キスなんて慣れた行為ではあるけれど、それでも今日はなんだかやたらと長い。なんでだと、快感と酸欠が混ざって鈍くなった頭で考えてみるが、もちろんわかるはずがなかった。
「しつこくねぇ?」
「そうだね」
キスの合間にどうにか告げた言葉はあっさり肯定されたけれど、理由は教えて貰えないまま、また唇が塞がれてしまう。
「んぅ、……ん、……ちょっ、と」
さすがに続けざまに何度も口内を貪られた息苦しさで、相手の胸を押しながら顔を背けた。大きく呼吸を繰り返す間にも、押しのけたはずの相手の顔が寄せられて頬や耳に唇を押し当ててくるから、やっぱりなんだかいつもと違いすぎる。
「おいっ、ちょっ」
耳朶を食まれてちゅっと吸い付かれると、ぞわぞわとした何かが腰を這う。
「ぁあっ」
耳裏の付け根にも柔く吸い付かれて、広がるぞわぞわに肌を粟立たせながら声を漏らした。幾分高く跳ね上がった声のトーンが恥ずかしい。
「気持ちぃ?」
「てより、くすぐっ、ぁ、ぁっ、やっ」
「逃げ出したり暴れだすほどくすぐったいわけじゃないなら、気持ちいいのと大差ないよね?」
まぁ確かに、どちらかといえばくすぐったい寄りではあるが、そこに気持ちいい要素がなければ大人しく弄られ続けはしない。もちろん肯定を返したりはしないけれど。
「てか、今日お前、なんかいつもと違う」
「嫌?」
「いや、っつーか、落ち着かないつーか、耳弄られながらされたことないし、集中できないだろ」
「お尻弄らないし指突っ込まないし抱かないから、他のとこ触るのは許してよ」
「他? 耳だけじゃなくて?」
「そう」
「たとえば?」
短な肯定だけが返ったので、なんとなく嫌な予感がして聞いてしまう。言わないってことは、聞いたら引いてしまうような事を言われるんだろうとわかっているが、聞かずに済ますわけにはいかなかった。
「乳首、とか」
「ち……くび……」
呆然とつぶやきながらも、とっさに両手で胸を覆い隠した。何やってんだ俺、という気持ちもなくはなかったが、弄る気満々ですと宣言した相手に晒し続ける勇気はない。
「笑うなよ」
妙な格好をしている自覚はあるが、でもそれを笑われるのは納得がいかなかった。
「んー、だってなんか、可愛くて」
「は? なんだって?」
「ねぇ、最後の思い出に抱かせて、ってのは諦めるから、抱く手前まではさせてよ」
「抱く手前って?」
可愛いとか聞こえたのは幻聴ではないはずだが、逸らされた話題の先も気になって追求せずに居られない。
「性欲処理目的で、互いの興奮煽りまくってさっさとイッて終わる感じじゃなくて、もうちょっとイチャイチャした感じのことしてみたいっていうか。前戯? 愛撫? 穴には触らないから、他のとこは触らせてって、そういう意味なんだけど」
前儀って言ったらやっぱ胸弄るのは外せないと思うんだよね、と続いた言葉は、どうやら先程たとえとして出した他の場所が「乳首」だったことの説明らしい。説明の意味は理解できるのに、何を言っているのかわからない、という気持ちでいっぱいだった。
「なんで今日になって突然、そんなこと言い出してんだよ。だって今まで、イチャイチャしたいとか、そんなの、全然なかっただろ」
「だって最後だから。抱かせてくれるなら、痛くないようにとか気持ちいいように考えるのでこっちも余裕ないだろうし、イチャイチャまで求めないけど、でも抱いたって思い出が残るでしょ。抱くの絶対ダメで最後に何か思い出に残るようなことって考えたら、イチャイチャしたいなって」
「なんだよ、それ……」
言葉はちゃんと聞こえていて、相手の言い分も理解できるのに、やっぱり何を言われているのかわからなかった。というよりも、わかりたくないだけかも知れない。
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