卒業後に初めて顔を合わせたのは実家に戻っていた年末で、ほぼ一年ぶりと言っていい再会だった。メッセージアプリでの互いの近況報告などはそこそこしていたものの、どうにも顔を合わせるのを躊躇って、自分が逃げてしまっていたからだ。
卒業後にまであんな関係を続ける気はない、というのは相手も了承していたけれど、あの綺麗な顔を前にして誘うような素振りや言葉を掛けられでもしたら、拒みきれる自信がなかった。
それを今回、迷いながらも会うことを了承したのは、先日とうとう彼女が出来たからだ。自分自身の倫理観を信じているし、恋人という存在があれば、仮に相手の誘惑があっても拒めるだろうと思った。
それは相手にも報告済みで、祝いのメッセージを貰ったし、先程彼自身の口からもおめでとうを言われた。なんの含みもない、というよりは本気で祝ってくれているのがわかる笑顔に、拍子抜けのような、安堵のような、そのくせ落胆だったり不満だったりの気持ちもあって、なんだか胸の中がぐちゃぐちゃで気持ちが悪い。
気持ちが悪いのは、飲みすぎてる酒のせいとも言えそうだけど。
「ちょっと飲み過ぎじゃない? ほら、お水来たからこれ飲んどきなよ」
先程追加注文するのに合わせて頼んだ水のグラスが運ばれてきて、受け取ったそれを相手が差し出してくる。素直に受け取り一息に半分ほど飲んだけれど、そんなのは焼け石に水のような気もする。胸の奥は以前、もやもやむかむか気持ちが悪い。
「お酒飲んでて機嫌悪いの珍しいよね。幸せ絶頂で、ノロケ聞かされまくる覚悟で来たのに」
まるでそのノロケを聞くのを楽しみにしていたと言わんばかりに笑われて、頭がクラリとする。
「聞きてぇの?」
「ノロケを? そりゃあ、気にはなるよね。だってずっと欲しがってた初彼女なわけだし、彼女が居て楽しいって話、いっぱい聞きたいって思うよ」
相手はニコニコ笑っていて、多分きっと本心なんだろう。
彼女が出来た時の報告がテンション高めだったのは認める。そしてまだその報告をしてからそこまで日が経っていないのも事実で、そのテンションのままあれこれ聞かされる覚悟をしていたというのはなんらオカシクないのに。
一緒になって初彼女が出来たことを祝ってくれようとするこの男は、間違いなく、いい友人だった。でもそれを素直に喜べていないのも事実だった。
「それより、お前の方はどうなんだよ。恋人、作んねぇの?」
相手の近況報告には恋愛がらみとはっきりわかるようなものはなかったが、誰かと一緒に出かけたのだろう写真は何枚か貰っていた。
どこそこのお店で食べたなんとかって料理が美味しかった。みたいな写真には、向かいに座っている人物のものだろう料理が写り込んでいたりするのだから、これはもう察するしかない。
「デートとかはしてるんだろ? あれって恋人じゃないの?」
「え? 何の話?」
「時々送ってくる美味しそうな料理の写真。あれってデートの時撮ったやつだろ?」
相手の皿写ってるし、という指摘に、相手は少し驚いた後、あれはそういうのじゃないよと言う。
「相手、家族だったり、仕事関係だったりが主だもん」
相手がそう言うのなら、多分嘘ではないんだろうけれど。でもそれと恋人候補が居ないかどうかは全く別問題でもある。
「へぇ。で、恋人は? それとも俺みたいなの見つけて気楽に解消してる感じ?」
けっこう酔っていたからか、相手の気配が変わったことにはすぐには気づけなかった。相手の返答がないことに気づいて、相手のニコニコ顔から逃げるように見つめていた手元のグラスから視線を上げれば、相手がジッとこちらを見つめていた。
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