「俺が、というかこの家庭教師って、この生徒のこと好きになっていいの?」
「えっ!?」
「あ、やっぱダメなのか」
あまりに驚かれてしまったから、そんな展開は予定されてないらしいと悟る。なのに。
「いや待って。え、待って」
「なんでそんな焦ってんの?」
「いやだって、好きになってくれる可能性なんか、あるわけ?」
だってさ、と続いた言葉は、この生徒がどれだけ自己中で、自分勝手に想いを押し付けるだけですらなく、その想いを理由にしてどれほど酷いことをしているかという説明だった。この物語を作った本人がそれを言うのか、というツッコミをしていいのかはわからない。
「なのに、こんな男、好きになったりする?」
「そう言われるとちょっと迷う」
「迷うんだ。てかどんなとこが好きになれそうなの? そこ、めちゃくちゃ興味あるんだけど」
「好きっていうか、脅して好き勝手してるように見えて、なんか、ちっとも楽しそうじゃないとこ、とかは、気になってる」
「えっ?」
「いや、撮影中には気づかなかったし、声だけ聞いてると楽しそうなんだけど。でも映像で見ちゃうとそうでもなかったというか、なんか、辛そうで。あと、何がそんなに好きなのかわかんないけど、めちゃくちゃ執着してるのはわかるし、あの、ちょっとだけ、羨ましいなって思ったりもしたから」
さっき映像を見ながら胸の奥が痛んだのは、いいなぁと思ってしまったからだ。こんなに執着されて、想われてて、このまま彼のものとして生きていく未来が待っている、画面の中の自分を羨んでしまった。
時系列がメチャクチャな撮影をされたから、脅されて酷い目にあっている、という感覚がかなり薄いのは認める。それと、相手が彼だから、という部分だって間違いなく大きい。
もし初めましてな男優さんとの絡みだったら、もしくは、本当に顔見知り程度の相手に脅されて好き勝手弄られて開発されているのだったら、こんなに想われて羨ましい、なんてことは思わなかった可能性は高い。
もちろん、辛そうな顔を見て、好きになってあげられないのかな、なんて考えることもなかったと思う。
「羨ましい?! って俺が?」
「いや生徒じゃなくて」
「てことはやっぱ自分の役がってこと? え、嘘でしょ」
「そんな、驚かなくても……」
「じゃあ例えば。例えば、だけど」
もし彼がこちらの弱みを何か握って脅して関係を強要し続けても、それを好意的に受け入れて、更には彼を好きになるのか。という問いを、随分と食い気味に投げかけられて驚いてしまう。
これに頷いたら、本気で実行する気がありそう。なんて疑いたくなる程度には、真剣な顔と勢いだった。
「えっと、この生徒くらい、本気なら」
「本気って、何が何でも、どんな手を使ってでも、手に入れてやる的な本気があればいいってこと?」
「まぁ、そうかな?」
「マジ、で……」
「あ、いや、」
「え、どっち? 有りなの? 無しなの?」
大事なことが抜けていると気づいて否定しかければ、それだけじゃなくてと続ける前に、やっぱり食い気味に回答を急かされる。
「あの、ちゃんと俺を好きなら、ってのと、あとその、簡単に捨てないでくれる、なら、有り」
「ねぇあのちょっと待って。え、ちょっと凄い想定外の返答きたんだけど」
えええと動揺激しい相手の反応に、ちょっと何が起きてるのかわからなかった。
「あのさぁ、春に家誘った時、暫く恋人要らないって言ってたよね? 恋人は欲しくないけど、支配してくれるご主人さま的な存在は欲しい、みたいな気持ちはある、ってことでいい?」
「は?」
「え、違うの!?」
本気で驚かれたらしいことに、こちらも驚く。なんでそんな話になっているのか、やっぱりちっともわからない。
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