なくても、そんなの、見たくねぇよ」
「出来ても、出来なくても?」
「あいつの代わりで優しくされてるって思い知らされるのも、俺の顔見てあいつじゃないってガッカリされんのも、見たくねぇって言ってんの」
察しの悪い相手に苛ついて、やけくそ気味に言い放てば、呆れたようなため息を吐かれてしまった。そしてまた、じわりと涙が滲んでくる。
慣らすために上げていた腰は落としてしまったが、顔を上げられずにゆるく抱きついたままの体勢なので、先ほどと同じように、自分の手で拭うのではなく、目元を相手の肩に押し付けた。ちょっと滲んだ涙を拭うだけだから、べちょべちょに濡らすわけでもないし、そもそも相手が着てるのはホテル備え付けの部屋着だ。
「もうさ、ほんっと、危惧した通りの面倒臭さなんだけど」
「うるっせぇ」
「で、面倒くさいって言われて、また泣いちゃってんの?」
「うっせぇって。てか、また、ってなんだよ」
「慣らしてる間も、泣いてるみたいな気配あったし、人の肩で涙拭いてるのもわかってたし、バカだなぁって思ってたよ」
呆れきった声に、どうしようもなく次々にじわじわと涙が溢れてくるから、このままだと目元を押し当てた場所をべちょべちょに濡らすかも知れない。
「お前、なんなのっ」
バレてるならもういいやと、隠す気もない声ははっきりと涙声だった。
「なんなのって、なに」
「優しくしろって言ってんじゃん。俺を泣かして、楽しいのかよ」
バカみたいな我儘を押し付けている自覚はあって、でももうどうしていいかわからない。相手を詰ったところで苦しくなるばっかりなのに、涙も言葉も止まらない。
「だから優しくしてたでしょ。でも優しくしたって、結局バカなことばっか考えて泣くじゃない」
「バカバカ言うなっ」
バカって言われるたびに辛くなる。辛い気持ちももう抑えられなくて、言われなくてもわかってんだよと怒鳴りたかった声は、情けないほど力のない泣き声だった。もう嫌だ。
「ああもう、ほんと、何やってんだか」
やっぱり呆れた様子の声は、でも幾分優しい響きをしている。宥めるみたいに背を撫でてくれる手は、優しかった。ぐすぐすとみっともなく泣いてしまう気持ちが落ち着くのを待ってくれる気なのか、相手は黙ってそっと背をさすり続けてくれる。
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