抱かれたら慰めてくれんじゃないのかよ8

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「あのさ」
 やがてこちらが落ち着いたと判断したのか、伺うような声が掛けられた。
「うん」
「わかってる?」
 話を続けてくれていいという気持ちで頷けば、そんな問いかけの言葉が返されたけれど、何をわかっているかを問われているのかすらわからない。
「なにを?」
「優しくしろって言うから優しくはしたけど、あいつの名前なんて、一度だって呼んでないんだよね」
「えっ?」
「あいつの代わりでもいいから優しくしてくれって事は、あいつの代わりじゃなく優しく出来るなら、そっちのがいいんだろうって、思ったし。だから……」
「え、で、だから、……なに?」
 だから、で止まってしまった相手の言葉の先が気にかかり、待ちきれなくて先を促してしまう。
「だから、その、あんたの名前、呼んでたら変なこと考えて泣かずに済んだなら、ごめんね、って思って。というか、あんたが泣いてる理由を、誤解してたらしいのは、ごめん」
「誤解って?」
「あいつが結婚した事が、泣くほど辛いんだって思ってたんだけど、なんかちょっと、違うのかなと」
 なんで俺を誘ったの、と続いた言葉に動揺した。
「なんで、って……」
「本当に、俺以外、誘える相手居なかったの?」
「い、なかった」
「今までに関係持った人たちの中に、あんたが本当は誰を好きなのか知ってる人、居ないの?」
 そもそも抱かれるという方向で関係を持った人間が居ない。という事実を告げていいものかをやっぱり迷ってしまって、グゥと喉の奥に言葉をつまらせれば、相手は追求してくることなく話を続けていく。
「お金出して見知らぬ誰か買えってんじゃなくても、ただただショックで慰めて欲しいってだけなら、同じ男が好きな俺より、既に関係ある相手、頼ったほうが良かったと思うんだけど。なんでわざわざ俺を選んで、あいつの代わりにしてもいいって言ってまで、俺に優しくされたがるんだろう? とか思うと、なんか、ちょっと、ねぇ?」
 ねぇ? ってなんだよと思うものの、バレたんだろう気がしてしまう。彼の結婚を使って、めちゃくちゃ傷ついてるふりをして、この男に慰めのセックスをねだっただけだという事実に、多分きっと気付かれた。
「否定しないと、俺の都合がいいように、勝手に解釈するけど」
「な、なにを、だよ」
「あんたが俺を好きで、俺に抱かれたくて、誘ってきたのかも、って」
 ああほらやっぱり気付かれてる。どうしよう。どうすれば、いいんだろう。そうだと肯定してしまっても大丈夫なのか、何が何でも違うと否定しておいたほうがいいのか、判断がつかない。だって認めてしまった先で、またバカじゃないのなんて呆れた声で言われたらと思うと怖すぎるのに、でも認めたらそう言われそうな気がしている。
「否定しないと、そういうことにするけど」
「意地が、悪い……」
「そんなことはないと思うけど。というか、俺の意地が悪いと思うのは、あんたがバカで、色々見逃しすぎなのが原因なんじゃないの」
「だーかーらっ!」
「また泣いちゃう?」
「泣かねぇよっ」
 からかい気味に泣くのかと問われて、さすがに否定した。苛つくまま発した声はかなりきつい口調で半分くらい怒鳴ったみたいになったけれど、もちろん相手が動じる様子は欠片もない。
「別に泣かしたくてバカって言ってるわけじゃないんだけど、言いたくもなるこっちの気持ちもちょっとはわかって欲しいというか、俺の都合のいいように、って言った部分、ちゃんと理解できてる?」
 俺の都合がいいように、というのを強調されて、確かにそう言っていたのは覚えているけれど、何を理解しろと言われているかはわからなかった。相手がバカバカ言いたくなる気持ちを、多少は理解してやるべきかもしれない。
「理解、って?」
「ほらやっぱりわかってない」
「あーもう、うっせぇ。どうせバカだよ。で、なんだよ。勿体ぶらずにさっさと言えって」
 だからさぁと酷く嫌そうに口を開いた相手が、その嫌そうな口調のまま、あんたが好きだよって言ってんだけど、なんて続けるからちょっと意味がわからなかった。

続きました→

 
 
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