気持ちの問題は大きいという部分に対して、そうだなと相槌を打てば、だから安心してねと返ってきて内心また少し首を傾げた。尻をいじって気持ち良くなれるところまでは行けなかった、という話だったのに、何を安心しろというのか。
「俺のためにお尻弄って広げて貰うけど、惨めだとか、寂しいとか、思わせないから。しんどいのはどうしたってあるかもしれないけど、気持ちいいに集中できるように手伝うし」
いっぱい感謝するし励ますし褒めてあげるね、と続いた言葉に、頭の中の疑問符が増えていく。
「あ、もちろん、無理強いもしないから。ほんと、安心して欲しい」
「待て待て待て」
「どうかした?」
「どうかしたって、お前、え、ちょっと」
混乱から言葉を探して、さして意味を持たない言葉ばかりをとりあえず連ねてしまえば、訝しんだ相手が身を離して顔を覗き込んでくる。
「動揺すごいね。珍しい」
そんな変なこと言ってないよね? と首を傾げられてしまったが、相手に自覚はなくとも、こちらには充分衝撃的な内容だった。
「いやだって、お前……その、」
「うん、俺が?」
「あー……さっきの言い方だと、その、俺の尻穴弄って広げるの、お前も同席しようとしてないか?」
若干しどろもどろになりながらも、受けた衝撃の内容をどうにか伝えれば、相手は目を瞠って驚いている。やっぱり無自覚か。
「えっ……ちょ、待って待って待って」
しばらく呆然とした後、慌てたように待ってを繰り返す。
交互に何をやっているんだか。と思ったら、少しばかり笑ってしまった。
「いやそこ、笑うとこじゃないから」
そう文句をつけながらも、どこか安堵した様子を見せているのだから、多分笑いは必要だった。
「てかお前のお尻弄って広げるの、俺を同席させないつもりだった方が驚きなんだけど?」
「はぁ? なんでだよ。そんなとこ、お前に見せたいわけ無いだろ」
「いやいやいや。恋人がだよ、抱かれてくれるための準備するって時に、じゃあ待ってるから頑張ってね。楽しみにしてるよ、よろしくね。とか、言うと思うわけ? てか逆の立場だったらお前、そんなこと絶対しないでしょ」
そんなこと絶対にしないは間違ってはいないが、だからって手伝ってやるのかと言えばそれも違う。
「俺が逆の立場なら、そこまでしなくていいって阻止して、結果、セックス自体が流れるかもな」
「ああー、そうだったぁ」
「じゃあまぁ、そういうことで。どれくらい掛かるかはわかんないけど、とりあえず、努力だけはちゃんとするから大人しく待っとけ」
あれって通販で買ったのかと、布団に転がるディルドとバイブを指して聞きながら、頭の中で、自分もとりあえずは同じものを買うべきかと考える。しかし、相手から購入先を聞き出すことは出来なかった。
「そういうことで、じゃないから。認めないから」
「認めないってなんだよ」
「一人で勝手に慣らすとか絶対無しで」
「なんでだよ。お前が俺とエロいことしたくて切羽詰まってっから、恋人として協力もするし努力もするって言ってんのに、お前がそれを阻止してくんなよ」
「協力も努力もしてくれるなら、俺に慣らさせてよ。それだって、お前にしたいエロいことの一つだもん」
言い切られて言葉に詰まった。というか若干引いた。
「そうだよ。俺がしたいの。お前が俺のために頑張ってくれるとこ、余すこと無く見てたいの。俺には慣らすところから全部セックスだから。突っ込めればいいとかじゃないから。ってわけで、俺にやらせて下さい」
こちらが引いたことには気づいたらしいが、相手は言い訳も撤回もしないどころか、そう言葉を重ねながらまたビシッと正座したかと思うと深く頭を下げる。つまり土下座だ。え、マジか。
「セックス、突っ込んで気持ちよくなれればいいスタンスじゃないのかよ」
「お前は俺の初恋相手で、どうしても手に入れたかった恋人で、特別なんだって何度言わせればわかってくれるの!?」
頭を下げた勢いとほぼ同じくらいの勢いで、ガバっと身を起こした相手が吠えた。
「ああ、うん。それは、ごめん」
その勢いに負けて思わず謝ってしまえば、じゃあ良いよねと更に詰めてくる。これはもう、どうあがいても相手に引かせるのは無理だろう。
一つ、大きく息を吐きだしてから。
「わかった」
覚悟を決めて頷いた。
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