どうにか準備を終えてバスルームを出てきたところ、バスタオルと共に彼の部屋着が置いてあって少々悩む。用意してあるということはこれを着てこいという意味かもしれないが、わざわざ着込む必要があるのかどうかだ。
自分の手で脱がせたいとか、恋人に自分の服を着せてみたいとか、そんな思惑でもあるんだろうか。
彼が泊まっていく時に部屋着を貸したことがあるから、その感覚でとりあえず用意してみただけという可能性も高い気がする。バスタオルと一緒に部屋着を置いてやったことが何度もあるから、同じように対応しただけかも知れない。
結果、下着もつけずにバスタオルを腰に巻いただけで部屋へと戻る。気が早いとか情緒がないとか言われるかも知れないが、好きに言えばいいという判断だ。
「おい、なんだそれ」
ただ、こちらの格好に何か言われるよりも、相手の格好に驚いたこちらが先に口を開く羽目になった。
「なに、って、泣いた目どうにかしろとか、萎えるとか言うから」
「だからって、なんで女装なんて……」
顔にはしっかりメイクが施されていて、さきほど布団の横に散らかっていた布の塊が、レースの下着も含めてきれいに無くなっている。
「強いて言うなら保険?」
「保険?」
「男の俺に迫られるより、女装した俺に迫られる方が弱いの知ってるから、だね。途中でやっぱヤダとか無理とか、少しでも言いにくくしたい下心」
確かに男のままの相手を前にするより、好き勝手言いにくくはなるかも知れない。見た目に引っ張られて、彼に対して甘えにくくなるとも言えそうだ。
「それと、たまには可愛い俺も披露しておきたい、みたいな」
「なんだそれ」
「だって、お前が部屋来るの避けてたから、女装頑張っても見せる機会がなかったんだもん」
どう? と言いながら、立ち上がってクルリと回る。見た目だけなら問題なく女性に見えた。
光沢のあるつるりとした長めのスカートと、首元まで隠れるふわっとしたニットのプルオーバーで、ドレスではないからガチプリンセスとまではならないけれど、先程よりも少し豪華なヘアアクセサリーを複数使用しているせいで、「プリンセスが現代コーデでお忍びのお出掛け風」ではある。
というか姉たちの協力無しで既にここまで出来るのかと、若干引くような気持ちはあるものの、率直に言えば結構凄い。
「喋らなきゃ男には見えない。てか一人でそこまで化けれるなら、充分外歩けるだろ」
確かに部屋で二人きりは避けてたけれど、だからこそ、女装してデートしたいとか言い出さなかったのが不思議な出来栄えとも言う。
「声出したらバレそうってのと、立ち居振る舞いでバレないか不安なとこはあるよね」
意識的に高めの声を出したとしても、やはり声を聞いてしまうと違和感はある。黙って立っていれば女に見える女装と、動いて喋っても女に見える女装では、そのハードルが大きく違うとわからないわけじゃないけれど。
「学科の奴らにバレて問題あるわけ? 既にプリンセス写真披露しまくってんのに?」
教授がどう思うかはわからないけれど、周りから凄いとか綺麗とか持て囃されて、注目の的になる未来しか想像できない。
「あー、うん。それは別の意味でちょっと避けたいんだよね。学科の奴らにはあんまり見せたくないっていうか、これから先も、大学に女装していくことは多分ないと思う」
「そうなのか?」
「お前にだけ見て欲しい、が正直な気持ち。お前が女装した俺を夢の国に連れていきたいとか言い出したらガッツポーズ決めるし喜んでついて行くと思うけど、でもそれ以外で出かけたいとかもないかなぁ」
女子に褒められたらきっと嬉しいけど、男に可愛いとか綺麗とか言われても萎えるだけだし、とぼやくように言われて、それはまぁそうだろうと思う。
「お前がその格好で外歩いてたら、男にナンパされそうではあるよな」
「でしょ。既にあの完璧プリンセス写真のせいで、俺を恋愛対象から外した女の子より、俺をヤレル対象にした男のほうが多いって可能性もあってさぁ」
「マジか」
ボヤかれて初めて知ったが、嘘だろとは言い難い説得力があった。
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