可愛いが好きで何が悪い36

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 即座にマジだよと返してきた相手は、俺の女装は基本お前だけのものだよ、などと続けてくる。そんなものを求めたことはないどころか、女装を頑張る方向は無しでと言ったはずなのに。
「てか恋人になってセックスもするってのに、今後もまだ女装は続けるわけ? 俺に見せるためだけに?」
 女装で迫って落とす、が第一の目的だったはずだし、そんなに金銭的な余裕があるわけでもないのだから、続ける必要はないのではという気がしてしまう。それを口に出してみれば、相手は少しばかり考える素振りを見せた後。
「だってお前、素のままの俺より、化粧した俺の顔のが好きじゃない? もっと言うなら、着飾ってる俺のが好きだよね?」
「それは俺の元々の好みに、お前が目一杯寄せてきてるからだろ」
 年季の入った可愛いもの好きに向かって、可愛い方がいいでしょと言っているのだから、否定が返るはずがない。
「それはそう」
「別に素のままのお前に迫られたって、今更嫌いになったり恋人やめたりとかしないんだから、その女装続ける必要あるか? って話なんだけど」
 ループしてないかと思いながらも再度必要ないのではと訴えてみたが、相手はやはり頷かなかった。
「素のままの俺のが良い、とか言われない限りは続けるんじゃないの。だってお前に、少しでもたくさん好きって思ってもらいたいし、使えるってわかってるものを使わないの勿体ないじゃん。お前が俺の女装にうっとりしたら、それだけで頑張る価値めっちゃある」
「よく化けてると思うし、好みかどうかで言えばちゃんと俺好みの見た目なのは事実だし、正直に言えば可愛いけど、女装したお前に迫られたりエロいことされたりを考えたら、素のままのお前のがいい気がする」
「それは追々考えると言うか、本気で素のままの俺のがいいんだなって思えたときには、止めると思うよ。だからもし俺に本気で女装やめさせたいなら、素のままお前に迫った時に、女装した時よりいい反応してねって感じかな。でもそれ、現状無理っぽくない?」
 その指摘には唸るしかない。
 言いたいことはけっこうちゃんと言えているけれど、女装した彼を前に、バカなことやってるなよとは言えていないのだ。無駄だとも意味がないとも言えてない以上、その女装に意味があることを認めてしまっているに等しい。
 小さく笑って距離を詰めてきた相手が、チュッと軽い音を立てて唇を奪っていく。
「これからエロいことするのに俺だけ着込んでるのズルい、とか言わないくらいには、この格好の俺、気に入ってるよね?」
「好みだし可愛いとはもう言った」
「うん。すごく、嬉しい。それだけでも女装披露したかいあったから、本気で素のままの俺のがいいって言うなら、化粧落として着替えてもいいよ。ちょっと時間掛かっちゃうけど」
「保険って話は?」
「お前がどうしてもって言うから着替えたのに。って訴えたら、ヤダとか無理とか言いにくくなるのは一緒かなって」
「嫌な分析だな。そもそも、途中でヤダとか無理とか泣きごという想定がないわ」
 そう言ってやれば、やっぱり男前すぎると、相手が楽しげに笑う。
 否定はしないが、男前だと言われたせいか、相手の女装に気圧されている現状を恥じるような気持ちが湧いた。見た目が好みに寄りすぎているせいで、こちらが強気に出にくい弊害はあるが、中身が彼であることには代わりがないのだ。
「男前ついでに、お前がどんな格好してようとどうでもいいかって気になってきた」
「それは男前な判断とは違う気もするけど」
「端的に言うと、さっさと始めたい」
「情緒!」
 言われると思った。けれど、思っていたよりもその単語が出てくるまでには時間がかかったなとも思う。まぁ、相手がガッツリ女装を決め込んでいたせいだけど。
「ほぼ裸で、やる気満々に出てきた相手に求めるものじゃないだろ」
「俺だって別に、今更恥じらいとか求めてるわけじゃないし、いいんだけどさぁ」
 手を取られて引かれるまま布団の上へと移動し、相手が腰を下ろすのに合わせて自分も腰を落とせば、相手の顔が近づいてくる。瞼を落として気持ち唇を差し出し待てば、すぐに唇が塞がれた。
 舌先で唇をつつかれて迎え入れれば、器用な舌が勝手知ったるとばかりに感じる場所を刺激してくる。気持ちの良さに身を任せているうちに、布団の上に転がされて開いた足の間に相手の体を受け入れていた。
 なるほど、これは手際が良い。
 経験の差というものをありありと感じながら、キスを中断して身を起こす相手の姿を目で追った。

続きました→

 
 
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