相手の恋人絡みの話題は地雷だったのかも知れない。大学時代だって、お前がその気になりゃすぐに彼女なんて出来そうなのに、程度のことは口に出していたが、それ以上を追求したことはない。というかあれだけ一緒にいたら、恋人の有無なんて聞く必要がない。
自分以外の男友達にも手を出してるのかな、と考えたことはあるが、仮にそういうことがあったとしても、それは継続的なものではなかったと思う。そんな相手がいれば気づいたはずだからだ。
それくらい、大学時代の彼の生活の中心は自分だった。側に居たら大学卒業できそうだから、なんて理由を聞かされたことはあるし、実際彼の苦手な部分を手伝ったりもしたけれど、自分が居なければ彼の卒業が危うかったとも思えない。大学時代の彼ならば、自分じゃなくたって他に手伝ってくれる誰かを見つけられたはずだ。けれどそれ以外の意図については結局探らなかったし、彼のくれる快楽を対価として、それを受け入れていたのは自分なのだけれど。
こちらを見つめる相手の表情はわかりにくく、怒っているようには見えないが内心どう思っているかはわからない。だからか、焦る気持ちよりも懐かしさが勝ってしまった。酔ってたせいもあるかも知れないが、こちらも相手の顔をただただ見つめ返してしまった。
だってこの顔を知っている。高校時代の彼はいけ好かない孤高のイケメン扱いだったが、感情が読み取れないこの無表情感というか無愛想加減が、その頃と同じだった。あの頃、こんなにマジマジと見つめたことはないけれど。
大学に入学したら、本当に同一人物かよ、と思うような変貌を遂げてしまったし、その彼と4年も共に過ごしてきた上に、高校時代なんてさして仲が良くもなかったのに、こんなにも懐かしいのがいっそ不思議だ。
「あっ……」
思い出すと同時に、言葉が漏れた。
「おふくろさん、元気にしてる?」
「へっ?」
突然の話題変換に相手は虚をつかれたようで、無感情だった顔に表情が戻る。その顔を見て、何を言っているんだろうと思ってしまった。ついさっきまで大学時代と変わらないにこやか顔を見てもいたのに。
無表情顔を見ても焦らなかったのに焦ってしまう。
「あ、いや、なんか高校の時のお前と同じ顔してて、だから、もしかしてまた家族に何かあったのかも、とか、つい。てかお前、さっきまで笑ってたのに、なんでそんなこと思ったんだろ?」
ごめん酔ってる、と酒のせいにしてしまえば、相手も気まずそうにしながら曖昧に頷いている。
「母は元気。それと、次の相手なんて、そう簡単には出来ないよ」
「え?」
「恋人は居ないし、恋人になりたいって思うような相手もいないし、気楽に解消するための特定の相手なんてのも居ないし、作る気もないよ」
「え、あ、そう……なんだ。って卒業してから誰とも?」
「そ、いうわけじゃ、あー……できれば今のは聞かなかったことに……」
言葉の途中でハッとしてそんな事を言い出した相手は、ますます気まずそうだった。
「別に、隠すことないだろ」
「いやだって、特定の相手は作る気ないって言った側から、やることやってますってのは、ちょっと……」
「お前が相手なら、遊びだろうと一度きりだろうと抱かれたいって女が居たって全く不思議じゃないし、男はわかんないけど、でもまぁ、居ても驚きはしないって」
そうだ。全く不思議はないし、彼がそれを受け入れたのだとしても、それを咎める立場ではない。でも、胸の奥がギュッとなってムカムカする。それはダイレクトに胃に響いたようで、せり上がってくるものを感じてとっさに口を手で覆った。
「わり、ちょっとトイレ」
吐きそうな衝動をどうにか抑えて立ち上がる。こんなところでぶちまけるわけにはいかない、という理性は残っていた。次の衝動が来る前にと、慌ててトイレに駆け込んだ。
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