イケメン相手にこんな関係になる予定はなかった57(終)

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 学生時代、頑なに相手を好きになんかならない、という態度をとっていたのはこちらで、結果、彼女相手に勃たずに振られるような目にあった以上、あまり人のことを言える立場でもない気がするが、何やら相当こじらせている。
 ちゃんと気持ちよくなったとはいえ、相手を受け入れていた体は疲れていたので、起き上がらずに空いたスペースをポンポンと叩いて相手を誘う。
 話しながらゴムを処理していたのを見ていたし、こちらの腹の上は相手がまだ繋がっていたいだとか言い出す前に、相手が拭いてくれる気配を感じていたし、多分このまま寝てしまったってそう問題にはならないはずだ。
 大人しく隣に身を横たえた相手にこちらからも身を寄せて、ぎゅっと抱きしめてやる。
「お前が、そこまで俺を好きだとは思わなかった」
 こちらの想像よりずっと想われていたらしいのはかなり思い知ったつもりでいたが、それでも足りないほど、相手の想いは強いらしい。
「そういうのはもっと早く言っとけよ」
 なんで在学中に口説いてこなかったかという理由は聞いたが、それでもやっぱり、そんなに好きなら言えば良かったのにと思ってしまう。
「だって、久々にできた友達、失くしたくなかったし」
「それは聞いたけど」
 好きだと言って頼み込んで付き合っても続けられると思えず、だったら友人として付き合い続けたかった、というようなことを言っていたのは覚えている。
「好きになっちゃって申し訳ないな、とか思ってたとこも、あったし」
「それは初耳。てか申し訳ないとか思ってたのかよ」
「だって彼女欲しがってたの知ってるのに、邪魔したりも、したし……」
「それも初耳なんだけど」
「言えるわけないでしょ。てか他の男友達には彼女が出来るようにあれこれ協力すんのに、おかしいと思わなかった? 俺がひっついてるせいで、むしろ女の子に邪魔者扱いされたじゃん」
「あれってわざとだったのかよ」
「ごめん……」
「いや別にいいけど。そもそも、お前が俺に大学卒業させて貰うつもりで同じとこ通う、が現実になった時点で、大学で彼女出来るなんて思ってなかったし」
「そういう面倒見いいとこに付け込んでる自覚あったし、気持ちいいからまぁいいかみたいに思わせて、ちょっとずつさせて貰えること増やしたし、さっき気持ちぃ顔が作れるって言われたけど、それだって、俺のそういう顔が好きっぽいって思ったから利用してただけだし、なんかもう、後ろめたいことがいっぱいありすぎて」
 もともと顔なんて見えていなかったが、隠れるみたいに肩口に頭を擦り付けてきた相手が、すがるみたいにギュッと背を抱き返してくる。
「呆れたよね。恋人になれて凄く嬉しいのに、すぐ捨てられそうで怖くて、俺、なんかめちゃくちゃみっともないこと、してる」
 お願い嫌いにならないで、なんて、そんな不安は全く必要がないのに。
「嫌いにならないし、捨てたりもしないっての。てかお前、俺が今日、なんて言ってお前誘ったか覚えてる?」
「え、っと……俺が相手なら勃つか試したい、ってやつ?」
 まぁそれも間違いではないんだけれども。
「じゃなくて、責任取れよって言ったやつ。取ってくれんだろ、責任」
「それは、もちろん。取らせてくれるなら」
「取れ。お前にしか反応しなくて、お前となら気持ちぃこと出来るのわかってて、なんでお前を捨てるなんて選択があると思ってんだよ。って、あー、こういう言い方するからお前、不安になんのか?」
 これじゃあ、肉体的な欲求から仕方なく相手を選んだ、と言われても仕方がない。
「好きだよ。ちゃんと俺も、お前が好きだ。お前が思った以上に俺を好きで、めちゃくちゃ安心してるくらいには、お前のこと好きだから。だからお前も、お前が思ってる以上にちゃんと俺に好かれてるんだから、もうちょっと安心しろって」
 フフッと笑う息が首に掛かる。縋るみたいに抱きついていた腕の力が緩んで、しみじみとした声が、そうなんだ、と呟いた。
「安心したら、なんか眠くなってきたかも」
 気が抜けた声からも、その後に続いた小さな欠伸からも、相手の眠気が伝わってくる。
「寝ていいぞ。俺も、疲れてるし」
「でも、片付け、とか、体冷えたりとか」
 最低限汚れは拭いた、程度の有様なのはわかっているし、空調を効かせているので部屋のなかはまぁまぁの涼しさだし、部屋の明かりはあちこち点いたままだし、寝るならちゃんとベッドに入ったほうがいいのはわかる。だとしても。
「くっついてりゃ寒くないし、このまま朝までじゃなくて、ちょっと休憩ってくらいなら問題ないって」
「ん……」
 眠気に抗えなかっただけかもしれないが、黙ってしまった相手からは一定の穏やかな呼吸が漏れてくるから、間違いなく寝落ちている。安心したと言ってからの寝落ちに、こちらだって少なからず安心している。
 その体を再度しっかり抱え直して、こちらもそっと瞼を下ろす。疲れと安堵とが混ざり合って、眠気はすぐにやってきた。

<終>

長々とお付き合いありがとうございます。ようやくエンドが付きました。
後半特に、ペースアップできないままダラダラと書き続けてしまって、気づけばかなりの文字量です。このダラダラに呆れず最後まで読んでくださって、本当にありがとうございました。
近日中に目次ページを作ってpixivへの投稿もしようと思っていますが、新しいお話の更新は5月6日(金)からになる予定です。

 
 
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