知ってたけど知りたくなかった2

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 焦るこちらがおかしいのか、フッと小さな笑いを吐いた後で弟の顔がゆっくりと近づいてくる。とても見ていられないし、キスなんかされてたまるかと、ぎゅっと目を閉じ顔をそむければ、弟の顔は首筋に埋まってそこで大きく息を吸い込まれた。というよりは、嗅がれた。
 カッと体の熱が上がるくらいに恥ずかしい。季節的に汗臭い可能性は低いけれど、問題はそれじゃない。普段決して香るはずのない、甘ったるい匂いがしているはずだとわかっているせいだ。
「泊まりにならない、恋人でもない相手とで、ちゃんと楽しめた?」
「な、なに、言って……」
「こんな匂いさせて、どっから帰ってきたかなんて聞くまでもない」
「そ、それは、でも、お前には関係な、いっってぇ」
 顔を埋めたままの首筋に齧りつかれて痛さに喚く。ふざけんなと殴ってやりたいが、両手首とも捕まれベッドシーツに縫い付けられているし、蹴り上げたくても腿辺りに弟の腰がどっしり乗っていて動かせそうにない。
 多少体を捻ったところで、何の抵抗にもなっていない。
「や、ちょっ、やだっ」
 噛んだ所を舐められて体が震える。恐怖の中に紛れもなく快感が混じっているから泣きそうだった。
「これ以上痛くされたくなかったら、ちょっと大人しくしてて」
「んなの、やだ、って」
「痛くされるのが好き?」
「アホかっんなわけなぃったぁ! ちょ、やだぁっ」
 痛い痛いと繰り返しても今度は放して貰えなかった。しかもじわじわと圧が増していると言うか、肌に歯が食い込んでくるようで怖い。
「わか、わかったから、や、やめて」
 もう従うしかないのだと諦めて訴えれば、あっさり開放されて弟の顔が離れていく。今度は宥めるみたいに舐めてはくれなくて、それを少しばかり残念に思ってしまった事が辛い。相手は正真正銘、血の繋がった弟だって言うのに。
 自分が家を出たのは、弟にこんな真似をさせないためだったはずなのにと思うと、今度こそ本当に泣けてくる。心が痛い。
 ただの仲良し兄弟のままでいたかった。離れて過ごすうちに、気の迷いだったと気付いてくれたらと願う気持ちは、どうやら叶わなかったらしい。
 目元を腕で覆って泣くこちらに、弟が何を思うのかはわからない。黙々とズボンと下着を剥ぎ取られ、開かれた足の間に躊躇いもなく触れられて身が竦んだけれど、腕を外して弟の顔を確かめる気にはなれなかった。
「やっぱ抱かれる側かよ」
 小さな舌打ちとともに乾いた指先が少しだけアナルに入り込む。痛みではなく、ゾワッと肌が粟立つ快感を耐えて、歯を食いしばった。
「最っ悪」
 吐き捨てるような言葉とともに指を抜かれて、あれ? と思う。この体を知られたら、これ幸いと抱かれてしまう未来しか想像していなかったのに。というか、やっぱり抱かれる側か、ってどういう意味なんだ。まるで知っていたような口振りだが、自分がゲイだって事すら家族に伝えたことはない。
「やっぱりって……?」
 気になりすぎる展開に、腕を下ろしておずおずと弟を伺えば、弟は小さなパックの封を切っている所だった。中身を手の平に出していくのを、思わずマジマジと見つめてしまったけれど、のん気に眺めている場合じゃない。
「なに、してんの」
「カマトトぶんなよ。わかんだろ」
 抱くんだよとはっきり言い切られて、じゃあさっきの「最悪」ってのは何だったんだと思う。
「俺にドン引きだったんじゃ?」
「知ってたらもっとさっさと手ぇ出してたのにってだけ」
「お前に手ぇ出されたくないから、家を出た、とは思わないの?」
「男にそんな目で見られるのが気持ち悪くて逃げた。って思ってたんだよ。でも、あんた自身が男有りなら、大人しく引き下がってられっか」
「男は有りでも、お前は無しだろ」
「兄弟だから?」
「そうだよ」
「血の繋がりなんかクソくらえ、って思ってんだけど」
「俺はそうは思ってない」
「悪いけど、それを受け入れてやる気が俺にない」
 ムリヤリされたくないなら暴れんなよと言いながら、ローションに濡れた手が伸びてくるのを、どうしていいかわからなかった。

続きました→

 
 
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