可愛いが好きで何が悪い11

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 もともとそう長く実家に滞在する予定ではなかったし、結局花火以降は直接会うこと無く夏休みは終わってしまった。
 姉からはあの日何かあったのかと探るようなメッセージが届いたが、当然、忘れていいと言われた告白のことなど言えるはずもない。彼の何が姉に疑惑を持たせたのか聞くのはヤブヘビになるのが見えていたので、兄妹で迷子になってた子供らの親を彼の活躍で見つけたことと、ありがとうを言われてかなり興奮していたことだけ返しておいた。
 まぁ、当然本人からも聞いていると思うけれど。案の定、それは聞いたと返ってきたけど。
 久々に顔をあわせるとなると、なんだか少し緊張する。忘れていいの言葉通り、あの後もポツポツとやり取りしているメッセージは何事もなかったかのように今まで通りだけれど、顔を見ても今までと同じように振る舞えるかわからない。
 親しさを隠している大学内はいいとしても、泊まりに来られたら意識せずにいられる自信がなかった。けれどどうやらそれは相手も同じだったらしい。
 気づけば夏休み終了から2週間が過ぎていて、その間一度も相手は泊まりに来なかった。
 むしろその態度が意識されてるようで、だんだん逆にむず痒い。かといってこちらから突付くのも、やっぱりヤブヘビになりそうで迷っていた。
 そんな中、お願いがあるんだけどというメッセージが届く。内容によると返せば、いくらか払ってもいいから教科書類や衣類を置かせて欲しいという。どういうことかと思ったら、どうやら複数あった寄生先を減らしている最中らしい。
 そういや自宅にはあまり帰っていないようなのに、あちこち泊まり歩いても講義には問題なく出席していた。それをあまり疑問に思ってはいなかったので、当然、複数の寄生先に教科書やら衣類やらを分散して置いていたなんてことにも気づいていなかった。
 うちに持ち込まれたのは、自分で用意しろとこちらが要求した布団くらいで、部屋着を貸したりはしたが基本彼の私物を自宅に置いていかれたことがないのも大きい。
 寄生先を減らした結果が、うちに纏めて荷物を置きたいになるということの意味を、これはやはり聞かなければならないだろうか。というかこれに許可を出してしまったら、相手に脈アリって思われるんじゃないのか?
 メッセージ画面を見つめながら迷うこと数分。ちょっと一回うちに来いと、送ってしまった。


「俺まだ預かるってOK出してないよな?」
 今から行くという返信から30分近く経って訪れた彼は結構な大荷物を抱えていたので、開口一番、驚きと不信感の混ざりあった不機嫌そうな声が漏れてしまう。
「それはそうなんだけど、でも許可もぎ取るつもりで来てるし」
 お願い取り敢えずあがらせてと、疲れた顔で頼まれて追い返せなかった。
「で? 俺はオトモダチとして、金もらって協力、って立場と思っていいのか?」
「もちろん。それ以外に何かある?」
 しれっと肯定されてしまって、おや? と思う。あの告白は本当になかったことになっていて、自分が考えるのとは全然別の理由で、寄生先を減らしている可能性に気づいてしまった。
 だとしたら、お前俺が好きで女関係切ってるんだろう、なんてのは、自意識過剰を晒すだけでしかない。それは絶対に避けたいし、慎重に話を進めなければと気持ちを引き締める。
「お前の顔の広さ利用させて貰ってる自覚あるし、友人として協力するのが嫌だとは言わないけど、でも、今まで上手くやってたんだろ? なんでわざわざ親切なオトモダチ切って、うちに荷物運びこもうとしてんの?」
 こちらが勝手に寄生先と思っているだけで、実際彼が寄生先などという単語を使ったことはない。当然、こちらも彼とのやりとりで寄生先と使ったことはなかった。
「何かしくじってトラブったとか、切ったんじゃなくて切られたとか?」
 うちにお前の女関係のトラブル持ち込まれるのは嫌だぞと釘を差してみれば、少し考える様子を見せはしたが、トラブルはないと否定する。
「いや、トラブっては居ないよ。円満に関係解消してる。はず」
「本当かよ?」
「まぁ元々俺が下半身ゆるゆるなのわかってての、相互利用みたいなもんだったし。健全な夏を満喫しすぎてその気にならなくなって、俺が返せるものなくなったら引き上げるしかないよね、みたいな」
 やっぱり代価はセックスだったんだなぁと思いはしたが、さすがにそこを突っ込む気にはなれない。ただ、その気にならなくなった、というのは気になってしまう。
「俺が下半身だらしないって言ったの、もしかしてまだ引きずってるのか?」
「んー、どっちかって言うと、夏バイト中、女の子のお誘い全部断ってもそれで特に何の問題もなかった、ってのが大きいかな。なんかずっと、断るより応じる方が面倒ないって思い込んでたみたいで、でも実際は全部断って誰とも何もなしのが快適って気づいたっていうか」
 最初に断る口実くれたことには本当に感謝してる、などと言われて、応じる方が面倒がないと思い込むくらいにモテまくってきたことを、なんだか哀れに感じてしまう。こいつを見てるとどうしても、顔が良くて羨ましいとか、モテて羨ましいという気持ちよりも、顔がいいのも大変だなという気持ちにさせられる。
「なら、俺みたいに、金渡して荷物預けようとかは考えなかったわけ?」
「いやぁだって俺と何もないなら、新しく彼氏とか作りたいかもしれないじゃん。そこにいつまでも俺の影があるのどうかと思うし」
「じゃあ、俺以外の男友達に金渡して荷物預けるのは?」
「んー……俺、男友達もいないわけじゃないけど、お前はちょっとその中でもかなり特殊というか」
「特殊?」
「あー、ほら、学科の女子とかほぼ眼中ないっていうか、夢の国とそこのプリンセスに夢中で俺がモテるとか顔がいいとかあんま気にしてないっていうか、学業的な意味で俺の顔の広さを利用する気はあっても、俺の側にいれば自分にも女の子と仲良くするチャンスがみたいなの全然考えてなさそうなとこが、さ」
 そういうところがかなり特殊な友人で、どうやら頼み事がしやすいらしい。まぁ確かにその通りではあるし、むしろ彼狙いの女子に目をつけられたくないから、なるべく親しいことがバレたくないとまで思っている。
「わかった。荷物は預かってもいい。けど話せる範囲でいいから、家に帰りたくない理由話せよ。遠いからってだけじゃなく、他にも何か理由あるんだろ? いくら払ってもらうかは、その理由聞いてから決めたい」
 一切言えないなら月5万なとふっかければ、相手は嫌そうに眉を寄せる。
「それってつまり、俺に何か、同情されるような可哀想な事情があれば安くするって意味だよね?」
「まぁそうなるな。てか遠いの面倒なんだよね〜がもう信用なんねぇよ。女の子のとこ渡り歩いてるのも、特別好きでやってたわけでもないなら、よっぽど何か嫌なことが実家にあるんじゃないのか? 家帰れない、でも一人暮らしさせても貰えないで、友人に金払って荷物置かせて貰うなんて生活を、これから後3年以上続ける気なのか? 同情されたくないとか弱み握られたくないとかならそれでもいいけど、口に出してみたら解決策が見つかる可能性もあるし、一人で抱え込んでていいことなんかなんもないだろ?」
 言えば整った顔がクシャッと歪んで、でもすぐにそれを隠すように、片手で顔を隠し俯いてしまった。

続きました→

 
 
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