ただ、ご主人さまが欲しいなんて欠片も考えたことがないけれど、だからといって、恋人が欲しくなっているわけでもなかった。恋人どころか体だけの相手すら探す気になれずに相当ご無沙汰だったのは事実だ。
じゃあ恋人作ってもいいかなって気持ちになってきたのかと問われて、正直にそれを伝えれば、またしても相手は強い衝撃を受けたらしい。
「え、じゃあ、春に俺とヤッたのが最後?」
「そうだね」
「ええええなにそれぇ」
驚くと言うよりはなんだか嘆かれている。なんでこんな反応をされるんだろう。まるで会わずにいたこの数ヶ月、他の人とヤッていなかったことを責められてでも居るようだ。
「え、ごめん。何か問題あった?」
「違う。もし問題があったとしても、謝るのは俺の方。てかそんな状況なのに、今回応じてくれたのは約束してたから? 約束破れないとか考えちゃって断れなかった?」
ああ、なるほど。見た目は撮影用で、中身は真面目と思われているせいか。あの反応は、この撮影を誘って良かったのかという、彼の葛藤的なものの表れらしい。
「いや。そんなことないよ。協力依頼の連絡貰って嬉しかったと言うか、楽しみだなって思ったし。どうしようとか、断れないかな、なんてちっとも考えなかった」
「ねぇそれ、俺との絡みを楽しみにしてくれてた、って意味に取っていいの?」
「そうだけど。てかそれ以外に何かある?」
「いや、うん、そうなんだけど。そうなんだろうけど。なんていうか……」
「なんていうか?」
困ったような照れたような様子で口元を覆い隠してしまった相手に首を傾げつつ、先を促すように相手の言葉を繰り返した。
「期待しそうになるんだけど、でも恋人は要らないんだよね?」
「期待? って、あー……」
何の期待だと思いながら口にしたものの、すぐに予測がついてしまって思わず次の言葉を探してしまう。そんな中、相手がこちらの手を取って、じっと真っ直ぐに見つめてくるからドキリとする。
「好きです。俺と付き合ってください」
あ、本当に言った。
想定内の言葉ではあるものの、まさか今この場所で、本当にそれを口に出すなんて思わなかった。
「えっと、本気、で?」
「本気。って言ったら、検討してくれるの?」
恋人要らないんでしょと続いた言葉に、確かにそうなんだよねと思ってしまって、返す言葉が見つからない。
「じゃあ、なにか弱み握って脅して俺のものにしちゃったら、俺を好きになってくれる?」
黙ってしまえば次にはそんなことを言われて、またしても、本当に言った、と思った。さっき、本気で実行する気がありそうだと思ってしまったのは、どうやら正しかった。
「こんなのフィクションで、物語で、実際には出来っこないって思ってる?」
「逆かな。本当にやりそう、って思ってる」
「そりゃだって、羨ましいだの、好きになっていいのかだの言われたら、実行してみる価値高すぎだもん。脅せそうなネタだって、いくらでも思いつくし」
知られたくなくてこの髪なんでしょと言われてしまえば否定は出来ない。
「ちゃんと時間かけて、俺じゃないと相手できないような、そこらの男誘って抱いて貰っても満足なんか出来ないような体に、躾けちゃおうか」
「ああ、そういう……」
「あのさ、自分がそうされるかもって思って聞いてる?」
「あ、ごめん。あの生徒って、そういうつもりで俺を、というか先生を開発調教してたんだ、みたいなこと考えてた」
「だよね。だと思った。で? そんな男を、好きになってくれるの?」
「好きになっていいなら」
「そんなの、好きになって欲しいに決まってんじゃん」
「うん。わかった。で、俺たちはどうしようか?」
「あ、俺たちの話にも戻ってくれるんだ」
わざとスルーしたのかと思ったと言うので、先延ばしにしたら本気で実行する気なんだろと指摘してやる。話がズレてもあっさり応じたのは、むしろ曖昧なままの方が都合が良かったからだろう。
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