母からはすぐに大量の写真が送られてきた。懐かしがってか、テンション高めのメッセージも頻繁に混ざり込む中、並んだ幼い自分のドレス姿にため息をこぼす。
似合ってるか似合っていないかを率直に言えば似合っていない。
顔は笑っていて満足げだし、様々なポーズを披露しているところからも楽しんでいるのは明白だが、どれもこれもなんというか色々雑だ。というか格好とちぐはぐなポーズばかりを取っている。
同じようなドレスを着て隣に並んでいる姉と比べるとなおさら顕著で、言うなればお淑やかさがまるでないのだ。
可愛いものが好きなのと、自分自身が可愛くなりたいかは全くの別物だ。ということもわからなかった幼い頃の話だし、可愛いドレスそのものにテンションが上っていただけなのもわかっている。ついでに言えば、見知らぬ男に飛び蹴りをかませる活発さも持っていた。
こんなものを今更見たくはなかったが、しかし、交換条件が初恋のリトルプリンセスの写真となれば仕方がない。
連絡先は交換済みで、先日のように講義の後に連れ立って空き教室で2人きり、などという状態は避けたかったので、さっそく相手を自宅に呼びつけた。相手がどこ住みかは知らないが、こちらは大学近くにアパートを借りているのだから問題ないだろう。人に見られたり聞かれたりするのを避けたい話題でもあるのだし。
地図アプリがあるから迎えは必要ないと返してきた相手は、約束した時間を少し過ぎてやってきた。
「オジャマします」
まともに話したのは先日が初めて、などという相手の家に招待されるのは緊張するのか、相手はどこかぎこちない。けれど部屋に入れれば、興味深そうにあちこちキョロキョロと視線を巡らせている。
「あんまジロジロさぐんなよ」
「あー、うんゴメン。でもちょっと意外で」
「意外?」
「ひとりで遊びに行っちゃうくらいなら、部屋の中もグッズで溢れてたりするのかと思ってた」
「お前が来る前に仕舞ったに決まってんだろ」
「え、なんで!?」
それは驚くようなことなのか。男の部屋にひらひらドレスを纏ったかわいらしいぬいぐるみやらが置かれていたら、普通は引くものだ。という認識なんだけど。
「それより、写真、交換するんだろ」
さっさと目的を終えようと、相手を座卓前のクッションに導いた。
「親に頼んだら結構な数送られてきたんだけど、面倒だから欲しいの自分で選べよ」
母とのメッセージのやり取りまで全部見られるのはどうかとも思ったが、わざわざ写真だけ抜き出す手間を惜しんだのと、写真フォルダにそんなものを入れたくない気持ちがあって、写真の投稿が始まった辺りを画面に映したスマホを差し出す。
「え、全部くれないの?」
「お前が同じ枚数だけ、お前の写真俺によこすってならいいけど」
「成長した俺の写真でもいい?」
「却下。交換するのはプリンセスの写真だけに決まってんだろ」
他にもあるなら見たい、という下心はもちろんある。
「コス写真、この前見せた2枚しかないんだけど」
「残念。じゃあ2枚な」
「わかったよ」
残念そうに了承を告げてスマホを手にした相手が、食い入るようにスマホに魅入っている。しかもすぐに口元がにへらと緩んでいくから、ちょっと不気味だ。
「何笑ってんだよ」
相手が見ている画像がわかっているから、そんな顔をされるとなんだかむず痒くて黙っていられなかった。
「え、可愛いなぁって思って」
「ウソつけ。ってか本気なら、お前の目、やっぱ腐ってんじゃねぇの」
「ひどっ! 俺、この前、この子が初恋だったって言ったよね?」
「マジでそいつが初恋なの? お前の目、大丈夫? あ、ヤバいのは目じゃなくて頭とか?」
「この子が初恋で間違ってません〜。てかお前こそ、なんでそんなに自分に否定的なの?」
「否定的っていうか、別に可愛くねぇじゃん、それ」
「いやいやいや。可愛いだろ」
「ドレスはな」
「ドレスはどうでもいいかな。中身が可愛い」
「どこが!?」
「めっちゃノリノリでポーズ決めてるとことか。そのポーズが戦隊物とかライダー物なとことか?」
くふふっと笑う顔は優しげで、本気で可愛いものを見つめる顔だと思ったけれど、だからこそ受け入れがたくて声を荒げてしまう。
「ちぐはぐすぎんだろ!」
母や姉からすれば女児向けアニメを見るついで、みたいなものだったかもしれないが、その流れで戦隊シリーズもライダーシリーズもしっかり見ていたのだ。中身は活発な方だったので、そちらも存分に楽しんでいたし、可愛いものが好きなのとカッコイイものが好きなのは両立する。
成長するにつれて可愛いものが好きを隠すようにはなったが、それを隠すだけで済んだのは、カッコイイものが好きって気持ちも持ち合わせていたからだろうなと思っている。
「あー、ほんと、これ、お前なんだなぁ」
「なんだよ突然」
「ほらこれとか」
そう言って差し出された画像は、ポーズを決めた全身図ではなく、顔のアップ写真だった。
「面影めっちゃある」
「え、嘘だろ?」
「え、本気で言ってる? そういや俺の写真にも、全然似てないみたいなこと言ってたな。お前こそ、目、大丈夫?」
先程の仕返しだろうか。逆にこちらの目を心配されてしまった。
「てかさ、元々お前のこと、なんか気なるなって思ってたんだよ。機会があったら、お姉さんか妹いないか聞いてみよって思ってたくらいには、初恋のあの子の関係者じゃないかって疑ってた」
「ま、じで……?」
「じゃなきゃ、名前とか把握してないって」
それもそうだ。こちらなんて、連絡先を交換する時に相手の名前を聞いてしまった。
「これ、隣りにいるのお姉さんだろ。似てるなとは思うけど、初恋のあの子がどっち、って言われたら間違いなくこっちだって言うくらいには、違う」
愛しげにスマホを見つめながらしみじみと、初恋がお前かぁ、などとと呟くように言われて、じわりと鼓動が跳ねていく。
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