過去の相手は女性だけだと思っていたが、もしかして男とも経験があるんだろうか。なんてことを霞む頭の片隅で考えるくらいには、相手の手に迷いがない。
キスは男女関係ないかも知れないが、男を知らない相手に触れられて、ここまで簡単に気持ちよくなれるとも思えなかった。
相手のドレス姿にこちらの反応が色々と鈍っているのを好機と捉えて、相手が快楽という手法で落としにかかってきているのはわかるが、取り敢えずやってしまえばどうにかなる的に考えているのだとしたらガッカリだなとも思う。
体の熱は相手の思うがままに高められて行くのに、気持ちだけはどんどんと冷めていく気がする。それに合わせて快楽に抗うのを止めてしまえば、相手はうっとりと笑って、やっと受け入れてくれる気になったの? などと言う。
「ばぁか」
「ひっど」
「なんかもう面倒くせぇわ」
「えっ?」
好きにしてくれと言う気持ちのまま吐き捨ててから口を閉じれば、相手はやっと慌てだす。
「え、えと、ちょ……あの、……そんな、嫌だった?」
オロオロと戸惑ってから、今更そんなことを聞いてくる。
「気持ちは良かった」
「だよね??」
肯首しながらも、相手の頭の中はきっと疑問符でいっぱいだ。
「なぁ、忘れていいって言ったの、お前だよな?」
忘れられなくても忘れたことになっていて、なかったことになったはずだったから、この2年近くを友人として過ごしてきたのに。友人として、彼の環境を改善するための協力をしてきたのに。それをあっさり覆して、体から落として関係を変えようとしてくるそのやり方が、多分、一番気に入らない。
それっぽい言動はちょいちょいとあった上に、大学内ではそこまで親しくしていないとはいえ、2年以上も同じ学科で過ごしていれば色々と気づくやつは気づくし、余計なお節介を働くやつも居る。だから正直、付き合いたいと思っているとはっきり口に出したことそのものには、そこまで驚いてはいないのかも知れない。でも展開の速さについていけない部分は間違いなくあるし、相手の経験値を思い知らされるようなやり方は、正直しんどいなとも思う。
「あー……れは、あのときは、その、気の迷いだったらいいって、俺もまだ、そう思ってたというか、願ってた、から」
「お前がはっきり気の迷いじゃないって思ってからも、俺とはオトモダチでいただろ。今更友人やめたいって、どういうことだよって聞いてんだけど」
他人がなんと言おうと、ちらちらと想いがこぼれていようと、それでもこいつは友人で居ることをずっと選んでいたはずだった。男同士だし、更に言うなら性別に関係なく彼を恋愛対象とはしないと言ったこともあるので、友人として付き合い続ける方を選んだのだと思っていた。
「待って、待って。え、俺が本気で好きになってたの、気づいてた? え、いつ? いつから?」
「いつから本気とかは知らないけど、お前が本命出来たからって女子の誘い断ってるのは知ってる」
「ちょ、え、なんで??」
なんでもなにもないだろうと、呆れてためき息が零れそうだ。
「その本命が俺、っての、お前の友人で知ってるやつ居るだろうが」
「えー、えー、なにそれ裏切りが酷い……」
内緒って言ったのにと、ガックリうなだれてしまうから、本気で内緒が通じると思ってたのかと、今度こそ本気で呆れてため息がこぼれ出る。どちらかというと、それを知らされたこちらの反応をうかがって、多少なりとも脈があるかどうかを探っているのだと思っていたのに。
わざわざ彼の気持ちをこちらに知らせてこないだけで、多分間違いなく、姉とその友人たちだって知ってるだろうと思っていたが、つまり彼女たちは、彼の秘密にしてねを守っていただけってことか。
そういや、家庭環境の酷さや継母と関係を持ったことがある話も、全くもって秘密ではなかったことを思い出す。さすがに弟妹が自身の子の可能性が高いという話は慎重に扱っていたようだけれど、それだって知ってるやつは多分そこそこいる。なんせ、彼にとってはあのタイミングで簡単に吐いてしまう程度の秘密で、ドン引きだよねと言いつつも他者の同情を買うネタの一つ扱いだった。
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